高原を駈ける羽毛の竜
数日後、私たちはスサノオが引く中型船に乗って巨竜半島へ向かっていた。
同行しているのは、ユーステッド殿下を含めた辺境伯軍の兵士五名。殿下を除けばいずれも二十代の若い面々で、訓練兵期間を超えて実際に戦場で活躍する人ばかりらしい。
数に関しては少ないように思うけど、私一人が監督できる人数としては、このくらいが限度らしい。
「我々にとって、巨竜半島に関しては未知の場所同然だ。私は三度ほど出向いたが、お前の力が無ければ騎乗用のドラゴン候補を探し出すことすらできない。よろしく頼むぞ、アメリア」
「えぇ。私の指示に従って、しっかりと付いてきてください」
甲板で海風に当たりながら、殿下に念を押すように言われて、私は頷く。
皇族相手に「指示に従え」なんて言う日が来るなんて思わなかったけど、慣れない山林を歩き回ることへの危険性は、私が自分の身で実証済みだ。地中に石とかが少ないのか、固まってなくて柔い場所に足を掛けて滑り落ちたり、毒性植物の群生地に足を踏み入れちゃったり。
「それで、前に候補をリストアップしたのを渡しましたけど、結局どのドラゴンをウォークライ領に連れ帰ることにしたんですか? やっぱり、飛行能力がある奴?」
「いや、それも有力視されていたが、実際に乗った身としては、人間にはまだ早いと考えている」
何を思い返していたのか、渋い顔をしながらユーステッド殿下は私の言葉を否定する。
海も山も森も超えて、最短距離で目的地まで辿り着ける飛行性のあるドラゴンであれば、セドリック閣下たちの希望に見合うと思ったんだけど、どうやら違ったらしい。
「多くの人間にとって、空を飛ぶという行為は未だ不可能とされる領域だ。馬を優に凌ぐ高速移動もそうではあるが、地面から離れて移動するという感覚にはまるで馴染みが無い上に、落下した場合などの緊急時への対応策がどうしても限定的になる」
あー、確かに。飛行魔法なんて言うのも無いんだったら、いざ飛んでるドラゴンから落下してしまった場合、魔法込みでも助からない確率は落馬した時と比べたらずっと高いか。
「なのにあの火災の時、準備無しでドラゴンに乗って飛んで行くことにしたんですか? 乗せたのは私ですけど……やっぱり根性あるというか、何と言うか」
「緊急時に我が身可愛さに領民の元に駆けつけない皇族がどこにいるというのだ。それにあの時は、鎮火する手立てがあったのだから、いの一番に現場に向かわなければならない状況だっただろう」
そんな矜持だけあって、行動に移せない人間なんて山ほどいる。初めての飛行経験で最初の方こそ色々言ってはいたけど、最後には文句も言わずにドラゴンに乗り込んだ殿下が言うと、妙に説得力があるな。
「そういうお前こそ、その細腕でよく手綱や鐙もなくドラゴンを乗り回せるな?」
「私はほら、慣れてますし」
巨竜半島では徒歩での移動も多かったけど、都合さえ合えばドラゴンの背中に乗せてもらって、各地の調査に出向いていた。
その結果、色んな種族を乗り回していて、今ではどのドラゴンに、どんなふうに乗ればいいのか……そう言うのは大体把握しているのだ。
飛行性のドラゴンの中には、地面スレスレの低空飛行が出来たりするのもいるし、割と安全……という訳じゃないけど、比較的死ににくい騎乗練習が出来たりしたし。
「いずれにせよ、最初は人間にとっても馴染みやすい、馬と同じような要領で乗れそうな走竜科の種族が好ましい。そこで我々がリストにある中から選んだ種が、ヘキソウウモウリュウというドラゴンだ」
ヘキソウウモウリュウ……全身に鱗ではなく、碧色と呼ばれる青緑の羽毛が生えた、風竜目走竜科のドラゴンだ。
初めて見た時はダチョウのような飛べない鳥に属している生物なのかと疑いもしたけど、嘴も無いのに角や牙、尻尾はあるし、主食は魔力であるという点からドラゴンの一種に分類分けしたのである。
「風属性のドラゴンであれば、いざブレスを吐いた時でも火災による二次被害も出難い。個体数も多いというし、少数であれば連れ帰っても問題ないだろう……何よりも、アメリアがスサノオやジークと並んで共に行動している、温厚な種族だというのであれば、我々にとってのハードルも下がるというものだろう」
「シグルドのことですね」
そして私は、広大な巨竜半島での移動の際、シグルドという個体名を付けたヘキソウウモウリュウに乗っているケースが多いのである。
他にも、空を飛ぶことが出来るドラゴンにも個体名を与え、頻繁に乗り回してはいるんだけど、そう言ったドラゴンは飛行時に翼を広げる必要があったりするから、狭い場所には入っていけない。
(その点、ヘキソウウモウリュウは、人が乗れる大きさのドラゴンの中でも、スリムでコンパクトな体をしてるから、狭い場所を走り抜けていくことが出来て、森の中に生息するドラゴンの調査する時に役立ってくれてるんだよね)
そうでもないと、あんなデカい半島を調査して回るとか無理だし。
入り込んできた魔物の脅威も考えると、ドラゴンに協力を仰いで一緒に行動してもらった方が何かと安全だ。
「そんなヘキソウウモウリュウは、ハシリワタリカリュウの近縁種で、非常に近い骨格をしてはいるんですけど、生態に関しては違いがありまして……群れる時もあるけれど、共生関係は築かないんですよ」
ハシリワタリカリュウは群れで連携することで外敵を排除する姿勢を見せたが、ヘキソウウモウリュウは単独で過ごしているケースも多い。
生息範囲がそこまで広くはなく、近くに自分以外の生物が居ても平気だったりするんだろう。同種も別種も問わずに様々な生き物が近く居る中でも、腹這いになって呑気に寝ていたりすることもあるくらいには温厚なドラゴンだ。
「でもそれは生存の為に群れている訳じゃないんです。ただ個体数が多い分、他の生物と居合わせる確率が高いってだけみたいでして、単独で行動し続けるヘキソウウモウリュウも沢山いたりします」
そもそもの話、動物が群れて移動するのは、外敵から逃れ、効率よく餌を探すための行為だ。
大気中の魔力すらも食料とし、外敵なんて単独で蹴散らせるドラゴンは、そもそも群れる必要性すらなく、交尾をして子供が生まれても、成長して巣立てば子供とも伴侶ともそれっきりというドラゴンの方が多い。
スサノオの種族であるクビナガセオイリュウもこのケースで、私からすれば、ハシリワタリカリュウの方が訳の分からない生態をしているのだ。
「動物を家畜化するにあたって、その種族自体に社会性や序列制度が根付いていることは極めて重要な要素です。その観点から見れば、ヘキソウウモウリュウのような単独行動をするドラゴンは人間の元で過ごすのに向いていないんですけど……それを補って余りあるのが、彼らの知能の高さと、感情を読み取る力です」
ドラゴンたちは自分たちにとって上質な餌となる魔石を手に入れる判断を個々に行い、実行に移す決断力がある。
ただ本能的に動いているのではなく、「どうすれば魔石を食べられるか」を利己的に思考する知能があるのだ。そこに加えて、相手の感情を読み取る能力を使うことで、「人間の手助けをすればご馳走を貰える」と学習している。
ジークやスサノオ、そして氷山地帯のドラゴンたちが、自分たちの生息域を超えて人間に手を貸したのも、そういう理屈だ。
「家畜化の際には動物側に人間がリーダーであると思い込ませるのが重要なわけですけど、知能が高く力が強いドラゴンの場合だと、人間を対等な取引相手と思わせるのが重要ですね。むしろ家畜扱いして見下すようになったら、その感情を読み取って「言う事聞いても餌をくれない奴」と学習してしまう可能性もあります。それに、逆ギレして怒りの感情なんて向けようものならどうなるか……それは殿下も似たような体験してますよね?」
人間だって、いくら働いても給料を貰えなかったら、その会社で働く気を無くす。それと似た心理が、ドラゴンの中でも形成されるんじゃないかと、数々の検証実験を経て、私はそういう仮説を立てている。
ドラゴンの知能と感情は、それだけ高度なものだという事だ。
「なるほど……であれば、やはり巨竜半島への立ち入りは、正式な法整備によって制限を設けた方が良いだろうな。戻ったら叔父上に上申しなければ」
巨竜半島は国際的にアルバラン帝国領という事になっているが、そこに立ち入ること自体は法律で明確には禁止されていない。
危険地帯として幅広く認識されていて、わざわざ立ち入ろうなんて言う物好きが、私を除いて一人も居なかったからだ。しかし私を通じてドラゴンが人間と共生関係を築ける可能性が出てきた今、欲深い人間が巨竜半島に入り込み、ドラゴンを無理矢理連れ出そうとするのを阻止する必要性が出てきたと、閣下や殿下たちは考えてくれているらしい。
(まぁ無理矢理ドラゴンを従わせようとして、逆に怒らせてドラゴンに殺される……なんていうのも出てきそうだしね)
ドラゴン側だって、そんな人間ばかりが入ってきたらストレスにしかならないだろうし、下手をすればドラゴン全体が人間を敵と認識する可能性だってある。半島入りに明確な制限を設けるのは、当然の流れだ。
もちろん、私はそんなのとは関係なく出入りする予定だけどね。閣下からも、「其方なら問題ないだろう」ってお墨付き貰ってるし。
「お話し中失礼します、ユーステッド殿下。間もなく、巨竜半島の沿岸に到着します」
そんなことを話していると、一人の女兵士さんが近付いてきた。
今回のドラゴンの騎乗を希望し、第一陣としてここまで同行した五人の内の一人なんだけど……どこかで見たような……?
「あ、もしかして。ハシリワタリカリュウの時に色々とお世話になった女兵士さん?」
「はい、その通りです。ご無沙汰しております、アメリア博士」
私に清拭の為の布やバケツをくれたり、着替えの時にはバリケードを作ってくれたりと、女性ならでは視点から何かと親切にしてくれた兵士だ。
あの時は私も観察に忙しく、お互いに名乗り合う機会こそなかったけど、女にしては高身長で、長い赤髪をポニーテールにしていたりと、割と見た目の特徴もあったので覚えている。
「ウォークライ辺境伯爵軍、騎兵部隊所属、ヴィルマ・ニールセンです。この度は、ウォークライの救世主であるアメリア博士にご同行できたことを、大変名誉に思います」
「いや、だからその救世主とか博士とか、そういう呼び方は勘弁してくださいって……改めまして、アメリアです。正式な肩書なんてのは無いですけど、どうぞよろしくお願いします」
背筋を伸ばして敬礼をする女兵士……ヴィルマさんに、私は気恥ずかしさで顔を歪めながら自己紹介をする。
「ではそろそろ下船準備をしよう。必要な物を纏め、アメリアが先導する形で、巨竜半島での活動を開始する」
そんな殿下の号令と共に、ヴィルマさんたちを始めとした兵士たちは素早く荷物を用意し、船の錨を下ろして小舟を用意すると、私を乗せて巨竜半島の砂浜まで移動する。
こういうテキパキ動けるところは、やっぱり軍隊に属している本職の兵士なんだなぁ……と、思わず感心させられてしまった。
「それじゃあ早速移動しましょうか。ヘキソウウモウリュウの生息域まで案内しますよ」
スサノオにお礼の魔石を与えてからそう言うと、私は殿下たちの前を歩く形で砂浜を出て、辺り一面が緑で覆われた平原をズンズンと進んでいく。
その後ろには、私が用意した地図やらコンパスを持ち、私が歩いた後をなぞるように、殿下たちがピッタリと付いてきているんだけど、その腰には剣などの武器は一切存在していなかった。
「アメリア、言われた通りに武器は全て置いてきたが……本当に大丈夫なのか? いざという時は魔法で対処できるから承諾したが……」
「身近に武器があると、『何時でも攻撃できる』っていう意識が芽生えるらしいですからね。それを読み取ることで、ドラゴンも敵対姿勢に入るかもしれません」
人間にとってドラゴンは恐ろしい怪物だと長年信じてきたけど、ドラゴンはそんな人間の事情なんて自発的には考慮しない。人間側が武器を持っていてもドラゴンを害さないと無意識に思えるようになるまでは、可能な限り丸腰の状態で対面した方が良いと思う。
「さて……この辺りにいると思うんですけど」
そうして二時間ほど歩き、私が案内したのは、高い丘陵を超えた先にある高原地帯だ。風が良く吹き、絨毯のように生え広がる青々とした草原が波のように揺れるこの場所は、ヘキソウウモウリュウが好む風の魔力が多いのか、彼らはよくこの場所を訪れているんだけど……。
「あ、早速一頭見つけた。しかもあれは……」
高原に入ってすぐに見つけた一頭のヘキソウウモウリュウ。その羽毛に覆われていない脚部に、大きな傷跡があるのを見つけて、私はその個体に駆け寄った。
「シグルド」
私がそう呼びかけると同時に思念波を送ると、件の個体……シグルドは私の方に振り向くと同時に駆け寄ってきて、その頭を私の体に擦り付けてくる。
このシグルドは数年ほど前、まだ体が小さくて力が弱い幼体の時に、魔物との戦いで足を怪我をしているところを、私が看病した個体だ。
その時は酷く興奮していて、地面に倒れながらも威嚇されたり嚙まれたり蹴られたりしたけど、それを我慢し続けた甲斐もあってか、こうして私を見かけると駆け寄ってくるくらいには仲良くなった。
「数日ぶりだねー、シグルド。元気してる? 足も良く動くし、羽の艶も良いねー、よーしよしよしよし」
オーディスに移った後も、巨竜半島に出向く際にはこの子の元に訪れて背中に乗せてもらっているけど、今日は何時もよりも少し念入りに顎や顔を撫でてスキンシップをし、本題に移る。
「今日はねー、シグルドの同族と仲良くしたいって奴が来ててねー。見かけてたら、ちょっと案内してほしいんだけど」
私が口にした通りの思念をシグルドに送ると、シグルドは自ら身を屈めて私が乗りやすいようにしてくれる。
その背中に遠慮なく乗ると、ゆっくりと歩き出すシグルドを見て「おぉ……!」という驚きの声を漏らす兵士たちを引き連れ、シグルドに案内されるがままに高原を移動する。やがて、十数頭のヘキソウウモウリュウたちを始めとした、色んな生物が思い思いに集まる場所まで来た。
「さて、それじゃあ早速ですけど、皆さんには実際にヘキソウウモウリュウたちとスキンシップをとって貰いたいと思います」
いよいよこの時が来た……そんな緊張がありありと浮かぶ表情を、殿下やヴィルマさんたちが一斉に浮かべる。
「やり方は至ってシンプル。まずは語り掛けたい個体を選び、その個体に意識を集中させながら、頭の中で強く呼びかける……それだけです」
そうすれば、ドラゴンの方から勝手に意識を向けてくる。そうなったら、後は思念波と魔石を駆使した交渉をすればいい。
「ドラゴンは文字や言語を理解している訳じゃないですから、口に出す言葉はドラゴンに伝えたい思念波のイメージを固めるのに使うくらいです。後は絵本のように、絵面を思い浮かべながらって言うのも効果的ですね。
要求するのは『背中に乗せてほしい』でも、『頭を撫でさせてほしい』でも何でもいいんで、とにかく対価を支払うから要求を呑んでほしいと強くイメージするんです。無償で魔石を上げるのはタブーなんで、そこは注意してくださいね」
野生動物にタダで餌を上げるのは、基本的に止めておいた方が良い。
前世では、人間から可愛がられて餌を貰っていたキツネが自力での狩りのやり方を忘れ、人間が居なくなったことで瘦せ細ったという話もある。
ドラゴンにも同じことをすれば、似たような現象が起きる可能性もあるし、私も魔石を与える時はドラゴンに何らかの交渉をする時か、興奮して暴れるドラゴンを宥める時くらいだ。
そう私が説明すると、兵士の人たちは魔石生成の魔法を使って風属性を表す緑色の結晶体を作り出し、思い思いにドラゴンに接触していく。
「さて、これだけの数の人間と接触するのは、ドラゴンたちにとっても初めての事のはずだけど、一体どうなることかな……うん?」
データを取るためにその様子を画板を首にかけ、ペンを走らせて観察しながら監視していると、ふと私の視界に、真正面から向かい合うユーステッド殿下と、一頭のヘキソウウモウリュウの姿が入り込んだ。
とても動物と触れ合おうという風には見えない、どことなく厳格なオーラを大真面目な顔で発している殿下。心なしか、ヘキソウウモウリュウも若干身を引いてる気がする。
「お初にお目に掛る。私はアルバラン帝国第二皇子にして次期ウォークライ辺境伯、ユーステッド・グレイ・アルバランと言う者だ」
そして何を思ったのか、殿下は偉い人を前にした時みたいな堂々とした口上で、ヘキソウウモウリュウに名乗り上げた。
「現在、我が国は国家元首の不在による権力闘争が激化し、諸外国からも侵略の兆しが見られ始めている。国内の内乱と国外からの干渉を防ぐため、我々は貴殿らドラゴンの強大な力を貸してもらうべく、ここまで足を運ばせてもらった。当然、我々に力を貸してくれた時の報酬も確約させてもらう」
しかも今度は懐から、セドリック閣下の判子が印された契約書みたいなのまで取り出し始める。
「前払いで高純度の風属性魔石を五千。更にウォークライ領で滞在し、領地を魔物や他国の軍から防衛する度に、追加で魔石を五百支払うことを約束しよう。私は此度の交渉における全権を預かっており、この通り、現辺境伯であるセドリック閣下からの認可も取り付けてある。当然待遇も応相談だ。不満点があれば、何時でも申し付けてくれて構わない。我々は貴殿らの言葉を正面から、全て受け止める準備がある」
ズレている。何もかもがズレている。
そう呆気を取られているのは私だけじゃなく、ヘキソウウモウリュウ側も不思議そうに首を傾げていた。
「この契約書にサインし、功績を上げれば、栄えある我がウォークライ領辺境伯軍の一員として、貴殿の活躍を取り上げ……あぁ!? 待て! どこへ行く!? 人が話している時に欠伸などしながら中座するとは何事だ!?」
するとヘキソウウモウリュウは欠伸をしながら、どこかへ去って行ってしまう。
そんなにべもない対応をされたユーステッド殿下は、そのまま両手両膝を地面に付けて崩れ落ちてしまった。
「なぜだ……!? やはり私のような未熟者の声など、聞くに値しないという事なのか……!?」
「殿下違う。何もかも間違ってます」
クソ真面目だ、生真面目だとは思っていたけど、まさかドラゴン相手に契約書まで持ち出して交渉を始めようとするなんて天然なことをし始めるとは思ってなかったわ。
これはこれで、色んな意味で面白いデータが取れたからいいけど。
「だが私は国の現状や報酬を踏まえ、これ以上ないくらい真剣な思いを込めて彼に交渉をしたのだぞ? アメリア、一体私の何がいけなかったのか分かるか?」
「多分、思ってることが口に出過ぎてたんじゃないんですかね」
言葉遣いに気をつけすぎて、話す言葉そのものに意識が向き過ぎていたからとか? そもそもドラゴンからすれば人間側の事情とか関係ないし。
いずれにせよ、表情から感情の変化が読めないドラゴンに、明らかに「何言ってんの? こいつ」と思ってそうな、キョトンとした顔をさせたのは逆に凄いと思うけど。
「殿下は難しく考えすぎですよ。もっとシンプルに、難しく考えずに接してあげてください。そうすれば、ほら」
そう言って私がある方向を指差すと、そこには早速ドラゴンの背中に乗って草原を駈け、他の兵士から感心したような視線を向けられるヴィルマさんの姿があった。
「はっははは! なんて力強い走りだ! お前は凄い奴だな、気に入ったぞ!」
手綱や鐙、鞍が無いから、羽毛を掴んで乗っているだけのヴィルマさんの姿勢は安定しておらず、ヘキソウウモウリュウ側も手加減した走りだけど、いきなりあそこまで心を通わせて走れるなんて、大したものだと思う。
個体差によるフィーリングが合ったのかな? やはり他の人がドラゴンと接する姿は、非常に興味深いデータの塊だ。
「ドラゴンは頭が良いですからね。個体差によってはあのくらい早く背中に乗せたりしてくれますから、まずはしっかり頭の中で、人間の事情なんて一切知らないドラゴンにも分かりやすいように、端的なイメージを作るところから始めましょう」
「……最大限の努力をさせて貰う」
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