ティアーユの選択
本気で体調を崩した時のティアーユ殿下は、息は荒く、顔も赤くなっていて、本当に苦しそうだった。
魔蝕病による自律神経の乱れが、体温調整にまで及んでいるのではないかと言うのが、今の医学界での見解らしい。それで風邪にも似た症状が現れるらしいんだけど、その一番苦しいはずの本人が、お見舞いに来た私とユーステッド殿下に対して、なぜか申し訳なさそうな視線を向けていた。
「本当にごめんなさい……せっかくお二人が予定を組んでくれたのに、駄目にして……セドリック叔父様にもテオル先生にも、申し訳が……」
「それはいい。お前が悪いわけではないのだ」
「病気の発作は本人じゃどうにもできないですしね。それを一々気にしてたらやってられないですよ」
どんなに体調を整えようと気を配っても、発作が出る時は出る。
だから別にティアーユ殿下は何も悪くないんだけど……私たちの言葉じゃ心が晴れないのか、ティアーユ殿下は却って泣きそうな顔をしていた。
「でも……いつもこうなんです……アメリア様。私は肝心な時にばかり、足を引っ張ってしまう……」
心底口惜しそうにそう呟くティアーユ殿下。
その声には、これ以上ないってくらいの悔恨と、そして自分に対する失望感が滲み出ているように聞こえた。
「昔から、大切な時にばかり体調が崩れるんです……お母様やお兄様たちの生誕祝いの時もそう……お父様の国葬式の時もそう……諸外国への挨拶を兼ねた、初めてのパーティーの時もそう……大事な時に限って、私のせいで周りに迷惑ばかりを掛けてしまう……」
熱に浮かされているからだろうか、何時になく弱音を吐くティアーユ殿下の懺悔に似た吐露を聞いて、私は前世で同じ病院に入院していた子の話を思い出す。
その子は肺に持病を抱えてるとかで、定期的に発作を起こしてはその度に入退院を繰り替えしていたんだけど、肝心な時に限って発作が出てしまうのだと泣いていた。
デートの直前、期末テストの前日、友達と遊園地に行く前……そういう人生のイベント前に、まるで落とし穴でも空いているんじゃないかと。
「お母様が、私を帝都から離れたウォークライ領に送るのも当然です……私などが傍にいては、ただの足手纏いになってしまう……皇女なのにまともに公務も果たせない娘など、激動の時代を迎えた帝国を立て直すために動いておられるお母様にとって、さぞ邪魔な存在でしょう……」
「ティアーユ、それだけは違うっ。正妃殿下はお前を疎んでいるわけでは……っ!」
ユーステッド殿下は何とか慰めようとしているけど、完全に思考が負のループに突入してしまったらしい。
こうなってしまったら、生半可な言葉では胸に響かない。ティアーユ殿下の声には、とうとう涙交じりのものへと変わっていった。
「皇女なのに何の役にも立てない……それどころか、人に負担ばかりを与えてしまう……それがもう、本当に情けなくて……っ」
完全に気が滅入ってしまったのだろう。頭から布団を被って閉じ籠り、誰にも泣き顔を見せないようにしながら涙声を必死に押し殺すティアーユ殿下に、ユーステッド殿下はオロオロと困った様子で、所在なさげに両手を上げたり下げたりしている。
馬鹿が付くほど実直な性格の人だ。こういう時に適当な慰めの言葉が思いつかなくて、どうすればいいのか分からないんだろう。
「……はぁ~~~」
という事は、だ。この微妙な空気をどうにかしなきゃいけないのは、私しかいないってことなんだろう。
私は深々と溜息を吐きながら、ベッドの脇に置いてある水桶に漬けられていたタオルを絞ると……。
「えぇいっ! さっきから黙って聞いていればジメジメウジウジと辛気臭いっ! とっとと布団から頭出してくださいカメ娘! 額に濡れタオルが置けないじゃないですかっ!」
「あうっ!? つ、冷たいっ!? カ、カメ……!?」
ガバッと勢いよく布団を剥ぎ取ってティアーユ殿下の頭を露出させると、私はその額に勢いよく濡れタオルを置く。
そんな私の言動にティアーユ殿下はひたすら目を丸くし、隣にいたユーステッド殿下は怒りと驚きで全身をワナワナ震わせ、口を魚みたいにパクパクさせている。
「お、おまっ……お前っ!? 一体何をやっているのだ!? 相手は病人だぞ!? しかも皇女に対してカメ娘などと……!」
「うっさーい! もう知ったことかーっ!」
今日まで、私は私なりにティアーユ殿下に気を配ってきたつもりだ。病気で気が滅入る気持ちは痛いほど分かるし、別に話をして気を紛らわす手助けをするくらいなら吝かじゃなかった。
でもそれももう我慢の限界である。相手にするのが面倒になったとか、そういうんじゃない。私の極々個人的な理由によって、だ。
「会った時から思ってましたけど、如何にも両生類が好きそうな湿度の高い陰気なオーラを振り撒いてからに! ぶっちゃけ気が散るんですよ! そんな近くで何時までもメソメソ泣かれてたら、私が気持ちよくドラゴンの研究に集中できないじゃないですかっ!」
「へ……えぅ……? ご、ごめん、なさい……?」
鬱憤を爆発させる私と、そんな私に目を白黒させながら、まるで口癖のように謝ってくるティアーユ殿下。
こういう後ろ向きに気持ちが捻じ曲がった人間に、慰めの言葉なんて逆効果だ。だから私は優しくなんてしてやらない、思ったことを遠慮なく口にしてやる。
「き、貴様やけにティアーユの治療に協力的だと思っていたが、まさかそんな理由だったのか!? ティアーユの為ではなく、本当に一から十まで自分のため!?」
「当たり前でしょう! 私を何だと思ってるんですか!?」
「それはこちらのセリフだ! 本当に何なのだ貴様は!?」
もしかして、私が怪我をして帰って来た日の会話から、私がツンデレ発言でもしたと思い込んでいたんだろうか?
だとしたら本当に見当違いも甚だしい。私は適当で意味のない嘘なんてあんまり言わないタイプなのだ。
「おまけにティアーユ殿下のジメジメオーラがカビみたいに屋敷中に広がって、周りの人間まで辛気臭くなってきていてやってらんないんですよ! 特にユーステッド殿下、貴方ですよ貴方!」
「わ、私だと!?」
「そうですよ! 普段から落ち込む時はとことん落ち込むタイプですけど、ティアーユ殿下に発作が出ている時は特に酷い! カビ臭さすら感じてくるレベルです!」
私は辺境伯邸に居候し、辺境伯家からの出資に寄ってドラゴンの研究をしている分、どうしてもユーステッド殿下と関わる時間は長くなる。
そんな私の目から見て、ここ最近のユーステッド殿下ときたら、茸を生やして胞子でも撒き散らしているんじゃないかってくらいに辛気臭かった。
きっと家族が心配で、『自分が代わってやれれば……』なんてことを思ってたんだろう。その気持ち自体は責めはしないけど、見ているこっちまで辛気臭くなりそうだったわ。
「という訳ですから、ティアーユ殿下。私の研究環境を守るために、いい加減にその病気の発作をどうにかしちゃいましょう」
「ど……どうにかと、言われましても……」
軽々しく言ってのける私に困惑した視線を向けてくるティアーユ殿下。
しかし、そんな妹とは対照的に、ユーステッド殿下は何かを察したかのようにハッとした表情を浮かべた。
「お前、まさか……!」
「多分その直感、今度こそ当たりですよ」
動物の中には、捕食者を前にしても呑気に寝そべっている間抜けた個体も存在するけど、私は違う。変化している状況に対応せずに動かないほど間抜けじゃないのである。
私はそのまま部屋の出入り口に向かってドアを開けると、大きく息を吸い込んで屋敷全体に轟けとばかりに叫んだ。
「セドリック閣下ぁーっ! テオル先生ぇーっ! 集ぅぅ合ぉぉぉぉぉっ!」
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「結論から申し上げますと、ティアーユ殿下を苦しめる魔蝕病の発作を安定的に抑える新しい療法が見つかりました」
セドリック閣下とテオル先生をティアーユ殿下の部屋まで呼び出して色々用件を伝えると、テオル先生は端的にそう切り出した。
このこと自体は閣下とユーステッド殿下にも伝えていたから二人は驚いていない。驚いているのは、変な糠喜びをさせないために情報をあえて伏せられていたティアーユ殿下だけだ。
「そ、それは本当ですか……!?」
「えぇ。根本的な治療という訳にはいきませんが、薬で症状を抑えるしかなかった現状と比べれば、日常生活に支障をきたさないレベルにまで改善する見込みがあるのですが……ここから先は、アメリア女史の方から説明していただいた方がよろしいでしょう」
それはそうだろう、私が巨竜半島で得たデータを基にこの対症療法を確立したのはテオル先生だけど、思い付いたのは私だしね。
何よりこれから話すのはドラゴンの事でもある。私はテオル先生から引き継ぐ形で口を開いた。
「まず前提条件として、大半のドラゴンは口から魔力を取り込み、食道を通じて体内の胃袋……魔力を栄養素に変える内燃器官とでも呼ぶべき臓器に送られます。これによってドラゴンたちは狩りをせずとも生命活動を維持することが出来るんですけど、実は全てのドラゴンがこれに当て嵌まっている訳じゃない。巨竜半島には、狩りをすることで魔力を得ているドラゴンも存在しているんです」
魔力を糧に肉体を維持しているという点では同じだけど、別の生物を害することでしか生きられない、ある意味生物としては当然とも言えるドラゴンたちが、巨竜半島には生息しているのである。
「その内の一種が、シメアゲカエンリュウと私が名付けたドラゴンです」
シメアゲカエンリュウは、火竜目蛇竜科に属する、翼はあるけど四肢のないドラゴンで、神話で言うところのワイアームと呼ばれる竜に近い姿をした種族だ。
爪を持たない代わりに強靭な牙と顎、巨大な一対の角と翼を持っており、全身の体色は火属性を表す赤銅色で、主に巨竜半島のガドレス樹海付近にある荒野に生息している。
「狩りを行う生物は数知れませんが、このドラゴンは極めて特異な狩猟方法をしていましてね。獲物の体に巻き付いて締め上げ、全身に空いている毛穴ほどの大きさをした吸収口から相手の魔力を吸い取っちゃうんですよ」
まるで樹木に巻き付いて栄養を吸い取ってしまう寄生植物のような特異な生態をしているドラゴンだ。
そういう食事方法をしているからか、シメアゲカエンリュウはガドレス樹海付近にある荒野を生息地にしている。あそこは豊かな自然を求めて毎日魔物が押し寄せてくる場所だから。
「そんなドラゴンの生態を踏まえて私が提案したのが、シメアゲカエンリュウの特性を利用して、ティアーユ殿下の魔力を吸い取ってもらおうってことです」
ティアーユ殿下は魔蝕病の影響で、魔力の流動操作が出来ない状態にある。だから発作が起こるのを自力じゃ防ぎ切れないし、風邪に似た症状を抑えるという対症療法しかできなかったんだけど、じゃあ発作が起こる要因を潰しちゃえばいいじゃんって思ったのだ。
漏れ出るくらいに過剰な体内の魔力が体調を崩す要因だというなら、それを吸い取らせてしまえばいい。好みの火属性魔力を与えるにしても、属性変換だけは出来るから問題はないし。
(実際、動物を使った治療は前世でも存在していたしね)
この世界にはないみたいだけど、前世では吸血ヒルを使った治療方法が存在する。
ヒルジンと呼ばれる血が固まるのを防ぐ物質を出すことが出来るヒルを、鬱血状態にある患部を吸わせるほどで、血の巡りを促進させて余分な血を吸わせることで症状の回復を促進することが出来る。
今回私が思いついたのは、そんなヒルによる治療法を参考にしたもので、テオル先生の検証の下、試す価値ありと判断されたものだ。
「現状では理論的には可能という段階に過ぎませんが、もしこの治療方法が成功すれば医学界を激震させる画期的な治療方法になるのは確かです……ですが、その分危険もあるのですよね?」
「そうですね。そもそもシメアゲカエンリュウ自体が狂暴な種族ですし」
大気中の魔力を吸収するドラゴンと違い、シメアゲカエンリュウは狩りをするドラゴンだ。
狩りの必要性が無くなってきて全体的に温厚な気質になりつつある他のドラゴンと違い、シメアゲカエンリュウは未だに狩猟本能が強く根差していて、気性が荒い性質を持っている。
「私も試しにシメアゲカエンリュウに巻き付かれて魔力を与えてみたんですけど、結構痛い目見ましたからね」
「お前そんなことをしていたのか!?」
「いやまぁ、それは置いといて」
尻尾の先端で軽く巻き付かれただけなのに、骨にちょっとヒビが入った。流石はドラゴンと言うべきか、とんでもないパワーである。ティアーユ殿下が同じ目に遭えば一溜りもないだろう。
「ドラゴンの中には狂暴な気質の種族もいるとは聞いていたが……やはり危険ではないか? 話を聞く限りだと、魔物だけでなく人間が相手でも危害を加えてくるのだろう?」
「そう思うでしょ? でも飼い慣らせる余地はあるんですよ。実際、シメアゲカエンリュウは狩りはするけど獲物は生かして帰すなんて言う、自然界では非常に変わったことをしますからね」
野生動物同士の戦いと言うのは、基本的に食うか食われるかの殺し合いだ。
しかし、シメアゲカエンリュウは魔力を吸い上げて動けなくなった獲物を殺すことなく、あえて放置することで再び餌となる魔力を獲物自身に生成させ、それを再び吸収するというサイクルを繰り返している。
それはまるで人間が山に生える山菜を全ては採らず、来年以降も収穫できるように敢えて残すように……勢い余って獲物を殺してしまうことはあるけど、種の存続の為に極めて高度な狩りをしていると言っても良いだろう。
「そこで私、試してみたんです。シメアゲカエンリュウが人間と上手く相互利益による共存が出来るかどうかを」
結果から言えば、可能であるという事が分かった。
勿論個体にもよるだろうけど、私が識別票代わりにハチマキを付けて重点的に接触を繰り返した個体は、体内の魔力属性を火属性に変換したものを吸収させることを条件に、こちらの要求を叶えるだけの知能と理性があることは、先日の調査で確認済みだ。
魔石こそ食べないけれど、属性変換によって自然界ではそうそう得られない高純度な属性魔力が魅力的に見えるという点は、他のドラゴンと変わらないのである。
「牧羊犬とかだって、本来は気性が荒くて人を襲いますけど、躾をちゃんとすれば人の生活を手助けするでしょ? それと同じ感じで、きちんと人間を襲わないように高純度の火属性魔力を対価に教え込めば、ティアーユ殿下の魔力を吸い取り、生活を支えるパートナーになり得るのではないか……というのが、私の仮説です」
「おぉ……! では早速、そのシメアゲカエンリュウとやらをウォークライ領に移動させて……」
「と、行きたいところですよね? でもちょっと問題ありまして」
逸る気持ちを抑えられないといった様子のユーステッド殿下を『問題』という冷や水を掛けて宥める。
「私も最初はウォークライ領に来てもらうよう、比較的仲良くなって人間とはどういう存在かを教えた個体に、魔力を餌に交渉をしてみたんですよ。樹海の向こう側にも餌となる魔物がわんさか現れる、高純度な火属性魔力を毎日吸わせてくれる人がいるって感じの思念波を送ってね。でも拒否られてしまいまして」
「断られた? どういうことだ?」
ドラゴンは言葉を話せないけど、教え込めばこちらの質問に対して首を上下左右に振ることを覚えるくらいの知能がある。
私はそれを駆使して簡単なコミュニケーションを繰り返して取ってみて、シメアゲカエンリュウの意図するものを地道に読み取ってみたんだけど……。
「結論から言うと、疑われてしまったみたいでして……本当に自分の為に毎日純度の高い火属性魔力を提供してくれる人間がいるのか、その点が怪しいみたいです」
「人を疑ったのか? 野生動物であるドラゴンが?」
「えぇ。単に餌に釣られずに疑うというのは高度な知能の表れ。そんなドラゴンの脳構造についてはじっくりと研究や議論を重ねたいところですが……今は置いておきましょう」
もしシメアゲカエンリュウの餌を用意できる人間がいなければ、わざわざウォークライ領側に移動するメリットが薄い。だから簡単に住処の移動に同意してくれないというのは理解できる。
問題は、私ではシメアゲカエンリュウの要望を満たすのは、立場的にもスタンス的にも難しいということだ。
私の魔力量にも限りがある。ドラゴンが喜ぶほどの高純度の魔石を生成するのにも結構な魔力量が必要だし、前回みたいに帝都に呼び出されるみたいなことがあれば、シメアゲカエンリュウを置いてしばらく離れるという事もしないといけないだろう。
(多分、その点を見抜かれたんだろうなぁ)
だから私の思念波では、あのシメアゲカエンリュウは住処を変えることに同意しなかった。
もしあの個体を手懐け、住処を変えさせることが出来るとすれば……日常的に行動を共にすることが出来るパートナーとなり得る人間しかいない。
「ティアーユ殿下。貴方が巨竜半島に自ら赴いて、シメアゲカエンリュウを手懐けるしかないんです」
「わ、私がですか……!?」
この私の言葉に、当の本人だけでなく、周囲の人間も驚いた。
当然だと思う。道中までならともかく、病弱な皇女に魔物が多く生息している地域に出向かせ、気性が荒い気質のシメアゲカエンリュウと対面させようとしているのだ。逆の立場なら、私も『何言ってるんだコイツは?』ってなると思う。
でも殿下の病気を考えれば、シメアゲカエンリュウの傍に毎日居てもらった方が良いし、シメアゲカエンリュウ側からしても上質な餌が毎日得られるから、相性的には良いはずだ。
「もちろん、殿下がドラゴンに毎日高純度の魔力を与えると誓えるならの話です。気性が荒い分、警戒心が強くて疑り深いシメアゲカエンリュウを手懐けるなら、その当人が自らドラゴンに思念波を送るしかない」
ちなみに代役を立てるなんてことは期待しない方が良い。
私も散々試してみたけど、流石のドラゴンも目の前にいる生物の思考しか読み取れないからか、『この場に居ない別の誰かが上質な餌を用意する』みたいな話は信じない。
ドラゴンと心を通わせるのであれば、当の本人がドラゴンと直接対面する他にないのである。
「もちろん危険はあります。目的地までの移動も考慮すれば、ティアーユ殿下には大きな負担が圧し掛かるでしょう」
その点に関しては、周りがフォローするしかないけど、不測の事態が起こる可能性は消せないし、どう足掻いても危険は拭えない。大自然に足を踏み込むというのは、そういう事だ。
「それでも貴女は決めなくちゃいけない。誰かの為ではなく自分の為に、誰の意思も介さずに自分の意思で……ティアーユ・グレイ・アルバランという命の在り方を、貴女自身が決めるんだ」
ティアーユ殿下には選択の自由がある。私の発案を退けて生き永らえることを選ぶか、私の発案を受け入れて死中に活を得るか。そのどちらを選んだって、何も悪いことはない。
それでも、選択するという決断からは、どんな生物も逃げられない。逃げるにしろ、戦うにしろ、生きるためにはただひたすら選択し続けるしかないのだ。その選択の自由は、常にティアーユ殿下と共にある。
だから私はどんな生物がどんな選択を選んでもそれを否定しない……そんな意思を込めてティアーユ殿下の目を真っすぐ見ていると、殿下は何度も口ごもりながらも、やがて必死な様子で叫んだ。
「行きます……行きたいです……! 巨竜半島へっ!」
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