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悪役転生  作者: こすもす
13/23

悪役転生第13話 決断


空間転移で、村人全員を黒金城に退避させる。


その後、ノエラは怪我人を三ヶ所に振り分け、

治療班に薬と道具も持たせた。


混乱する村人たちに対し、彼女は明瞭に告げる。


「これから怪我人の治療を始めます。

中央のあなたたちは、軽傷もしくは無傷です。


「薬や包帯を取って、自分たちで

治療してください。」


「それから、右端に移動させた人たちは重傷です。

私たちで治療しますが、余裕がある方は

手伝ってください。」


「そして・・・」


ここにきて、明瞭だったノエラの言葉が濁りだす。


一人でも多く助けるためには、必要なこと。


分かってはいるが、

いざ口にするとなれば躊躇うものもある。


「左端に移動させた人たちは、傷が深すぎて、

もう助からない・・・手遅れの人たちです。」


「よって・・・この人たちは治療せず、

後で埋葬します。」


沈黙が場を支配する。


怪我の程度に応じて治療の優先順位を設け、

助けられる人を助ける。


そして、助けられない人は最初から治療せず、

その分他に人員や薬をまわす。


蛇石京がいた世界では「トリアージ」と呼ばれ、

特に災害現場の医療において、一般的になっている

考え方だ。


一人の女性が、震える声で言った。


「・・・分かりました。悔しいけど、

今は他の人を・・・」


涙をぬぐいながら、静かに頷く。

他の村人も賛同するように俯いた。


やがて「うん」という小さな声や、

すすり泣きが漏れ始める。


「ふ、ふざけんな!」


突如、静けさを引き裂くように怒声が響く。


「助からないから治療しないって・・・

じゃあ見捨てんのか? 本当にそれでいいのか!?」


場の空気が再び凍る。

それでも、ノエラは毅然とした態度を崩さない。


「・・・私の母は医者でした。

私も勉強はしていましたし、

手遅れかどうかくらいは分かります。」


「・・・何だよ、手遅れって。」


「もう助からないんですよ。

ちゃんと見てください。」


「そうすれば分かりますよ。

もう、手の施しようなんてないことくらい。」


「で、でも・・・」


ノエラが拳を強く握る。

一刻を争う状況で、彼女も感情を抑えきれなくなる。


「だから! その人たちはもう助からない!

早く他の人を治療しなければいけないんです!」


「・・・だ、黙ってくれ!」


「助かるとか助からないとか・・・

アンタが決めるな!」


感情を爆発させたノエラの怒鳴り声と、

村民の叫びがぶつかり今に至る。


ノエラとしても、これ以上の口論で

時間を無駄にしたくはない。


下手をすれば、右端の怪我人までもが手遅れになる

可能性もある。


ただ時間と命だけが、失われようとしていた―


「じゃあ誰なら決めていいの?」


レオナが口を開く。


怪我こそないものの、戦い続けた分、

まだ息はあがっている。


「もうどうしたって彼らは助からない。

でも今なら、他のみんなは救える。」


「どんなに惨めでも変わるしかないのよ。

村を養うため、盗賊団をつくったあの時みたいに。」


少しの絶望と、それ以上の覚悟を宿した言葉が

周囲の心に刺さる。


その重みに、反発していたレンも、

ノエラたちでさえ言葉を失う。


「レン。ご両親が助からないって言われて、

動揺するのは当然よ。

いつもの冷静さを失うのも分かる。」


「でも、今は悲しんでいる時じゃない。動く時よ。」


「だから後で、気が済むまで弔いましょう。

あなたのご両親と、私やメイの親も一緒に。」


温かい優しさと、少しの冷たさが

混ざり合ったような声。


だが「弔う」という言葉には、

それでは隠しきれないほどの悲しみが

込められていた。


その想いが伝わったのか、


「悪かった。取り乱して失礼なことを。

何でも言ってくれ。謝罪は行動で示す。」


両目に涙を浮かべ、レンは頭を下げた。

それと同時に、ノエラも平静を取り戻す。


「こちらこそ、配慮に欠けた言葉遣いに

なってしまい、申し訳ありませんでした。」


「一人でも多く助けましょう。」


その言葉を合図に、早急な治療が行われた。


黒金医療班の尽力と、メイの魔法が功を奏し、

助かる命を取りこぼすことはなかった。


一段落ついたところで、神妙な面持ちのレオナが

声をかける。


「なんで助けてくれたの?」


「・・・私は、魔王様に従っただけです。

・・・ただ―」


「前の交渉の時から、あなたのこと、

嫌いではなかったです。」


顔を赤らめるノエラに、

レオナは頬を緩め頭を撫でる。


「ちょっと、やめて。放して下さい。」


「正直頭固いのかなって思ってたけど、

今の可愛かったわよ。」


「からかってるんですか?」


「ううん、アンタと友達になりたいの。

終わったら、メイも入れて3人で話そう。

お礼も言いたいし。」


「治療はもう一通り―」


「戦いはまだ終わってないでしょ。

メイ! こっちに来て、私とノエラを回復させて!」


その言葉に、ノエラも、

そして呼ばれたメイもはっとする。


「レオナちゃんまさか・・・ やめときなよ。

もう十分頑張ったじゃん。」


「えぇそうです。後は魔王様に―」


言葉を遮るように、二人を抱いて引き寄せる。


「ごめんね。やっぱり私、助けられてるだけは

性に合わない。」


「それに、可愛い妹分の前で、

カッコ悪いとこ見せられないからね!」


「カッコ悪くなんてない!」


珍しく大きな声を出したメイ。

レオナもノエラも思わず驚く。


「レオナちゃんをカッコ悪いなんて思ったこと

一度もない。いつも最高にかっこよかった。」


「みんなを引っ張ってた時も、

さっきレン君を説得した時も。」


「・・・鎧や・・・黒金の人から、

私を守ってくれた時も。」


「メイ、ひょっとして―」


「何となく気付いてたよ。あの人が、

私に何しようとしてたのか。」


「私を傷つけないために、

何も話さなかったんだよね? ありがとう。」


「でもね、レオナちゃん。私だって、

助けられてるだけはイヤなんだよ。」


「戦ったりはできないけど、

レオナちゃんを癒して、支えることはできる。」


「私、そのくらいには強いんだよ。」


メイの魔法で、二人の体力と魔力が戻る。


だがそれ以上の、言い表せない気持ちがレオナの

心には溢れ、全身に力がみなぎる。


「ありがとう、メイ。・・・でも、私は行くね。」


「魔王だからって村の問題を押し付けて、

ゆっくり休むなんて私にはできない。」


「ノエラ、空間転移をお願い。」


「レオナちゃ―」


「だから、ここはお願い。」


「治療してくれた人の回復と、

みんなの心のケアをしてほしい。」


「頼んだわよ、メイ。」


「分かった。任せて!」


その返事にレオナは微笑む。

最後にメイを抱きしめた後、彼女は戦いに向かった。


村を率いる者としての、筋を通すために。


メイも自分のやるべきことに向かう。


もう怯えない。


レオナの目に映った自分は、“か弱い妹分”ではない。


“対等な仲間”だと分かったから。

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