悪役令嬢、マツダイラ サダノブに憑依する
なんか、王子の婚約者の悪役令嬢って、松平定信に似てませんか?
便利に使い捨てされる感じとか……
肌寒さを感じて、目が覚めた。
連日の過労のせいだろうか。
どうやらデスクに突っ伏したまま、眠ってしまったようだ。
いまだ焦点が定まらない眼で、周囲をながめると、窓から差しこむ夕光が、机上に山積みになった書類をオレンジに染めている。
「えっと……今はカンエイ五年葉月……?」
おかしな夢を見た。
意識だけが遊離して、どこかの国の青年の体に入りこみ、彼の五感・思考・感情すべてを共有する不思議な夢を。
その国は、わが王国とは文化も生活様式もなにもかも異なっているのに、なぜか違和感もなく状況を受け入れて、彼 ―― マツダイラ サダノブ ―― として数年を過ごした。
彼は、三代前の王(ショウグン)の孫で、王位継承権をもつ高貴な家(ゴサンキョウ・タヤスケ)に生まれた王族だった。
しかし、政敵の陰謀にはめられて、中級貴族の家(フダイダイミョウ)に養子に出され、王位継承権を失ってしまう。
ところが、政敵間で諍いが起き、重臣のタヌマ オキツグが排除されると、ほかに難しい政局をまかせられる人材がいなかったため、サダノブに白羽の矢が立った。
(あら? シラハノヤって……??)
サダノブは、ゆるんだ綱紀を粛正し、みずから倹約に務め、枯渇しかかっていた財政を立て直し、外国からの脅威や神聖勢力(チョウテイ)らからの無理難題を処理し、「さぁ、これからは自分が主導して、理想の国家を作るぞ!」と思っていたら、味方だと思っていた仲間に裏切られて失脚。
「なぜだ!? 困難な諸問題を解決してきたのは私なのに!」
何千回めかわからない怨嗟の言葉を吐きながら眠りについた…………と、思ったら、夢から覚めたのだ。
長時間、不自然な姿勢でいたためか、体のあちこちが痛む。
よくよく見れば、未決の書類がさらに増えている。
誰かが、こっそりデスクの上に置いて行ったのだろう。
疲れてうたた寝をする私の肩に、この部屋に常備されているひざ掛けひとつかけてやろうという配慮もなく、押しつける仕事だけを運んで。
本来、それをやる義務もない私が、これほど疲弊しているのもおかまいなしで。
この仕事を処理すべき人物 ―― 生徒会長である第二王子、副会長、書記・会計・庶務各二名は、この生徒会室にはおらず、いまごろは平民のピンク頭娘を囲んでキャッキャウフフしているのだろう。
「ばかばかしい」
淑女らしからぬ荒々しい口調で吐き捨てる。
第二王子は、公爵家嫡女の私と結婚することになっている。
王家にはほかにふたりの王子がいて、本来なら次男の彼は爵位をたまわって、つぎの王となる兄を補佐する立場だが、彼はあまりにも能力がなさすぎた。
だから、補佐役は優秀な三男が担い、次男は裕福なわが家に婿入りするよう王命が下った ―― つまり、顔だけのボンクラをムリヤリ押しつけられたわけだ。
考えてみれば、わが領は、かつては独立した公国だった。
約七十年ほど前、公国内で流行った伝染病で大公夫妻が早世し、五歳の嫡男だけが残されると、王国から後見を口実に大量の文官が送りこまれ、あれよあれよというあいだに、王国に組みこまれてしまったのだ。
「もともと別の国なら、また独立すればいいだけ」
声に出してみれば、スゥっと腹が決まる。
「あんなクズに、食いものにされてたまるか!」
領地経営の助けになるどころか、非現実的な思いつきで周囲を振り回し、派手に散財する未来しか見えない。
「ヒトツバシに利用されたサダノブの轍は踏まぬ」
山積みの書類を残して、退出する。
明日からは、引きこもろう。
さっき机に突っ伏している姿を見たなら、「体調不良」という口実も使えるはずだ。
なんなら退学して、「療養のため」に領地に行ってしまうのもアリだ。
空気のいいところで、のんびり療養しながら、いままで忙しくて読めずにいたライトノベルでも楽しみながら、粛々と独立の準備をしよう。
婚約者には、理不尽にコキ使われて、時間と労力を不当に搾取されてきたのだ。
これからは、好きなことをして過ごそう。
婚約を破棄して、生涯独身でもかまわない。
後継は、親族から養子を迎えればいい。
「ふふふ、『先憂後楽』。号は人生を楽しむ『楽媼』とでも…………ん???」
先日、あさイチに、『べらぼう』で松平定信を演じた井上祐貴さんが出ていて、つい、こんなものを書いてしまいました。
スイマセン
(サダノブのスピンオフが観たいぃぃ~!!)




