悪役転生第10話 限界
「おはよう、メイ。ちゃんと眠れた?」
メイが目を覚ますと、レオナの顔が目の前にあった。
メイの体に覆いかぶさりながら、
うっとりとした目で彼女の顔を見つめている。
「ん~。おはよう、レオナちゃん。
でもちょっと近いよ。」
「こっちの方が安心するの~、私は。」
そう言いながら、レオナはメイを抱きしめる。
メイ自身、こうしてレオナと触れ合うことは、
とても気持ちいいものだと思っている。
「そうだ、メイ。村の見回り、一緒に行かない?」
「でも、今日の見回りはレン君がやるんじゃ―」
「いいじゃない。見回りなんて、
何人いても困らないんだし!」
「・・・分かった。じゃあ行こう。」
「やったぁ! ありがとう~、メイ~」
レオナとの見回りが嫌なわけではない。
ただ、メイには少しだけ憂いがあった。
彼女は昨日、戦ったり揉めたりで疲れていた筈。
にも関わらず、メイより先に起きていた。
■ 照りつける日の光が強くなるこの時間、
レオナとメイは村の見回りをしていた。
「あー、レオナおねーちゃんだー!」
「本当だ! メイおねーちゃんもいるー!」
子供たちの無邪気な声が背中から飛んできた。
五人ほど子供が駆け寄ってきて、
レオナやメイにしがみつく。
「ねぇー、レオナおねーちゃん。
またがおーやってー!」
子供の1人がせがんできた。レオナは苦笑いをし、
「もぉ~、特別だよ。いい?」
そう言うと、レオナは軽く息を吸い込み、
空に向かって口を開いた。
大気を揺るがす轟音の咆哮―
ではない。
空気が軽く揺れる程度の、優しい吠え。
「がおー!」
きゃー! と歓声をあげて、
子供たちは笑いながら逃げていく。
レオナは右手を振りつつ、癒されたように笑う。
だが、笑顔の隙間にほんの一瞬現れた疲労を、
メイは見逃さなかった。
そして疑問にも思った。
どうして? どうしてそこまで?
一体何のために、誰のために頑張っているのか?
「あ、あの、レオナちゃ―」
「レオナ様、ここにいらっしゃったんですね。」
メイが話しかけようとした矢先、年老いた女性が
レオナに話しかけてきた。
「“様”なんてやめて。それで、今日はどうしたの?」
「はい。実は、少ないんですが、
差し入れをもってきまして・・・」
「いいって、そんなの。」
「いえいえ、ほんの気持ちです。あなたが魔獣や、
誘拐目的の賊を倒して下さるおかげで、
私たちは今安心して暮らせているんですから。」
「・・・そう。なら良かった。」
それだけ言って差し入れを受け取る。
それでも、胸の奥は軽くならない。
“賊”という言葉に、レオナは一人の男を思い出す。
彼女が殴り、破談の原因となった、
黒金幹部のあの男。
アイツがメイに何をしようとしたか知れば、
きっとあの子は傷つく。
だから、メイは一生知らなくていい。
■ 「・・・あの、メイ? もういいわよ。
十分回復したから。」
「だめ、もうちょっと。」
十分ほど前に遡る。
見回りの途中、村の中でも人気のない場所に
立ち寄った時、急にメイがレオナの正面に立ち、
次の瞬間には抱き着いてきた。
「!? メイ? どうしたの、急に?」
「どうしたのって、レオナちゃんなら
知ってるでしょ? 私の魔法。」
「 ほら、 レオナちゃんも! 私のこと抱いてよ。」
「言い方!」
つい突っ込んでしまったとはいえ、
メイの言うことは正しい。
彼女の魔法は回復
触れた相手の傷を癒し、体力や魔力を回復させる。
また、相手との密着度が高い程、効き目も強くなる。
レオナからも抱き着くことで回復の効率は上がる。
そういった意味では正しいのだが―
「メイ、あの、誰かに見られたら、
ちょっと恥ずかしいんだけど?」
「うるさい。いつもやってるでしょ?」
「いや、そうなんだけど・・・」
さっきから、メイの様子がおかしい。
言葉もやや乱暴で、妙に積極的だ。
別に嫌ではないのだが、
いつもとは立場が逆で、もどかしい気持ちもする。
「・・・メイ? もしかして、不安なの?」
「・・・」
抱き着く力が強くなる。これが答えだ。
「大丈夫よ。知ってるでしょ、私の強さは。」
レオナもメイを抱き返し、穏やかな声で話し始める。
「それに、私にはメイがいる。
守るべきメイが、すぐ近くにいる。」
「メイがいてくれるから、私は何だってできるし、
誰にも負けないの。」
「だから安心して。メイのことは、
何があっても絶対に守るから。」
メイを抱きしめる力が、より強くなっていく。
昨日と同じか、それ以上の温もり、優しさが、
レオナの体からメイに伝わる。
でも、でも―
(違うよ、レオナちゃん。私が守ってほしいのは、
レオナちゃんのほうなんだよ。)
(私だってこの魔法で、
レオナちゃんのことを守れるんだよ。)
(レオナちゃんのこと、私は―)
「レオナ? ちょっといい― おっと!
あ、後にした方がいいか?」
想いを伝えようとした矢先、レンが来た。
今日の見回りにして、
昨日レオナが大ゲンカした相手だ。
「いや、大丈夫よ。どうしたの?」
「そうか。まあ、メイもいるんなら
ちょうどいいか。」
「さっき子供たちの笑顔を見てたらさ、
俺も少しは冷静になれたみたいなんだ。」
「昨日のことを謝らせてくれ。色々と言い過ぎた。
この通りだ。」
レンはそう言い、深々と頭を下げる。
レオナやメイと同じように、
彼もまた思うところがあったのだろう。
「レン、頭を上げて。こっちこそごめ―」
「レン様! レオナ様も! 大変です、
た、助けて下さい!」
さっき差し入れを持ってきた老人が、
血相を変えて現れる。
「どうした? 魔獣か?」
「はい! それも、とんでもない数が
襲ってきていて―」
轟音と共に、大木の背丈をも超えるような
土煙が舞う。
駆け出すレオナ。
だがその呼吸は、いつもより少し窮屈だった。
戦闘前の緊張か、それとも―




