表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/95

総取り作戦、本格開始

書籍化決定! 詳しくは活動報告をチェック!


 それからしばらくの間、魔力と体力の回復に努めていた私たちは、遠くから魔力反応が迫ってきているのを感知して立ち上がる。

 万全とまではいかなくても、ある程度動けるまでには回復できた。これ以上同じ場所に留まり続けるのもリスクになってきたし、そろそろ動くべきだろう。


「さて、そろそろ仕上げに移りましょうか。随分遠回りしましたけど、河まで何とか来れましたしね……お願いします、殿下」

「あぁ、任せておけ」


 ユーステッド殿下は河辺に生えている手頃な大きさの木を剣で両断。根っこ、枝葉、幹の三つに分断し、丸太を作り出すと、それを河に浮かべた。


「早く掴まれ、アメリア。水に流される」

「はいはいっと」


 私と殿下は河の中に入り、浮かべた丸太の上に腕を乗せてしがみ付く。

 これは即席の小舟みたいなもの……いや、人を乗せて沈まないほどの浮力はないし、どちらかと言うとビート板に近い感じになってるけど、役割を果たしてくれるならどちらでも構わない。

 大瀑布へと続く水の流れと、人がしがみ付いても浮き続けることが出来るだけの物……この二つが揃っているこの状況が、私たちは欲しかった。


「では行くぞ……しっかり掴まっていろ!」


 ユーステッド殿下の合図と共に、私は水底から足を浮かび上がらせる。

 その瞬間、殿下が発動した風の魔法により、私たちがしがみ付いていた丸太は推進力を得て、大河を遡上し始めた。


「おー、速い速い。思い付きで提案しましたけど、向きも安定してるじゃないですか」

「風魔法の応用で推進力を得る飛行魔法の研究は、辺境伯軍でも常に行われているからなっ。当然、その安定的な運用についても同様だっ。それを水上移動に応用するという発想はなかったがっ!」


 魔法の操作に集中しているのか、ユーステッド殿下は若干強い口調で答える。

 河の流れに逆らいながら、強烈な水飛沫を巻き散らして水流を左右に切り裂いて進む丸太は、さながらジェットスキーのようだった。

 当然、これだけのスピードを出して河を移動する以上、魔力もそれなりに消費する。休憩したおかげで目的を達するまでの間は殿下の魔力が尽きることは無さそうだけど、私たちの行動を感付かないほど、敵も間抜けじゃないらしい。


「案の定来ましたよ、殿下。連中、攻撃魔法で私たちを沈める気です」


 ヒューバートが雇い入れた傭兵たちが河の流れに逆らって爆走している私たちに気付いて集結。

 攻撃魔法を河に撃ち込みまくって、私たちがしがみ付く丸太を沈めようとしてきた。


「問題ない! 重心を左右に傾ける事だけを手伝ってくれ! まずは右だ!」

「ういっすっ」


 それに対し、私たちは重心を動かして丸太を左右に移動させたり、時に風魔法の出力を調整することで、スピードを緩めたり速めたりと緩急をつけることで、敵の攻撃魔法を回避しながら大河を遡上し続けた。


「くっ……!」


 とは言っても、かなり危ない橋を渡っているのは事実だ。

 すぐ傍の水面に攻撃魔法が着弾して高々と水柱を上げたり、余波を受けて痛みと共に何度も何度も吹き飛ばされそうになった。

 一歩間違えれば死亡確定、私たちが逃げ切るのが先か、敵が私たちを仕留めるのが先か、まさに命懸けのレースを繰り広げていたが……。


「もう大瀑布の目前だ! アメリア、私に掴まれ!」


 軍配は私たちに上がったらしい。

 左右からは敵傭兵の攻撃魔法、前方には大型の魔物すら呑み込む大瀑布。一見すると追い詰められたようにしか見えないだろうけど……滝に呑み込まれるその直前、ユーステッド殿下が丸太に体を乗り上げて腕を伸ばした私を抱き寄せると、風魔法をわざと暴発させて、とんでもない勢いで上空まで飛び上がった。


「チッ……! 少しコントロールを誤ったか……!」


 飛んだというよりも、吹き飛ばされた……そう表現する方が正しい理屈で巨大な滝の上まで打ち上がった私たちは、そのまま大瀑布の上にある山間湖……その周辺の荒れ果てた地面に向かって落下をし始める。

 するとユーステッド殿下は私を落とさないようにする為か、私の体を強く抱きしめながら両足を前に出し、そのまま着地。音を立てて地面に二本の線を刻みながら勢いを殺した。


「……前々から思ってましたけど、殿下も大概人間離れしてますね」

「どういう意味だ」


 いくら身体強化魔法を使っているとはいえ、あの高さから地面に降りて、足が折れていないどころか転ぶことすらしていない。ゲオルギウス相手に大立ち回りしていたのも大概だけど、アクション映画の登場人物だってもう少し人間らしい動きをしてると思う。


「さて、後はここまで来るかどうかですね」

「来ないなら来ないで、問題ない。ニールセンたちを逃がした以上、時間の経過は私たちの味方をするだけだ……だが、落ち着いて休むには、まだ早いようだ」


 そう呟くと同時に、ユーステッド殿下はグチャグチャになった山道に視線を向ける。

 私も魔力感知で探ってみると、全身から魔力を発している人間……身体強化を発動している敵傭兵が、山間湖前まで近付いてきているのが分かった。


「下がっていろ、アメリア」


 ユーステッド殿下は腰から剣を抜いて前に出る。

 それとほぼ同時に、敵傭兵たちが忍者みたいに崖や坂道を跳びながら駆け上がってきて、私たちを包囲し始めた。


「私は私の為すべきことをする。だからお前も、自分の為すべきことを為せ」


 その言葉に無言で頷くと、私は殿下の背中に隠れながら、山間湖に向かって意識を集中させる。

 これから行う事には、集中力が必要だ。私たちを取り囲んだ敵傭兵たちは、一斉に襲い掛かってきているけど、そちらは私を信じた殿下がどうにかしてくれる……その間に、私も殿下を信じてやるべきことをやらなきゃ。


「おぉおおおおおおっ!」


 殺気に満ちた敵傭兵たちが迫る中、ユーステッド殿下は気炎を吐きながら剣を振るい、時に魔法を駆使して私を守り続ける。

 斬り捨てても斬り捨てても、敵傭兵たちは次から次へと現れるけど、殿下は一歩も引かずに立ち向かい続けた。当然、敵の攻撃は私にも何度も当たりそうになるけど、それらは全て無視だ。

 ユーステッド殿下はやると言ったら意地でもやる人だから。そんな気質を表すように、殿下は防戦に徹することで、全身傷だらけにながらも、相手の数の有利を覆し続けている。


「えぇい! 追い詰めたと聞いていたのに、まだ身柄の確保が出来んのか! これだけの数が揃っているというのに、一体何をしているのだ!?」


 それからどのくらいの時が経っただろうか……辺りに転がる敵傭兵の死体が増えてきて、向こうの殿下の気迫に圧されて攻め方が慎重になってきた頃、何時まで経っても私たちを捕まえられないヒューバートが、痺れを切らして姿を現した。


「罪人ヒューバート・オズウェル…………これが最終通告だ。潔く罪を認め、自首するがいい。そうすれば、反省の意思があると司法の場で見なされ、死刑宣告から免れる可能性はある」

「自首……自首ですと? 何を馬鹿なことを! 追い詰められているのはユーステッド殿下、貴方ではないですか!」


 殿下の現状を考慮していないとも言える発言に、ヒューバートは哄笑する。

 

「しかも河という絶好の脱出路に辿り着いていたというのに、焦ってこんな場所まで逃げ込むとは! 大河の方に逃げられたと聞いた時は焦りましたが、やはり下賤な平民の血が流れていれば、頭も悪くなるらしい!」


 ヒューバートの言葉は、一部以外は正論だ。

 ただ逃げることが目的で、河を高速で移動できることも出来たなら、わざわざ危険を冒し、こうして敵に包囲されてまで山間湖に来る必要はない。そのまま河を下って、敵を振り切ってしまえば良かったのだ。

 そうすれば、私たちの命はほぼ確実に助かった……事件を引き起こしたヒューバートたちには、ほぼ確実に逃げられることを引き換えに。


「生憎だが、こちらには危機的状況であっても成果の総取りなんてことを提案する馬鹿者が居てな。ただ全員で逃げ切る事だけではない、手段があるというのであれば、出来る限り多くの下手人を捕らえ、事件を裏側に至るまで解決に導く……それこそが、皇族たる私が下すべき決断だと考えたまでだ」

「であれば、その決断は間違いでしたね。如何に殿下が武芸に優れているとはいえ、これだけの数の傭兵を敵に回しては助かりますまい。ましてや、多少身軽でも戦闘の専門外である小娘を守りながらでは」

「…………いいや、そうでもない」


 その時、ゴボゴボと水面が泡立ち始めた。同時に、水中に潜んでいた強烈すぎる魔力が迫ってくるのを感知する。

 この異変には私や殿下だけでなく、敵傭兵たちも感付いたのか、連中の間に緊張感のようなものが走ったように見えるけど……もう遅い。


「忘れるな、ヒューバート・オズウェル。彼女は皇族にとって恩人であり、ウォークライ領の救世主であると同時に……ドラゴンを手懐けた世界で最初の人間だという事を」


 ユーステッド殿下がそう言った……丁度そのタイミングで、山間湖が爆発したかのような巨大な水柱が上がり、見上げるほど巨大なドラゴン……キリガクレナガヒゲリュウが姿を現すのだった。




面白いと思っていただければ、評価ポイント、お気に入り登録よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白くなってきました!これから、大逆転、殿下の顔の傷の代償をたっぷりと払ってもらえますね! 更には、サテツマトイ竜に、鉄のゴーレムも何とかしてもらえたら、尚よしですが、どうなのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ