第9話〜地底都市“ニャンバラ”〜
乗り物から降りるように言われ、しぶしぶ外に出た。
「おい、黒服のオッさん。ここはどういう所なんだ」
「ここは警察署だ」
「じゃなくて、どういう世界なんだって聞いてんだよ。ネコが2本足で歩いてる世界なんて、ボク見たこともねえよ」
黒服は突然黙り込み、ニンゲンが腕組みをするように両前足を胸の前で組んだ。
「……やはりこの者たちは、“地上世界”から来たというのか。そしてムーンという者とも関わりがある……まさか」
1匹でブツブツ言ってやがる。地上世界から来ただあ? 何言ってんだ。ボクらは、地上に住んでるに決まってんだろ。
ん……? 待てよ。
ボクらは、祠の後ろにある地面に空いていた謎の穴から、地中深くへ転がり落ちた。そして氷の滑り台を滑り下り、気付いたらこの、ネコがニンゲン気取りで住む世界にいたんだ。
だったら、ここは地下の世界だってのか? 地下の奥深くに、ネコだけが住む国があったというのか?
いや、そんなわけねえ。外は昼のような明るさだし。空はピンク色だが、お日様もちゃんと出てるし。
「……ゴマくん、ルナくん。住所と電話番号と親の名前を、正直に言いなさい」
黒服は咳払いをするような仕草を見せてから、また尋ねてきた。目ぇが泳いでやがる。
「だから、知らねっつってんだろ!」
「……ねえ、一体はここどこなんですか? ほんとに、ここは地上じゃないんですか……?」
ルナが目をウルウルさせながら、黒服に尋ねた。
「地底の国【ニャガルタ】の首都、【ニャンバラ】だ」
黒服の口から、信じられねえ言葉が飛び出した。
そんなバカな! やっぱりここは、地の底にあるネコだけの国だというのか――?
「聞いたか? おいルナ、地底の国だってよ」
「兄ちゃん……。僕、帰りたい……」
ボクもルナも、棲家から遥か遠くにある、得体の知れねえ世界へと来てしまったんだ。
植え込みにある、おかしな形の木や草を見てたら、何だか気が狂っちまいそうだ。
「とりあえず署の中に入りなさい。色々と聞きたいことがある」
どうすることもできねえボクらは、仕方なく黒服のネコについて行った。
「何だよ、ここは。居心地悪りい場所だな」
「怖いよ、兄ちゃん」
警察署とやらの中では、黒い帽子と黒服を着たネコどもがゴキブリみてえにウロウロしてやがった。どいつもこいつも、目つきが悪りい。
黒服どもは、書類が山盛りの机で何か作業してたり、四角くて薄っぺらい機械で、誰かと連絡を取ってたりするように見える。
「君たちの面倒を見る担当の者が来る。俺は奥で休む」
ボクらを連行した黒服のネコはそう言って帽子を脱ぐと、薄暗い廊下の方へと歩いて行っちまった。
「帰りたい……」
「悪りいなルナ、ボクのせいで……」
ボクらは再び、棲家のガレージ――アイミ姉ちゃんのところへ帰ることはできるんだろうか。
途方に暮れながら、窓から見えるムカつくほど澄んだピンク色の空を、ボーッと眺めていた時だった。
「やあ。君たちが、ゴマくん、ルナくんだね」
ハキハキとした爽やかな声が、耳に入った。