悪役転生第11話 敵襲
「魔獣です! とんでもない数が襲ってきていて。」
この知らせを受け、レンとレオナ、そしてメイも、
魔獣に襲われている現場に急行した。
そして三人が目にした光景は、
想像を絶するものだった。
「・・・どうなってるの、これ?」
赤く染まった土と、充満する血の匂い。
辺り一面を覆いつくしていたのは、
切り刻まれた―
魔獣の死体だった。
そしてそれ以上に目を引いたのは、
魔獣の群れを蹂躙した、鎧を着た兵士の姿だった。
俄かには信じがたいものの、
二百はいる白い鎧の兵士たちが魔獣の群れを倒し、
村を危機から救ったらしい。
「・・・王宮の兵士、じゃないよな?」
「えぇ。格好も違うし、それに・・・
何で今更って話でもあるしね。」
「・・・でも、魔獣を倒してくれたってことは、
悪い人たちではないんじゃないかな?」
メイはそう言うものの、
レンやレオナには不安が残っていた。
言ってはなんだが、お金も、大した資源もない
この村を、何故守ってくれたのだろうか?
単なる善意? 正義の心?
それとも何か思惑があって?
いずれにせよ、もし彼らが今後も村を
守ってくれるのであれば、
レオナたちにとって、この上なく心強い存在になる。
何より―
(あの人たちがいてくれたら、もうレオナちゃんが
無理しなくてよくなる)
そんな期待を胸に抱きながら、
メイは兵士たちのもとへと進んだ。
「あ、あの、助けてくれて、
あ、ありがとうございました!」
緊張でぎこちなくなりながらも、
兵士の1人に感謝を伝える。
その言葉に反応したのか、
お礼を言われた兵士がメイの方へと歩いてきた。
言葉を発するわけでもなく、
ただメイに近づく鎧の兵士。
様子を見ているレオナにとって、
気がかりなのは兵士たちの気配だ。
殺気や悪意とも違う。
むしろ、気配がないと言うべきだろうか・・・
いずれにせよ、レオナは目の前にいる鎧の兵士を、
血の通った人間ではなく、
ただの鉄の塊のようにしか思えなかった。
そんな無機質な存在が、
とうとうメイの眼前にまで近づいた。
「あ、あの、もし良ければ、
これからも村を守っていただけ―」
「!? メイ、逃げろ!!」
「えっ?」
内気な性格で、見ず知らずの相手に
頼みごとをしたことなどなかった。
緊張で相手の目を見ることができず、
目線をそらしてもじもじと話していた。
故に、振り上げられた剣にも気が付かなかった。
容赦なく振り下ろされる鉄の刃。
その無機質な殺意に、メイの頭には死がよぎる。
「レオナちゃん―」
兵士の剣が振り下ろされた。
だがその刃の軌道は逸れ、
メイにかすることすらなかった。
メイが顔を上げると、そこにはレオナの姿があった。
剣が振り上げられた途端、
一瞬地が揺れるほどの勢いで駆け出した。
空気を裂くような速度で跳び、
その足で鎧兵の頭を蹴り飛ばした。
一瞬にも満たないこの出来事に、
最も驚いたのはレオナ自身だった。
“メイが殺される” そう思うと何も考えられなくなり、
気付いた時には体が動いていた。
「・・・はっ! メイ、大丈夫!? ケガとか―」
何も言わず、メイはレオナに抱き着いた。
体は震え、目から大粒の涙がこぼれている。
そんなメイを慰めつつ、
レオナは蹴り飛ばした鎧兵の様子を確認する。
頭部は彼方へと消え、
蹴りの勢いで胴体も仰向けに倒れていた。
殺してしまった。
そう思ったレオナだったが、
一つおかしなことに気付く。
倒れている鎧兵の体から、一切血が出ていない。
まさかと思い鎧の中を覗くと、何もない空洞だった。
鎧を着こんだ兵士だと思っていた相手の正体は、
中身のない鎧そのもの―
「いやぁぁぁぁぁぁ! やめてぇぇぇぇぇ!」
悲鳴が聞こえた。
振り向くと、
村の大人が老若問わず切りつけられている。
そして子供も腕や首を掴まれ、
泣き喚こうがお構いなしに連行されようとしている。
「ライトがやられた! リンさんまで!」
「おばあちゃん! ねぇ返事してよ! ねぇ!」
「やめてよぉぉぉぉ!
お母さんを連れて行かないでぇぇぇ!」
既に動けない大人も運ぼうとしているのを見るに、
鎧兵の目的は村民の体。
さっき魔獣を討伐したのは、
“邪魔”だったからだろう。
なぜそんなことをするのかは分からない。
だが村が、仲間が、
メイが傷つけられようとしている。
それだけで、レオナが戦うには、
無茶をするには十分な理由だった―
息を整える暇もない程の時間が過ぎる中、
レオナたちは、村を守らんと戦い続けた。
魔力の、体力の限りを尽くして戦った。
しかし数が減らない。
レオナの爪で鎧を削るが、それでも止まらない。
咆哮で吹き飛ばすも、すぐに立ち上がる。
あの時と同じように顔を蹴るが、
勢いが足りないのか、
頭部が離れることはなかった。
動作は機械的で、攻撃の回避は容易。
だがどんな攻撃も効かず、怯まず、そしてこの物量。
当然のように、盗賊団の勝ち目はなくなる。
もう誰にも、立ち上がるだけの力はなかった。
皆の希望だったレオナも、すでに呼吸は荒く、
足がもつれて膝をつく。
そして今、
彼女にも刃が振り下ろされようとしていた。
「レオナちゃん!!!」
「ごめんね、メイ。あなたを守れなくて。」
剣が振り下ろされた。
が―
振り下ろされるだけで、
その刃がレオナに触れることはなかった。
レオナが顔を上げると、剣の刀身が折れていた。
断面からは紫色の泡が出ていて、
刃が溶けたかのようだった。
それは鎧の首も同じ。
頭が溶け落ちた鎧は膝から崩れ落ち、
そのまま動かなくなった。
驚愕と困惑を抱えたままレオナが振り返る。
そこにあったのは紫色の魔法陣。
鎧を裂き、レオナを救った触手は、
蠢きながらもその中へ消えた。
直後、魔法陣の中心から、
一人の男がゆっくりと姿を現した。
整った出で立ちに、黒い外套を身にまとう。
顔を覆う、光を抑えた、
それでいて重みのある黄金色の仮面。
両腕には数本ずつの触手が、
なおも生き物のように蠢いている。
男はゆっくりと辺りを見渡し、こう呟いた。
「来たよ。悪役が。」
黒の外套に黄金の仮面。
黒金の魔王にのみ、許された姿だった。




