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発足、新プロジェクト

書籍化決定!詳しくは活動報告をチェック!


「それで、一体何があったのだ?」


 巨竜半島での調査を終え、オーディスに戻ってきた私たちに対して、ユーステッド殿下は呆れ顔で聞いてきた。


「ぶぇえええええええええええええええっ! 博士が……博士がああああああああああああっ!」


 そんな殿下に対し、クラウディアはギャン泣き。私はその助手の手を引いて、ここまで戻ってきた訳だが……今の私たちは全身ドロドロに薄汚れ、異臭を放っていた。


「たったの一日でこの有様……貴様、初日から助手を盛大に振り回したのではないだろうな?」

「振り回したっちゃあ、振り回しましたけど……でも全部必要なことだったんですよ」


 ジロッと睨んでくるユーステッド殿下に、私は平然と答える。

 あの後、私はクラウディアを連れて巨竜半島中を巡って調査を行っていたんだけど、どうやらその内容がクラウディアにとってはハードだったらしい。

 怪我はさせなかったし、汚れた時はちゃんと水場まで案内したんだけどなぁ。


「滝からダイブ……断崖調査……泥沼……排泄物……ドラゴンと追いかけっこ……寿命が……寿命が縮んだ……!」

「おい、何やら不穏なことを呟いているが? 本当に問題なかったんだろうな?」

「えぇ。洗えばどうとでもなることばかりです」


 何だったら、私が庇って怪我したくらいである。

 危険な場所の調査も、ロープを作る魔法で安全を確保しつつ行っていたし、身体強化魔法を併用して、私がクラウディアをおんぶする形で行っていた。気性の荒いドラゴンに追い回された時とかは、私が囮になって鎮静化してたしね。


「でも根性ありますよ、クラウディアは」

「ほう、そうなのか?」

「えぇ。ブツクサ言いながらも最後には実行に移しますし、その上粘り強いから、危険と地味な待ち時間が多いフィールドワーク向きです」

「何でだろう……褒められてるのに嬉しくない……」


 さめざめと泣きながら、全身から異臭を放つクラウディア。

 多分、傍から見たフィールドワーク帰りの私ってこんな感じなんだろう。人間……特に女性って基本的に綺麗好きな性格って言われてるし、全身ここまで汚れることは中々許容できないのかも。


「でも楽しかったでしょ? 少なくとも、もうフィールドワークは懲り懲りとはなってないんじゃない?」

「それは……まぁ、大変なことばかりでしたけど、止める止めないは話が別と言うか……」


 クラウディアは調査中、度々泣きべそをかいていたけど、『もう帰る』とか、『もう止める』とかは一度も言わなかった。

 苦労よりも好奇心が勝っている証拠だ。この何度痛い目見ても懲りないところを見せられると、彼女を助手にしたのは間違いじゃなかったと思える。


「実際、私も助けられましたよ。やっぱり人手があるのと無いのとでは全然違いますね」


 二本ずつの手足、二つの眼球ではどうしても出来ない事って、巨竜半島の調査では度々ある。観察と並行して、情報を記録するのにも限度があるし、怪我したドラゴンの治療とか、巣から転がり落ちた巨大な卵を戻す時とか、私の体格じゃ身体強化を使ってもやりにくい種の保存活動も、横から支えてくれる人が居るだけで大分変ってくる。


「後は、クラウディアにも身体強化を始めとした、調査に役立つ魔法を覚えてもらう必要があるかな。応急処置程度でも、治癒魔法とかあったら便利だし、そこら辺は私が教えてあげるよ」

「は、はい! ありがとうございます」


 そう言うと、息を吹き返したみたいにクラウディアの表情に明るさが戻る。

 まずは身体強化と治癒魔法みたいな危険対策から教えるとしよう。何だったら、ヴィルマさんから隠遁魔法を教えてもらって、それをクラウディアに伝授するのもありかもしれない。


「とりあえず、お前たちは風呂に入って着替えてこい。こちらからも、お前たちに話があるんだ」

「……話?」


   =====


「帝都の研究機関から、巨竜半島へ調査隊が派遣される?」

「まだ確定ではないがな。そういう議論が現在行われている」


 お風呂に入ってサッパリした後、私とクラウディアはセドリック閣下の執務室に通された。

 この場には今、私たち二人や執務室の主である閣下の他に、ユーステッド殿下やティア様が居て、話を聞いてみると、アーケディア学院を始めとしたアルバラン帝国の学術機関から、植物学や魔力学、地質学、気候学、ドラゴン以外の生物学者など、色んな分野の研究者たちが調査に訪れるらしい。


「専門外からの知見が増えて、それを得る機会が恵まれるのは私にとってもありがたいんですけど……何か問題あるんですか?」

「あぁ。安全性の観点から、意見が割れていてな」


 仕事机に座っているセドリック閣下の言葉に、私とクラウディア、そして巨竜半島に実際に訪れたことがあるユーステッド殿下やティア様は『あぁ……』と、納得したような声を漏らす。


「まぁ確かに、幾ら温厚で肉食性が無いって言っても、接し方を間違えたら普通に死ねますからね、ドラゴンは」

「……私も今日、その事を身を以て実感してきました……」


 今日の調査でドラゴンに踏み潰されそうになる恐怖を味わったり、ドラゴンに追い回される恐怖を味わったりしたクラウディアは、若干青い顔で呟く。

 私自身、何の知識もない状態で暮らし始めて、ドラゴンを怒らせては何度も殺されそうになったりもした。


「長期的に見て、ドラゴンの研究は極めて重要。それに携わる者を増やす意味でも、学者たちが巨竜半島に調査へ訪れ、若者たちの関心を引かせるようにその実態を世に発信することは非常に有意義だが、現状では帝国の誰もがドラゴンを受け入れているわけではない。今回の話も同様……研究者たちは意欲的だが、彼らを雇い入れている機関の運営側は反対している」


 まぁそれも当然だろう。現状、アルバラン帝国でも試験を繰り返しながら、ウォークライ領という限定的な地域でちょっとずつ進められている事業と研究だ。

 先日の講演会や、私が不在の間に行われたというデモンストレーションで、ドラゴンの可能性については広く周知できたけど、安全性という観点から見れば、大多数の人間を納得させられるだけのデータを発表できているかと言われれば、答えは否である。


「ただ、帝国政府の働き掛けもあって、研究機関の運営側も譲歩を示してきた。比較的安全な探索ルートの確立と、現地を案内できる人材の確保……最低でもこの二つの条件が揃っていれば、巨竜半島の調査にも協力すると」

「運営者たちも、ドラゴンについて何も知らない状態が続くことへの懸念があるのだろう。可能な限り、多くの人間からドラゴンに関する知見を得て、ドラゴンの生息域が拡大しつつある現状による環境への影響を把握し、対応策を講じたいはずだ」


 強大な力を持つドラゴンの生息域が広がれば、環境や生態系に大きな変化を与えるのは既に確認済み。

 単に国の事業で利用するからってだけじゃない、私たちの生活にも否応なく影響してくるから、ドラゴンに関する研究は政府だけじゃなくて民間にとっても重要になってくるからね。ドラゴンの研究者を増やしたいと考える人間が他にも現れるのは、当然のことかもしれない


「何とか頼めないだろうか? 軍港の設置や海洋巡航の強化と、アメリアには負担も掛かるが……」

「まぁ私にとっても、研究の幅が広がる調査は大歓迎ですし……協力しますよ。案内人については私じゃなくても、ゆくゆくはクラウディアが代行できるようになれば負担も減るけど……どう? 出来そう?」

「が、頑張ってみます!」


 出来る出来ないかはともかく、意欲があるのは確認できた。その返事にひとまず満足したのか、セドリック閣下は一つ頷く。


「では残りの課題は、比較的安全な探索ルートの確保となるな」

「そう、ですね……私がゲオルギウスと出会った荒野のように、魔物が現れることも多い危険な場所は避けた方がいいと思いますが……」

「加えて、足元が不安定な場所も多いと聞く。移動距離なども考慮すると……」


 ……正直な話をさせてもらうと、こういうのは部屋の中で話し合っていても意味がない。

 危険かどうかなんて、よほどあからさまなものでもない限り、実際に体験してみないと分からない事ってのは多い。一見すると普通の平原でも、毒蛇や毒虫が大量に潜んでいるとかあるし、ある人にとっては何てことない場所でも、別の人からすれば十分危険……なんて事も普通にあるのだ。


(そして私の場合、その辺りの判別に関しては自身自信が無い)


 恐らく、お抱えの研究者が大怪我しないことを考えて、最初の内は安全なルートを足掛かりにし、ドラゴンとの接し方や巨竜半島の歩き方を学びながら、ゆくゆくは巨竜半島の深部を研究したいと考えてるんだろうけど……私の場合、どこからどこまでが危険かっていう線引きが曖昧になっている。

 元々、『死んだら死んだで仕方ない』なんて考えてるからなぁ……今日の調査でクラウディアが泣き、私が平然としていることからも分かる通り、知識としてはともかく、普通の人と比べると危険に対する感覚が鈍っている感があるし。


「それじゃあ、いっそのこと実体験してルート決めしてみます?」

「実体験……ですか?」

「そう、実体験」


 実際に巨竜半島に踏み入り、私が予め決めていたルートを巡り、比較的安全かどうかを評価してもらう……ズバリ。


「題して、巨竜半島サファリツアー。ドラゴンたちの自然な様子を観察しつつ、怪我無くルート通りに進めるかどうか……実際に歩いて決めてみてください」



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― 新着の感想 ―
そもそもの話、協力してやる、ではなく、協力してやる、させてくれ、の間違いじゃないですか? 情報が欲しいなら勝手に調査してくれって話になるし、安全の保証についても自己責任でしょ。 学者たちはノリノリなら…
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