第41話〜もう1匹いた姉貴〜
「“ネズミの世界”に攻め寄せようとしている、ニャンバラ軍の総長……。そのネコは、私の娘なのです」
母ちゃんが、悲しげな目をして言った。
まさか。
母ちゃんの娘が、このネズミの世界を攻めようとしてる、だと!?
ってか、メルさんたち以外にも、ボクの知らねえ家族がいて、しかも“ニャンバラ”にいたって事ニャのか?
「母さん、もしかして……【ライム】のこと?」
メルさんが尋ねた。
「……はい。三つ子で生まれたメル、じゅじゅ、そしてライム。あなたたちがまだ小さい頃、ライムは……、神社の祠の裏にある大きな穴に落ち、行方不明になりました」
ボクに、もう1匹、ライムって名前の姉貴がいたのか。
そして神社の祠の裏にある大穴……! まさか……!
「のちに、ライムは、地底に存在するネコだけの国、【ニャガルタ】にいたという事が分かりました。ライムはそこで、ニャガルタのネコと共に力を合わせ、首都“ニャンバラ”を築き上げたのです」
マジかよ……!?
あのネコの街を作ったのは、ボクの姉貴だったってのか!
「母さん……。今まで母さんが帰らなかった理由って、まさか……ライムの事で……?」
「ライム〜、久しぶりに会いたいけど〜無事だったなら良かったよ〜」
焦った顔して母ちゃんに質問をぶつけるメルさんと、呑気な事を言って大あくびするじゅじゅさんを、ボクはただ見てるしかできねえでいた。
まだ、頭ン中がこんがらがってる。
「これも、“月の導き”により得た情報です。私が留守にしていた理由は……、私の仲間と共に、地底国ニャガルタへと赴き、調査をしていたためです。その際、ライムに会おうと思ったのですが……」
母ちゃんが棲家にずっといなかった理由が、明かされた。母ちゃんも、あの地底世界へ行っていただなんて。
それにしても、一体どうやって地上と地底を行き来してたんだろうか。まさか、ボクとルナが転げ落ちたあの氷の滑り台を、行ったり来たりしてた訳じゃあるまい。やっぱり母ちゃんは、只者じゃねえ。
母ちゃんはうつむいて、ちょっと暗い顔をした。
「ライムは……、メルやじゅじゅより体が弱く、色々な事ができようになるのに時間がかかりました。それなのに私は……。メルやじゅじゅと同じペースで色々な事ができるようになる事を求め、それができないライムを叱り続けました。今となっては、酷い事をしたと反省しています」
「……母さん、そうだったよね。私もライムの事笑ったりしてたし……じゅじゅ、覚えてる?」
「わたしは昔の事なんて、覚えてないなあ〜」
ボクが生まれる前に、そんニャ事があっただなんて……。
「そして先ほども言ったとおり、ライムは今、ニャンバラ軍の総長を務めています。“月の導き”によってライムの……ニャンバラ軍の思惑を知った私は、仲間|と共にニャンバラ軍を止めようと行動しました。しかしニャンバラ軍と敵対してしまい、結局、ライムに会う事も叶わず、撤退しました。“ネズミさんの世界”を守る事を最優先とし、私の仲間は、“結界”を通過できる“ワームホール”がまだ放置されているうちに“ワームホール”を通って“ネズミさんの世界”を訪れ、今は草叢の中に、仮設の基地を作っています」
さっきから話に出てくる、母ちゃんの仲間。もしかしてそれが、“星光団”ニャのだろうか……?
「ニャンバラ軍は、“ワームホール”を通ってやって来るでしょう。私の仲間は、“ワームホール”付近を厳重に監視していますので、私は家族とこの付近の住民を守るべくここに留まりますが、万が一の事があれば、仲間の元へ行きます」
メルさん、じゅじゅさんは、だいぶショックを受けてるみてえだ。
「ライム……! あの時あんなに一緒に遊んだライムが、そんな酷い事をたくらんでるだなんて……!」
「なんだか〜、イヤ〜な再会になっちゃうね〜」
さて、まとめてみるか。
このネズミの世界は、ニンゲンが絵に描いた理想の世界が、カミサマの力で現実になった世界。それはボクの棲家の近くにある神社の奥地にあって、白いドームみたいな“結界”に守られている。その中は全くの別世界で、ネズミたちが平和に楽しく暮らしてる、居心地のイイ所だ。
そして、ボクの知らなかったもう1匹の姉貴、ライム――。
ボクが生まれるずっと前に、ボクとルナと同じようにあの祠の裏にある穴から地底世界へ転がり落ちた。そこにはネコだけの住む世界があって、ライムはそこでネコの街“ニャンバラ”を作り上げた。
だが、資源が足りなくなって戦争が起きて、このままじゃ地底で暮らせなくなる状況になっちまった。そこで今度は、プルートのジジイが持ってきたこの平和なネズミたちの世界を知ったライムが、軍を引っ張ってネズミの世界を乗っ取ろうと企んでる……ってわけだ。プレアデスやプルートのジジイはライムの部下で、ボクらをスパイとして利用しやがったって事ニャんだろう。
で、母ちゃんの仲間――多分“星光団”――が、先回りして“ワームホール”を通って、草叢ん中に基地を作って、ニャンバラ軍が来るかどうかを監視している、と。
ようやく、つかめてきたぞ。
話が終わって、ボクの頭はすっかり疲れ切っちまった。
ネズミたちが用意してくれたベッドの中で、怒りを噛み締めながら目をつむる。
ボクらを騙しやがった、プレアデスのバカ野郎。
そして、同じ家族で顔も見た事も無えんだが、主犯格らしい……ライム。
ボクはぜってえ、テメエらを許さねえからな。




