大好きな婚約者に正室ではなく側室として嫁ぎ公務のみをしています。
「愛しているわ」
「私もです」
唇を重ね。ゆっくりとベッドへと横になる男女。側から見たら仲睦まじい夫婦や恋人に見えるだろう。
しかし違う。睦み合う女は私の妻、男は夫の俺ではなく主治医の男だ。
「はぁ……もういいだろう」
「まだです」
「何故、妻の不貞現場を夫の俺が見る必要があるのだ」
「愛してるわ。中に……中にください」
「しかし、妊娠する可能性が」
「彼の子供として愛する貴方の子を育てますから」
「……わかりました」
『アメリ様、愛してます』
バンッ
「何?きゃー」
「………………」
布団で身体を隠す女と慌てて下着を履く男。
「きゃーではないだろう。いつからお前の夫はその男に変わったのか知りたい」
「違うのよ」
妻と一緒にいた男は妻の主治医であった。体調を崩しがちな妻の為に……そして妻の要望通りに雇った結果がこれだ。
「違う?他の男の子種を受けていて何が違うのだ?」
ズンズンと2人のいるベッドへと向かい布団を捲ると妻の脚の間は白濁した液で溢れていた。
「なあ、アメリ?お前はその男がいいのか?」
「あの……いや……違うのよ」
ガタガタと震える妻。
「先程はその男に愛を囁き、子を持ちたい……そして俺の子として育てると言っていたが」
「違うの寂しくて……愛されたくて。だってリカルドは私を抱いてくれないから」
「寂しい?可能な限り一緒にいただろう?愛されたくて?愛してたから婚約者がいたのを解消し、お前と……結婚した。お前のするべき仕事は誰がしている?私と……私の元婚約者のレイラだよ。彼女に悪いと思わないのか?お前は自分以外抱くなといい彼女を側室に置き公務だけさせて、それなのに……お前は」
「何?結婚を後悔してる?」
開き直るアメリ。
「別邸で妊娠の有無がわかるまで、そこで暮らせ。そして……お前はその女が誰かわかっていて抱いたな。残念だが王家の女に手を出したのだ。暫く牢で待て、処遇を決めるから」
さっさと連れて行け。
「はぁ……疲れた。なぁ俺は何処で間違った?」
ソファに腰掛ける男はアメリの夫であり、この国の第一王子のリカルド。話しかける相手はレイラだ。
レイラは元々リカルドと婚約しておりリカルドがアメリと恋をした事がきっかけで婚約を解消したのだ。しかし、アメリの王妃教育が上手くいかず、王命にてレイラが側室となったのだった。
「そうですね。どっちから聞いていきますか?」
「どっちとは?」
「時間軸ですよ。昔からか最近からかよ」
「最近から……」
「まずは、医師を男性にした事」
「医師だし、手を出すとは思わないだろ」
「女の方から求めたら?国一となる予定の女性から誘われるのよ。その時だけは夫である殿下よりも上の男よ」
「はぁ……次」
「次は、彼女を甘やかし過ぎた事よ。身分は低くとも時期王妃となるなら王妃教育は避けられないわ。貴方は彼女を甘やかしていただけ、その結果……私は誰にも愛されずに公務のみのお飾りの側室」
「それは、すまなかった。しかし、側室となってからのレイラは楽しそうに公務をしてるな」
「だって、あの王妃教育もないのよ。社交会は彼女が好きで得意なのでしょ。あのね……昔みたいに大口開けて大声で笑ったり、走り回っては行けないって王妃教育だったのよ。彼女が羨ましかったわ。私はダメで何故彼女は許されたか……」
「…………」
「簡単よ。貴方に愛されていたからよ。さっさと私と婚約を解消してくれてたら、私は傷物と言われても……豊かじゃなくても、夫に愛され家族を持っていたかもしれない……」
何も言えないリカルドだった。
「貴方は酷い人よ。私を愛する気もない、ただの公務をこなす要員として王命を使ったわ」
「そんなつもりはない……今まで頑張ってきたのを知っていたらから」
「それなら、どうして私は惨めなの?婚約者を他の女性に奪われ。その女性は皆に……夫に愛されて、私は……公務のみよ。頑張っているのよ、寝る間を惜しんでね。なのに、やって当たり前ですって……彼女は?夫に愛されて、華やかな社交のみ?もう私を解放して」
「レイラ?」
「貴方の最大の間違いは、あの日……私を婚約者に選んだ事よ」
「レイラ……待って。すまない、君の気持ちを何も考えていなかった」
「もう一つ、貴方の選んだ妻は皆から愛されるのね。あの医師は私の妹の婚約者よ。王家は私達家族をバカにしているのかしら……実家に帰らせて……お願い」
泣き崩れるレイラ。
「そんな、レイラの妹の婚約者?あの医師は何も言ってなかったぞ」
「最初から、そのつもりだったのよ。妹から相談を受けていたからね。貴方の選んだ愛する妻と密会しているとね。私の家から王家と医師に慰謝料を請求します。そして、白い結婚であること、公務のみの側室であるのを理由に離縁を要求し慰謝料を請求します」
「レイラはこの王家の事を知り過ぎている」
「はい、なので慰謝料は両親に、私は毒杯を飲みます」
「そんな……これからは……君を」
「ねぇ、リカルド……これ以上惨めにさせないで、三年も抱かないのに今更?抱けば離縁を考えなおすと思って?義務で抱かれたくないわ」
リカルドとアメリ、リカルドとレイラは離縁する事が決まったが国民への発表は保留とした。理由は一度に正室と側室の離縁となると王家の信用の低下に繋がる事になるのと、アメリの妊娠の有無と子の父が誰なのかを知る為だった。
アメリからの供述だと候補となる男が6人いたからだった。その中には夫であるリカルドも含まれていた。
レイラの実家には王家から慰謝料が支払われた。また、レイラの妹も医師と婚約破棄をし、王家と妹の婚約者であった男の家にも慰謝料を請求し支払われたのだった。そして、レイラの家族はこの国を去る事にした。ただしレイラを残して。
国民にはアメリは療養と発表された。半年後、アメリの妊娠は確実で安定期に入った。お腹の大きさからは3ヶ月ほどで産まれると宮廷医師の診断であった。
「ねぇ、いつになったら私は毒杯を頂けるのですか」
「ん……そのうち」
「どうして、元妻の私と一緒にいるのよ」
「城外に出す訳にはいかないし、仕事を手伝ってくれるのはレイラしかいない」
2人とも公務から退く訳にはいかず……と言っても公務をしていたのはレイラであったがアメリの出産までとの約束で城に留まっているのだった。アメリの得意な社交の場にはリカルドの婚約者が積極的に参加してくれるため、レイラは今までと変わらず社交以外の公務をこなす日々である。
「結婚して三年も経つのに仕事しているレイラしか知らない」
「貴方が望んだのよ。そして離縁して半年が経つわ。最初に私には公務だけでいい。君を抱けないと言ったのはあなた」
ベッドに一緒に横になり手を繋ぐ2人。
「すまなかった」
「他の女性を呼べばいいじゃない?」
「気楽に話せるのは君だけだ……俺はバカだったよ。君は頑張って王妃教育を受けていたのを知ってた。徐々に昔みたいに笑わなくなって……そんな時に彼女と出会って……君と重ねていた」
「貴方は他の女性を愛したわ。私だってリカルドの事を愛していたのよ。それなのに貴方は……うっ」
泣きだすレイラ。
「レイラ、ごめん」
後ろから抱きしめるリカルド。
「なぁ他に好きな男が出来たのか?」
「…………この城を出る時は毒杯を飲み死体となった後と決めてるのよ」
「その男とは想いは通じているのか?」
「………………」
「毒杯なんて飲まなくていい、レイラは王家の事を他言しないだろ。その男と国をでる手助けをするから」
「随分と信用してるのね。リカルドはどうなるの?」
「俺か……弟が父の後継となるように話をしている。俺は……よくて幽閉かな。俺も知り過ぎているし毒杯かもな……それに2人の女性を傷つけた。結婚してすぐにアメリは王妃に向いてはいないと気付いたが後戻りは出来なかった。アメリの事は……愛していた。側近らとも寝てると知るまではね。それと婚約の解消を伝えた時のレイラの泣いた顔も頭から離れなくて。アメリとは一年以上肌を重ねていない」
「そう」
「彼女が産んだ子は私の子であるはずがない。アメリに結婚を後悔しているかと聞かれ……俺は何も言えなかった。後悔してると言いそうだったから」
「そう……」
「それでだなレイラ……好きな男は誰だ?話してくれないと協力できない」
「教えない」
「いいのか、君が望んだ家族が出来るのだぞ」
一緒に眠るようになったのは離縁が決まってから、リカルドの側には彼女がいないから、きっと彼女の代わりでしかない。
「毒杯を飲んだ後なら教えるわ」
――――
数ヶ月が過ぎアメリは女児を産んだ。その子の色はリカルドとも側近達とも違った。アメリから話を聞くと、よく出入りしていた商人とも関係を持っていたと、その商人は既に自国に戻り名前しか知らない為に探す事は困難を極めた。そして不貞現場にいた医師に告げる。アメリと添い遂げる意思があるなら2人の子として育てろと。医師は覚悟を決めたのかアメリは療養中、励まし続けた男と恋に落ち『真実の愛』を選んだとして国民に報告したのだった。2人は医師の実家で子供が1歳を迎える頃に王都から出て行く事を約束させた。
数年後、とある田舎町に引越してきた医者一家がいた。夫は町医者として町の人の為に働いている。妻もまた医師の助手として日々、町の人達の為に働くのだった。
――――――
離縁をして1年半が過ぎた。レイラ元には1通の手紙。家族は隣国で家族仲良く暮らしていると、会えるのを楽しみにしていると手紙が届いた。
「家族から?」
「えぇ、向こうで楽しく暮らしているみたい。妹も父の部下の文官と恋が始まったとね……。羨ましいわ」
「そうか……他には?」
「早く会いたいと……。生きては会えないのにね。約束してリカルド、幸せになって。妻だけを大切にして、裏切らないで」
「わかった、次に……次に出会う女性を大切にする。誰よりも愛するよ。レイラ……レイラ……側にいてくれてありがとう」
「リカルド……もしかして、そろそろ飲むの?」
「……すまないな」
「いいのよ」
「ねぇ、教えて。まだ間に合うから……好きな男と夜のうちに逃すから。君を死なせたくない……俺のせいで」
「いいのよ。最後に……一緒に眠って」
「ふふっ……最後まで君らしい。そんなにその男が好きなのかい。その人との生活が困らないように援助するよ」
「いいのよ。彼はここにいるべきなのよ。幸せになって欲しいのよ。私の事は忘れてね」
「さぁ、リカルド時間よ。頂戴」
「やはり、逃げてはくれないか……わかったよ。今更だけど愛してるよ」
「ふふっ、嬉しいわ」
「約束覚えてる?最後に好きな人の名前教えてね。一応、君の最後の言葉を伝えたいからね」
「わかったわ。約束してリカルド……幸せになって」
「あぁ、約束する」
ベッドの上にレイラは後ろからリカルドに抱きしめられて座る。
「僕も飲もうかな……」
「ダメよ。私と約束したでしょ」
「よし……飲むわ。ベッドを汚す事になるわね」
「気にしなくていい」
毒の入った小瓶を見つめるレイラ。深く深呼吸をする。
『リカルド、ずっと……他の女性を愛してるとわかっていても忘れられないわ。大好きよリカルド』
そうリカルドに伝えて毒杯を一気に飲む。
「え……待って……俺を?ダメだ、飲まないで……嘘……レイラ……レイラ……吐き出して……レイラ……レイラ」
――――
「レイラ?起きた?」
「リカルド……何で?しかも……その顔……ぷぷっ」
「父上に……殴られた。何故連れて逃げないと」
「どういう事?」
「君が毒杯を飲んで……私も飲もうと思ってたんだよ。君が全部飲んじゃうから半分残してくれれば殴られなかったのに」
「私が飲んだのは?」
「睡眠薬みたいなものらしい。まる3日眠ってた」
「そして、ここは?」
「馬車の中で、これから辺境の地に左遷だね」
「どうしてリカルドがいるの?」
「だって、僕の事好きでいてくれたんだよね。辺境の生活は豊かじゃないと思うけど……一緒にいて。約束した通りに次に会う女性を大切にするとね。だから一緒にいて、お願い」
「だって……私とリカルドは夫婦だったのよ」
「大丈夫だよ。私の名前は『ルカ』に変わった。レイラの名前は『レラ』だよ。名前と辺境での仕事がプレゼントと罰らしい。文官として働けとね。まあ、辺境伯夫婦は事情を知っているけどね。仲良く暮らそう。君の家族にも会えるよ。生きているのだからね。家族になろうか……僕でいい?」
「うん……うん……リカルドがいいの昔も今も」
「レイラ……いやレラ……愛してます。僕と結婚を前提に付き合って。今まで出来なかったデートをしよう。沢山楽しい事してさ、旅行も行きたい。あの頃出来なかった事を一緒にしていこう」
「うん……私もリ……ルカと一緒にいたい。デートもしたい」
辺境の地に引っ越してきた1組の男女は、その1年後結婚した。
よく晴れた休日に、教会で行われるのは、ささやかな結婚式だ。
レイラの家族は表向きは新婦レラの友人として招待された。また、そのタイミングで偶然なのか辺境へと視察に来ていたリカルドの両親である国王と王妃も偶然にもその日は教会への慰問の日であった。そして1組の誕生した夫婦に祝いの言葉を述べるのであった。
「ルカ、私はとても幸せ」
「レラ……僕も幸せだよ。これからもよろしく」
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