一方その頃の王族側
書籍化します。詳しくは活動報告をチェック
「そういうことになっているのだったらまずは私に話を通さんか戯けぇえええええええええっ!」
「んぎゃああああああああああああっ!? 頭が割れるぅうううううううううううっ!?」
海に吹っ飛ばした実母たちを無事に回収した後、ヘキソウウモウリュウに乗ってジェーダンまでやってきたユーステッド殿下は、事のあらましを聞くと同時に私にアイアンクローを仕掛けてきた。
どうやら実母たちがやってきた時点で、護衛の内の一人がフォルゲンにいる殿下の元に報告へ向かっていたらしい。道理で途中から護衛の人数が一人減ってるなって思ってたけど、まさか殿下を呼びに行ってたとは。これが社会人の報連相って奴か。おかげで私は滅茶苦茶怒られてるわけだけど。
「幾ら緊急事態だったとはいえ、貴族夫人を海に吹き飛ばすなど前代未聞だぞ!? 少しは調査を中断するという発想に至れなかったのか!?」
「無いっ!」
でも私、後悔してない。
私は何時だって私の思うがままに生きてきた。今回のことだってそう、私はドラゴン研究という自身の本懐を遂げるために、自らに我慢を強いるやり方を選ばなかっただけの事。
だから結果的に、怒られたり痛い目見たりしたって、私は自分の選択に何一つ恥じ入ることはないのである。
「何を自信満々に断言しているのだ馬鹿者がああああああっ!」
「だって我慢できなかったんだもんぉおおおおおおおおおおおっ!? 頭が潰れりゅぅうううううううっ!?」
……まぁ、それを他の人がどう受け取るかは、まるで話は別なんだけどね。これも私の選択の結果だから、甘んじて受けるとしよう。
その後、私はしばらくユーステッド殿下からウルトラ説教食らって、ようやく頭を解放されると、殿下は深々と溜息を吐いてから再度口を開いた。
「とにかく、海から引き上げたリーヴス夫人らはエルメニア側に引き渡したが……何か分かったのか?」
「確定的なことはまだ。ただ予想として、連中はソラバシリオオリュウに何らかの危害を加えようとしていたってことですかね」
ソラバシリオオリュウが実母たちに害意を見せ、私たちにそこまで関心を見せなかったのは、実母たちの思考を読み取ったからだと思われる。
現時点では仮説に過ぎないけど、ソラバシリオオリュウが人間に対して積極的に攻撃してこない……より正確に言えば、ジェーダンで過度に暴れないのには何らかの要因が絡んでいる可能性が高い。
そしてその要因に何らかの影響を及ぼす意図を思念波として放出、それを感知したソラバシリオオリュウが、実母たちを排除すべき外敵と認識したのではないか……そう考えるのが妥当だ。
「ただあの時、実母たちが何考えてたのかを聞き取り調査してみたんですけど……機密情報を保護する為の一点張り。それ以外の意図なんてなかったって言うんですよねぇ」
そんなことで野生動物であるドラゴンの怒りを買うとは到底思えない。
明らかに何か隠してると思うんだけど……それを素直に喋ってくれそうになかった。
「正直、向こうから協力要請してきたんだから、調査にも最大限協力してほしいところではあるんですけどねぇ」
「言わんとしていることは分かるがな……国外の相手に全てを詳らかにすることも出来ないというのも分かる。外交とは得てしてそういうものだ」
まぁ政治的な事情があるのは分からんでもないけど、何ともしゃらくさい話だ。避難民への聞き取り調査にもやたら消極的だっていうし、事態解決のために協力する気があるのか疑わしくなってくる。
「でもこれで疑惑から確信に変わってきましたよ。別荘跡地にソラバシリオオリュウを縛り付ける何かがあるって」
そしてそれが、エルメニア王国側にとって非常に不都合なものであるということも、何となく想像できる。
何とも面倒臭いことになってきたが……だからと言って、私がエルメニア側の都合を考えてやる必要はない。実母たちも無事に追い払うことが出来たし、これで気兼ねなく別荘跡地を徹底調査して――――。
「別荘跡地を徹底調査しよう……なんて考えていそうなところに悪いが、あそこの調査はしないようにとエルメニアから正式に要請が来たので、手を出すんじゃないぞ」
「なんですと!?」
馬鹿な!? そんな事ってある!? まさにこれからって時に!?
「やぁああだぁあああああああっ! 調査したいぃいいいいいいいい! 調査させてお願いぃいいいいいいいいいいっ!」
「えぇい、人の足にしがみ付くんじゃない! コラ、離れんか!」
ユーステッド殿下の足に両手両足でしがみ付いて必死にお願いするけど、殿下はにべもなく私の頭を押しのけて足から引っぺがしてくる。何て冷たい皇子なんだろう。
「でも殿下、別荘跡地に原因がある可能性は高いですよ? あそこを調べられないとなると、正直、解決への糸口が無くなるんですけど」
「分かっている。だが他国の機密情報となると我々も配慮しなくてはならないし、ドラゴンがジェーダンに居座っている原因があるというのも、現時点ではあくまでお前の予想でしかない。周辺諸国や各国の商会からの圧力を呼び掛けて調査を再開させるには、確たる根拠が足りなさすぎる」
それを言われると何も言い返せない。
どうやらエルメニア王国は自国の機密情報を盾にして、別荘跡地の調査を妨害しにかかっているらしい。
大っぴらに踏み込んだら、やれ「主権国家の権利が~」とか、「内政干渉が~」とか、色々と反論されて面倒になるから、帝国やその他周辺も不確かなメリットだけでは下手に圧力をかけられないってことで、私の調査を後押しする動きが取りづらいってわけね。
何となく、こういうことになるんじゃないかと思ったから、帝国側から正式な通達が届く前に調査を終わらせたかったんだけど……。
「聞けば、大聖堂跡地でも調査のとっかかりがあるというのだろう? 別荘跡地の調査に関しては我々も交渉を続けるから、その間にそちらを調べてみてはどうだ?」
「むむむむむ……! 仕方ないですねぇ」
まったく、全然、これっぽちも納得できていないけど、私はひとまず別荘跡地の調査を後回しにすることにした。
流石にこれ以上我を通せば、調査現場から力尽くで退かされるかもしれないしね。それだけは非常に困るし、ここは他の調査をして事態改善を期待する方が吉だろう。
「……でも逆に言えば、別荘跡地を調べる明確な根拠さえあれば、帝国とか周辺国が圧をかけて私の行動を正当化してくれるんですよね?」
「……政治的交渉が絡むので確約は出来ないが、そのように動く見込みは十分にあるが……アメリア、何を考えている?」
=====
一方その頃、フォルゲンにあるエルメニア王族滞在用の屋敷では、王太子アルフォンスが深々と安堵の息を吐いていた。
「……これで一先ずは、別荘跡を探られる心配はなくなっただろう」
それは周辺諸国や有力商人たちからの追及を必死に躱しつつ、何とか事を思い通りに運ぶことが出来たことによる安心感から来るものだった。
アメリアが噂に違わぬ破天荒な言動を繰り返していたと報告を受けた時は肝を冷やしたが、国家機密を絡めた国際的なマナーを盾にして調査をしないように帝国と合意を得ることが出来たし、ひとまずはしばらく凌げる……そこに至るまでの苦労を思い出しながら、アルフォンスは優雅な手つきでカップを持ち上げると、そこに満たされた紅茶を淹れた人物にジトリとした視線を送る。
「しかし、お前の言うことであれば言うことを聞くのではないかと思ったが、まるで効果が無かったな。子供の躾がまるでなってなかったのではないか?」
「…………申し訳ありません」
深々と頭を下げる侍女……アメリアの実母であるターニャに、アルフォンスは失望感を隠せない溜息を吐く。
別荘跡地を調べられるのを防ぐに当たって、帝国との交渉が済む前にアメリアが調査の手を伸ばさないよう、ターニャをアメリアの元に派遣したのは親子の情に訴えかけることを狙ったアルフォンスの判断だった。
ターニャは厳格な性格で知られていて、自分の子供に対しても厳しく躾けていることで有名だ。それは自分の近衛騎士であり、ターニャの息子であるマルコが王家の命令に従順であり、母親に頭が上がらない事でも確かである。
「我が子を生まれた時から王家へ仕える優秀かつ絶対服従の臣下への育成する……そのこと自体は評価に値するが、いざという時に教育の成果が表れないのでは意味がない。厳格な親の言葉であれば年若い少女なら恐怖で言うことを聞くのではないかという期待感もあったが、聞いた限りだとまるで効果もなかったようだしな」
「……申し訳ありません。どうやらこの七年間の間に王家への忠誠も礼節も忘れてしまったようで……」
「言い訳はいらない」
ピシャリと言い放つと、ターニャは頭を下げたまま押し黙った。
アルフォンスにとって臣下というのは、王家に絶対服従であることが大前提。その王家の意向を無視することは決して許されるものではない。
それは例え、死ぬことを前提として巨竜半島に妹の身代わりに送った令嬢であっても同様である。
(いっそのこと、本当に死んでいればよかったものを……エルメニア王家に再び恭順するのであればまだしも、よりにもよってアルバラン帝国の利のために動くなど)
周辺国や有力商人、果てには大勢の生産者たちから散々突き上げを食らい、王族としてのプライドを傷つけられたアルフォンスは、故国の王族の意向にもまるで従おうとせず、仮想敵国であるアルバラン帝国の元で働くアメリアの事を思い浮かべ、ますます眉間の皺が深くなる。
それだけでも怒り心頭であるというのに、竜の聖女などと持て囃されて、愛しの妹の評判を相対的に下げているのだ。
「ターニャ……重々理解していると思うが、今回お前を遣わせたのは、全てはカーミラを守ることの一環だ」
国境を越えてアメリアの評判が王国に広まる度に、心無い噂話を耳にしたカーミラが、どれだけ傷ついているのかも知らずに……その事に小さく舌打ちしながらも、アルフォンスは怒りを押し殺した声でターニャに厳然と告げる。
「分かっているな? カーミラの身の回りの勝手を最も知っているお前だからこそ、今回だけはお前の娘の不始末を許してやるが、二度目は無いと思え。お前は自身の主君であり、我が愛しの妹であるカーミラの評判を守る一大任務を失敗したのだ。その事を深く胸に刻んでおけ」
「……王太子殿下の寛大な処置に心より感謝し、今まで以上に誠心誠意精進し、仕えさせていただきます」
明らかに失望に満ちた視線を主家の跡取りから向けられ、ターニャは口では平静を保ちながらも、恥辱に震える手を止めることが出来ずにいた。
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