プロンプトの墓場Another ~魔法の杖を握った新人の末路~
■ 1.魔法の杖LLM(AI)を手にした学生
僕が子供の頃に、某社が猫の認識に成功した。
その数年後には、LLM(Large Language Model)というAIが当たり前になっていた。
コンピュータ好きの僕は、有料プランでLLM(AI)を使い始めた。
これはすごい!わからないことについて、辞典よりわかりやすくまとめてくれる!
学校での退屈な授業は居眠りしてサボっても、家で少しLLM(AI)に聞けば十分じゃないか!
僕は、授業態度が悪いと先生に苦言を受けながらも、成績が良かったので大学推薦をもぎ取った。
■ 2.学校でも、魔法の杖が活躍する
僕は情報系の学科に進んだ、元々コンピュータ好きだから、成績は悪くない。
大学の授業ではLLM(AI)も使える。講義中にスマホから質問を投げればいいんだ。
レポート課題も、LLM(AI)に書かせればいい。
一握りの頭が固そうな先生は、僕の出した答案やレポートが気に食わないらしい。
そういう先生は、想定以上に悪い点数をつけてくる。
でも、そんな人はこちらからお断りだ。
僕の若さと優秀さに、嫉妬でもしたのだろうか?
先生の言葉を録音して、そのままLLM(AI)に文字起こしさせて、切り抜けた。
■ 3.就職しても、魔法の杖は欠かせない
大学を卒業したら、僕はIT系企業に就職した。
ここでは、当たり前のようにLLM(AI)による技術が使われている。
僕も当然のごとくLLM(AI)を使ってプログラミングをしていた。
一部の先輩は「自分で理解してないコードは使うな」と、口うるさく言ってくる。
ふん、僕は知ってるんだ。そんな先輩だってLLM(AI)を活用しているってことを。
どこにでも、僕の若さと優秀さに嫉妬する人はいるものだ。
こんな老害にはなりたくないな。
■ 4.新人がやってきた
一年経ったら、新人が入社してきた。
それと入れ替わるように、口うるさい先輩は会社を辞めた。
きっと、この最先端の仕事についていけなくなったんだろうな。
だけど、辞めた先輩の穴埋めのように、僕の業務が増えてしまった。
くそっ、最近残業続きだ。
残業に慣れてきた頃、新人がやらかした。
新人は大抵、プログラムの保守業務から入るのだが、言い訳が最低だった。
「AI がそう言ってきたので」
くそっ、その分の尻拭いまで僕がやらなきゃいけない。
LLM(AI) の使い方が下手だな、新人。
■ 5.レイオフ勧告?新人の方が、魔法の杖を使いこなしてる?
大規模レイオフが行われるという。
若くて優秀な僕には関係ない話……だと思っていたら、僕までレイオフ対象にされていた。
きっと、あの新人もレイオフ対象だろうと思っていたら――対象外らしい。
上長に問い詰めたら――
「彼は生産性が高いので――それに比べて、君は成長が見られないからね」
くそっ、何なんだ?その新人を育てたのも、尻拭いしたのも僕だぞ?
■ 6.魔法の杖を失って
転職先が見つからないまま、僕はレイオフになった。
こういう転職先を探す時、LLM(AI) は無力だ。
地道に検索しながら、転職先を探すもうまくいかない。
面接で、前の会社での仕事を聞かれても困る。
僕は言われるままにプログラムを直し、またプログラムを書いていただけだ。
具体的な業務内容?それが、プログラミング能力と何の関係があるっていうんだ?
どいつもこいつも、老害か老害候補ばかりじゃないか!
■ 7.新人は、若さのある貴重な時間を失った
求人を見ても「○○経験△年以上」という募集が多い。
最近の求人では、もうLLM(AI)が使えることは当然になっている。
お金がなくなると、視野が狭くなっていく――僕はバイトを始めた。
卒業した大学を履歴書に書いてると「これほどの大学を出ていながら、なぜ……」と驚かれる。
そして、僕に落ち度があるかのように、雇われないことが多いので大学名を書かないようにした。
そうして数年――なんとか食いつないでいけるようになった頃、久々に大学時代の教科書を手に取ってみた。
……なんだ、この難しい内容!
こんな難しい内容をマスターしている僕はやっぱり凄い!
そう思おうとしたが、その教科書を書いたのは、僕を酷評していた先生だった。
教科書を破り捨てようとしたが、思いとどまった。
これを古本屋に売れば、今日のおかずが一品増えるかもしれないのだ。
――僕は一体何を間違えたのだろう、もうすぐ三十歳の誕生日。
もう、若くない。
今や、大学に行ってたことが全く役に立たない。
本編「プロンプトの墓場 ~AIが魔法の杖だった時代の、終わりの記録~」はこちらです。
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