悪役転生第16話 事後
「共闘。合体じゃないよ、鎧君。」
銀鎧の頭が落ちる。
胴体は、それこそ魂が抜けたかのように膝をつき、
倒れた。
僕とレオナは辺りを見渡す。
伏兵を警戒したが、それは杞憂に終わった。
すると、休む僕にレオナが話しかけてきた。
「よく思いついたわね、あんな作戦。
自分を囮にして背後から攻撃させる、なんて。」
「別に。鎧の動きを観察した結果、あれが最良だと
判断しただけだよ。」
「鎧の動き?」
「あの銀鎧、高速移動の前には
構えを見せてたでしょ?」
「多分発動条件なんだろうけど、問題は
邪魔するのが難しいということ。」
「毒を流し込んでも怯まず構えてた。
痛覚も恐怖心も恐らくない。」
「そうなると、力づくでも
構えをやめさせるしかない。」
「だから私に言ったのね。
とにかく距離を詰めろって。」
「そう。君のパワーなら銀鎧をのけ反らせて
隙をつくることができる。」
「実際に僕は最初、その隙をついて毒を打った。」
「“あの時と同じだ” “このままじゃ負ける”
銀鎧がそう判断すれば、
真っ先に僕を潰そうとする。」
「君は、有効打を持たないからね。」
何とも言えない顔でレオナは僕を見る。
感心か呆れかは分からない。
「・・・そう思わせた上で、
私にとどめを任せたって訳?」
「まあね。君が大きく蹴り飛ばした後
あえて攻撃せず、構えをつくる隙をつくった。」
「まず君を倒し、それから僕を狙わせる。
そのための誘導だよ。」
「その時の指示にも驚いたわよ。
白鎧の剣がある方向に避けて、だなんて。」
レオナは笑いながら、
もうひび割れた剣を見せてそう言った。
「有効打を持たない。
そう思われている君だからこそ、
背後をとってとどめを刺すことができたんだよ。」
「白鎧と戦ってた時から、
鎧自身の武器なら効くと予想はしてたからね。」
「銀鎧自身の武器がベストなんだろうけど、
弱点を突けば白鎧の剣でもいけると踏んだんだ。
予想通りになって良かったよ。」
その弱点―傷自体も毒で柔くなっていた。
とは言え不安はあったので、上手くいった時は
本当に胸を撫で下ろした。
僕たちはしばし談笑して休んだ後、
ノエラの迎えで黒金城に戻った。
まだやることは残っている。
■ 「どういうことですか!?
村には戻れないなんて。」
村人の、悲嘆と憤慨の混じった声が響く。
黒金城に戻った後、僕とレオナ、ノエラの三人で
村の今後について話した。
まず村人たちは全員、盗賊団でない者も含め、
黒金に加入してもらうことになった。
人手不足の黒金と、村を壊された村民。
利害は一致している。
盗賊団には、回復要員のメイを除いて戦闘員に
なってもらう。
他の村民は適性を見て、
追々仕事を割り振ることとした。
もともとレオナたち盗賊団は、
村を守るために動いていた。
それを知る村人たちにとって、黒金への加入は
それほど抵抗のある話ではなかった。
だがもう一つ、しばらく村には帰れない、
近寄ることも出来ないと知ると、
不満を声に出す者もいた。
「村に戻れなかったら、私たちの生活が・・・」
「それは問題ない。食料、薬、その他
村に残っていた物で必要なものは回収してる。」
「生活については黒金が面倒を見るから、
心配はしなくていい。」
「それはそうだけど、せめて死んだ家族は、
故郷で眠らせてあげ―」
「それはダメだよ。絶対に。」
遮るような僕の言葉に、場の空気が凍り付く。
これは良くない。せめて言い方は訂正しなければ。
「ごめんね。亡くなった人は黒金の墓地で埋葬する。
でも、残念ながら村には帰れないよ。」
「なんで、ですか?」
「鎧のせいだよ。」
「鎧は村の建物や物資には目もくれず、
人を攫おうとしていたんだよね?」
「しかも容赦なく斬り捨てたうえで。」
「となると、鎧の目的は村民、
人間ということになる。
しかも生死を問わず。」
「だから村にいればいつまでも狙われるし、
埋葬なんてすれば・・・」
「間違いなく墓を暴かれることになるよ。」
誰もが押し黙る。理解はしてくれたのだろう。
それでも、急に襲われて助かったと思えば、
今度は村に帰れないと言われる。
すぐに納得するのは難しいだろう。
すると、
「帰れるわよ。」
レオナが口を開いた。
「今は帰れないってだけ。」
「鎧は誰かが魔法で操ってる。そいつを
ぶっ飛ばせば、もう怯えることなく村に帰れる。」
「必ず勝って、故郷を取り戻す。
そうでしょ、みんな!」
「お、おお! そうだ!」
「勝って、村を取り戻すんだ!」
「家族の仇を取るんだ!」
村人の目に意志が宿る。レオナが道を示したからだ。
皆に前を向かせ、意思を一つにする。
魔王として、この姿は見習わなければ。
そう思っていると、レオナが小声で話しかけてきた。
「ねえ、明日戦わない?」
「ほら、鍛えてあげるって言ったじゃない。」
「明日? いや、流石に昨日の今日で戦うのは・・・」
「感覚忘れないうちにやらなきゃダメなの!」
「 大丈夫よ、可愛がってあげるから。」
何が大丈夫なのやら。
とは言え、確かに復習は早い方が良い。
「分かった。よろしく頼むよ。」
僕を含め、黒金全員が前を向き、進む準備を始めた。
だが、それは敵も同じことで―
■ ヴァロマ王国 王都「セイオル」
王族や貴族の統治の下、国英による安全保障を求めて
人々の集まったこの都市は、
今も政治と経済の中心地として機能している。
黒金の衰退により人々の流入は減ったが、
今尚人も物も金も集まるこの街は、
国の心臓部であり続けている。
その王都の中心地。
貴族や国英の屋敷が立ち並ぶその一つにて、
困惑と警戒心を抱きつつ話す者たちがいた。
「報告します。地方の村に送り込んだ鎧軍ですが、
ほぼ予定通り、村民の確保が完了しました。」
「・・・ほぼ?」
「・・・申し上げにくいのですが、部隊の1つが、
ネメア村で全滅したようでして・・・」
「申し上げにくいじゃない。そういう事こそ最優先で
報告してくれ。」
「にしても、全滅か・・・」
「あの辺には強い盗賊団がいるという噂もあった。
だからこそ結構な数を送ったはずなんだけどなぁ。」
「しかも・・・どうやら鎧の一部は、
銀属になったうえで敗れたようでして・・・」
「銀属が!? 白兵卒ならまだしも。
驚いたな。やったのは誰だ?」
「現在、調査中です。」
屋敷の主は、ここで一つの可能性を考慮する。
銀属―白兵卒五十体の合体で生まれる上位の鎧。
並の国英では刃が立たない。
それに勝てる相手は限られてくる。
「誰の仕業か、確かめる必要があるな。
・・・よし、金伯を送ろう。」
「!? 金伯ですか? 流石にそれは―」
金伯―白兵卒百体の合体で生まれる最上位の鎧。
最早戦争に用いる程の“兵器”であり、
国内、まして一地方で使うなど通常あり得ない。
「銀属が負けたんだぞ。他の地区での回収もある
以上、大軍を割くわけにもいかん。」
「ハルス、君も一緒に行くんだ。」
「私も、ですか?」
ハルスは困惑した。
彼も確かに国英だが、決して戦闘は得意ではない。
「何も戦えと言ってる訳じゃない。」
「万一金伯がやられたら、誰の仕業か、
そいつのアジトはどこか、探ってくるんだ。」
「いいな?」
「・・・分かりました。」
目的を持って、前に進む準備をする。
黒金も、国英も、それは同じこと。




