第6話〜闇へと続く氷の滑り台〜
目の前にあるのは、突然現れたデッカい穴。
中を覗きたい気持ちが抑えられねえ。ああ、何だかワクワクドキドキするぜ!
ボクは体を乗り出し、大穴に顔を突っ込んでみた。
目に映るのは、黒。
ただただ、真っ黒だ。
まるで、別の世界へ繋がってるかのようにさえ思えた。
穴の中の暗闇からは、凍りつきそうな冷たい風が吹き付けてくる。ブルッと体が震えた。
「気味が悪りいな。一体いつ、どこの誰がこんなデケエ穴掘ったんだろ。ルナ、ユキ、気にならねえか?」
「兄ちゃん! そんなに体を乗り出すと危ないよ!」
……ん?
うわッ!?
「あっ! ゴマ!!」
ユキの声が聞こえた時にはもう、ボクの目の前は真っ黒だった。
前足を置いていた、大穴のそばの地面が、ボコッと崩れたんだ――。
「兄ちゃん!!」
尻尾に痛みが走った。ルナが、ボクを助けようと噛み付いたんだろう――。
「フギャー!!」
「ニャアアアーー!」
ただ、叫ぶしかできなかった。尻尾に噛み付いたルナも道連れになっちまった。
ボクもルナも、底の見えねえ真っ黒な世界へと吸い込まれていっちまう。
ユキの「ゴマー! ルナー!」と叫ぶ声が、遠ざかっていった――。
「ルナー! 離れるんじゃねえぞー!」
「ニャアー!! うわああん!」
ドシン、と何かにぶつかる同時に、突き刺されるような冷たさを全身に感じた。
穴の底か?
ネコ目でも見えねえほどの真っ暗闇だったからよく分かんなかったが、凍った地面のようだ。
下り坂になっているみてえで、ボクらはどうする事もできず、黒の世界へと滑り落ちていく。
坂はきつくなり、どんどんスピードが上がっていく。
ボクは、ガクガクと震えるルナの首根っこに噛みつき、絶対に離さねえようにした。
暗闇に慣れたのか、ちょっとだけ視界が晴れた。
暗闇の中、一直線に伸びる、氷の滑り台だ。
左右の幅には余裕があるみてえだが、もし落っこちたら、奈落の底に真っ逆さまだろう。近くに、何本も立っている氷で出来た柱がうっすらと見えては、通り過ぎてて行く。
背中やケツの毛が、凍りついてきた。刺すように冷たい風を切って、ボクらは闇の奥へ滑り落ちて行く――。
「怖いよ、兄ちゃん!」
「ルナ、がんばれ! しっかり掴まってろよ……!」
光だ。
暗闇の中にぽつんと、星みてえな光が見える。凍てついた坂の続く先に、その光はあるみてえだ。
その光が、だんだん近づいてくる。
大きくなって、眩しくなってくる。
出口、なのか――?
「おいルナ! しっかり掴まってろよ!!」
「ニャアアア!? 兄ちゃんーー!!」
考える暇もなく、そのままボクらは光の中へ、突っ込んで行った。