第5話〜謎の大穴〜
「みんな、ゴハンよ〜。おいで〜」
……あ、【アイミ姉ちゃん】だ。
朝ゴハンの時間だな。今日はネコ缶か? それともいつものカリカリか?
【アイミ姉ちゃん】。
ボクら家族の、飼い主のニンゲンだ。ボクがチビの時から、ずっと世話をしてくれてる。
棲家のガレージがある家に住んでる家族の、一人っ娘なんだ。毎朝ボクらにゴハンをくれた後、いつも紺色の服着てカバン持って、元気に走っていくのを見てる。
おっ。今日はちょっと贅沢、ネコ缶だ。
「ふふふ。ゴマ、ルナ、美味しい?」
アイミ姉ちゃんは、ボクの頭を撫でながら話しかけてくる。ボクはゴキゲンだったので「美味いぜ」と返事した。「ニャー」としか聞こえねえらしいが。
ルナは腹が減ってたのか、夢中で食らいついてやがる。
そして魚汁を撒き散らしながらがっついてるのは、メルさんと同時期に生まれたもう1匹の姉貴、【じゅじゅ】さんだ。
「じゅじゅさん……もう自分の分、全部食っちまったのかよ」
「ふみゃ〜あ、おいしかった〜。ゴマ〜、一口でいいからちょ〜だい〜」
「ンニャ!? ダメに決まってんだろ! あ、コラ!」
「ありがとう〜げぷぅ」
「……げ、もう食いやがった!! しかも一口どころか、残り全部!」
【じゅじゅ】さん。
ブクブクに太った三毛ネコだ。
メルさんとは違って、のんびり屋のマイペースな性格だ。ボクらがイタズラしたりしても怒ったりしない。
だが、いつも寝てるか食ってるかばかりの生活で、むしろボクの方がじゅじゅさんのことを心配してるくらいだ。
仕方なく、ボクはアイミ姉ちゃんにおねだりし、カリカリを食わしてもらった。ニャーニャーうるさかったかもしれねえ。でも、腹が減っちゃあ、何もできねえからな。
口を拭ってから、すぐ隣で毛繕いしてる、もう1匹の弟、【ポコ】に声をかけた。
「ポコよぉ、いい加減お前も外遊びに行こうぜー」
「フミャッ!? ゴマ、そんな怖い顔しないでよう……」
【ポコ】。
ルナと同時期に生まれた、全身真っ黒のチビネコだ。
コイツ、ほんっとに怖がりの意気地なしでさ。ネコのくせして動くものを怖がって、まだ自分で獲物を狩ったこともねえんだ。
「まったく、ネズミごときにいつまでビビってんだ。そんなんじゃ狩りなんか一生出来ないぞ」
「う……うるさいっ!」
ポコはそう言いながらも、ササーッと逃げて行きやがった。ほんっと、情けねえ奴だ。
仕方ねえから、隣で目を細めながら前足を伸ばしている、妹の【ユキ】を誘う事にした。
「おいユキ、近くの神社へでも行くぞ」
「おー、行っちゃう? ルナとポコも誘おうよ。フミャーゴ……」
「ポコはダメだ。いつも通り段ボールに引き籠もってやがるぜ。ったく情けねえ」
「ああいう性格だからしょうがないわよ。ポコが自分から行きたいって言うまでそっとしときましょ」
【ユキ】。
ボクの妹だ。ニンゲンが言うにはサビ柄模様らしい。サビ柄なのに“ユキ”って名前なのは何故なんだろな。白ネコならまだ分かるが。
体型がボクよりひと回り小せえから妹って事にしてるが、生まれたのはボクと同時期だ。
ボクほどじゃねえが、ユキは運動神経が良くてさ。いつも獲物のトカゲやコウモリをどっちが早く狩れるか、競争してるんだ。
これで、母ちゃん以外の家族はみんな紹介したな。
姉貴の、メルさん、じゅじゅさん。
弟の、ルナ、ポコ。
妹の、ユキ。
覚えてくれたか?
晴れた日には、メルさんの許しをもらってからボク、ルナ、ユキの3匹でよく出かけてるんだ。
一緒に狩りをしたり、近所のニンゲンのクソガキをからかったり、ニンゲンの婆ちゃんに撫でてもらいに行ったりしてるんだよ。
てことで、今日もルナ、ユキと一緒に、近くの神社へ行くぜぃ!
「ゴーマー。今夜は集会だから、早く帰ってくるのよ」
メルさんが、後ろから釘を刺してくる。
今夜は、近所のネコ同士が集まる、集会があるんだ。
メルさんの言いつけを破ったら雷が落ちるから、ちゃんと守らねえと。
「あー、寒みぃなあ。こう寒みぃと、獲物もいなさそうだな」
「兄ちゃん、また雪降ってきたよ」
着いた。棲家のガレージから橋を渡ってすぐの場所にある、こぢんまりとした神社だ。
適当に草が生え散らかした、手入れもされてねえ広場に、小さな社が2つ、祠が1つあるだけの場所。
夜の集会は、いつもここで開かれるんだ。
昼も夜もニンゲンがあまり来ねえから、ネコの溜まり場になってる。
いつも通り、獲物探しを始めようとした時。
ボクは、異様なモノを目にしたんだ。
「おい、何だ、あのデケエ穴は」
広場の端っこにある、小っちゃな祠。そのすぐ後ろの地面に、デカくて丸い穴が、ポッカリと空いているのが見える。
ネコが10匹まとまっても入れるくらい、デッカい穴だ。前にはあんな穴、なかったはずだ。
「ニンゲンが工事が何かで空けた穴なんじゃない?」
ユキが首を傾げる。
「兄ちゃん、危ないから行っちゃダメだよー……って、もう! 何かあったらまたメルさんに怒られるよ!」
ルナの忠告を振り切って、穴の近くへ走った。
祠の真後ろの地面には、綺麗な円形のデケエ穴が、口を開けている。
中は、塗りつぶされたように真っ暗だ――。