悪役転生第17話 整理
「ちょ、ちょっとストップ!
もうやめて下さい!」
ノエラの慌てた声と共に、空間転移の魔法が発動。
僕とレオナは宙に浮かび、落下して尻もちをついた。
「ッ!? 痛っった。何するのよ、ノエラ!?」
「何するのよ、じゃないでしょ!」
「ただの手合わせだって言うのに
ここまでヒートアップして!」
「本気でやらなきゃ訓練にならないでしょ!」
レオナはいつになく興奮している。
手合わせとは言え戦闘中だったので当然ではあるが、
戦いに水を差されたのがよほど嫌だったのだろう。
「全く。魔王様も、何を一緒になって
ヒートアップしているんです!?」
「あぁ、本当申し訳ない。」
僕も怒られてしまった。
手合わせとは言っても、最初はレオナの俊敏な動きに
僕が触手(刃なし)を当てるだけの、
安全な訓練に過ぎなかった。
だが、レオナが途中で「ヌルい!」と言い、
僕への攻撃、
それもほぼ手加減なしの蹴りを入れられたことで、
僕もついスイッチが入ってしまった。
そこからはお互い、咆哮や緑毒まで出してしまい、
喧嘩同然の有様にまでなってしまった。
「すごいですね、魔王様。以前とは段違いに
強くなっていらっしゃる。」
レオナとノエラがまだ多少揉める中、
口を開いたのはゼインだった。
レオナに蹴られて以降、
これまでの疲労や心労を回復させるべく
休ませていた。
今日は手合わせ終了後、ゼインを含めた四人で、
状況整理や方針の確認をすることになっている。
「では、まず状況整理といこうか。
ネメア村の人たちは黒金に入ってもらった。」
「戦闘員や医療班、調理班などいろいろ仕事を
頼んではいるが、やはり重要なのは―」
「あ、あの、魔王様?」
腑に落ちない、と言わんばかりの顔をして
ゼインが尋ねる。
「本当にいいんですか? 確かに、
村のことも気の毒だとは思いますが、その・・・」
簡単に許していいのか? と言いたいのだろう。
財宝が返還されたとは言え、
禍根が完全に消えたわけではない。
ゼインも蹴られたことを根に持っている、
というわけではないようだが。
頭を下げようとしたレオナを制止し、
僕の考えをゼインに伝える。
「言わんとしてることは分かるよ、ゼイン。
彼女達には、ちゃんと責任を取ってもらう。」
「というか、今取ってもらっている。」
「と、仰いますと?」
「二つあってね。一つは魔獣の討伐だ。」
「魔獣、ですか?」
「ああ。国英が守らない地方では、
魔獣が暴れていると聞いてね。
僕とレオナたちで討伐することにしたんだ。」
「効率も良いからね。」
「効率?」
「そう。人間、国英相手より
魔力の吸収効率が良いんだ。」
魔獣は体そのものが魔力で構成されており、
国英とは段違いの魔力を吸収できる。
ネメア村で鎧に倒された魔獣の死骸を
吸収したことで、僕は想像以上に成長できた。
この調子なら、「進化」も時間の問題だろう。
「それに、対価ってわけじゃないけど、
助けた地域では黒金への勧誘もしてる。」
「今の世界を変えようって。
実際何人か加入してくれてる。」
「すごいですね、魔王様は。自他共に利益となる
選択肢を示して戦力を増やす。」
「自分なんかには・・・いえ、
何でもありません。」
今ゼインに影を感じた気がするが、大丈夫だろうか?
まだ疲れが残っているだけならいいんだが。
「それで、魔王様。もう一つとは何ですか?」
「・・・ああ、もう一つは、
黒金の持つ金銀財宝の売却だよ。」
「!? 売れるんですか?」
「売れるようになったんだよ。詳しくは、
レオナに説明してもらおうか。」
そう言って、彼女にバトンタッチする。
「魔王様が生み出した物も含め、仲介役を通して
外国の闇市に流すわ。国内より足が付きにくい。」
「・・・他国の闇市か。それは良いが、
信用できるのか? その仲介役というのは。」
「もちろん分散はさせるけど、大丈夫よ。」
「アイツらとは子供の頃からの腐れ縁だし、
盗賊団としてもやり取りはしてるからね。」
縋るような目をレオナに向けた後、
次にゼインは僕の方を見た。
「・・・では、魔王様。」
「ああ。おかげで借金は完済できる。
もう時間の問題だよ。」
「ようやく僕たちも前に進める。」
勿論、僕もノエラも嬉しい。
だが、ゼインの喜びは比ではなかった。
今まで相当苦しかったのだろう。
疲れた目にも光が宿り、
解放感に満ちた笑みを浮かべる。
肩の荷が下りたのだから無理もない。
「あの、喜んでる所悪いんだけど・・・」
ゼインがいよいよ男泣きまでする中、
レオナが口を開いた。
「魔王様。約束通り、私たちは仲間になる。」
「だから、忘れないでよね。あの約束。」
「勿論だよ。安心してくれ。」
「魔王様。約束とは?」
泣き止んだゼインに、僕とレオナの取引を話した。
「対価だよ。レオナたちへの。」
「魔獣の討伐や財宝の換金を手伝ってもらう
代わりに、僕たちは鎧の討伐を手伝う。」
「例の鎧兵ですね。・・・強かったですか?」
「強かったよ。僕とレオナで何とか倒したけど、
あの数と防御力は脅威だ。」
「痛覚も恐怖もない上に合体までする。
あんなのがまだ何百体といるんだとしたら・・・」
「そうね。実際うちの村の周辺は、
襲われてもぬけの殻になってた。」
「国英は気付いているのかしら?」
「どうでしょう? 気付いてたとして、
地方のことにどこまで本気になるか。 」
「それに、鎧たちがあえて地方の村を
狙っているんだとしたら、
本当に知らない可能性もあるわね。」
「魔王様、対処法はあるんですか?」
「それは問題ない。僕たちには、これがある。」
そう言って僕はある物を取り出す。
「剣、ですか?」
「うん。特に強力だった銀鎧の剣。これでなら
鎧を倒せる。吸収能力で戦闘員分は生成した。」
「最も、銀より上の個体がいるんだとすれば、
油断はできないけどね。」
「成程。・・・あの、素朴な疑問なんですけど、
鎧そのものは吸収しないのですか? 」
「そうすれば、魔王様も―」
「・・・できなかったんだよ。」
空気が不穏になる。
ゼインとノエラは目を丸くしている。
「え? できない、とは?」
「僕は生物以外なら吸収できる、筈なんだ。
だが、何故か鎧は吸収できなくてね。」
「一方で、鎧の残骸には魔力が残っていて、
そっちは吸収できる。」
「正直訳がわからないよ、あの鎧。」
皆が静まり、鎧の秘密を考える。
少なくとも、ただの金属の塊ではないことは確かだ。
生物でも非生物でもない“何か”。
だが今はそれより、
「大丈夫です、魔王様。相手が、ゲホッ、何であれ、
ゲホッ、ゲホッ・・・私が殲滅します。」
「そのくらい、やって見せないと。」
こっちの方が心配だ。
もっと休ませるべきだろうか?




