第13話〜今度こそ、帰れねえ〜
暗闇にアヤシく光る、2つの黄色い目――。
音もなく、だんだんとボクらの方へ近づいてきやがる……!
「絶対動くなよルナ……! 気付かれたら、ボクら食われるかも知れねえ」
「いやだ……兄ちゃん……!!」
ボクらは木の根っこに隠れながら、息を殺しつつジッとしていた。
あの時の夢みてえに、最強の“暁闇の勇者・ゴマ”に変身できたら――あんニャ化け物、一気にぶった斬ってやるのにニャ……。
そんニャ事を思いながらそっと木の陰から覗いてみると……2つの光る目はボクらに気づかずに、ゆっくりと横切って行きやがった。
……ああ、そういう事か。
「おい、ルナ。大丈夫だ。見てみろよ」
「え……?」
目を凝らしてよくよく見てみりゃあ……。
どうやら、丸い形をした乗り物みてえだ。2つの光る黄色い目は、ヘッドランプだ。
卵のような丸い形をした乗り物が3つ連なってて、ゆっくりと音もなく去って行く。窓に、何匹かのネズミの姿が見えた。
乗り物が通って行った地面をよくよく見ると、そこにはレールみてえなのが敷かれている。
化け物の正体は、列車だった。
「おいルナ、このレールに沿って歩くぞ。きっと森を出られる」
「そうだね。ネズミさんが乗ってるのなら、きっと街かどこかに続いてるよね」
ボクらはレールに沿って、暗闇の中をひたすら歩いた。
茂みの間から、夜空に瞬く星が少しずつ見えてくる。きっと、もうすぐ出られるはずだ。
レールはだんだんと真っ直ぐになり、その先に建物の灯りが見えた。
「見ろ、草叢から出られるぞ」
「はあ、怖かったよお……!」
ようやくボクらは、森みてえな草叢を抜ける事ができた。レールの先に、さっきの丸い乗り物が停まっている。
ネズミどもに見つかるわけにはいかねえから、レール沿いの道から外れて、草叢に沿って歩いた。すぐ近くに小高い丘がある。丘の壁に穴を掘って、とりあえず寝よう。
「ルナ、こっちだ」
「お腹ぺこぺこし、眠たいし、もう限界だよ……」
「ちょっと待ってろ」
ボクは、持てる力を振り絞って、丘の壁をほじくり返した。
「うりゃりゃりゃー! ……よし。小っちぇえ洞穴ができたぜ。ここで一旦、寝るぞ」
「ありがとう兄ちゃん。時間切れまでに、帰れるかな……」
「時間切れになると、元のサイズに戻っちまうんだったな。あとどんくらいだ?」
「“ワームホール”をくぐったのが今日の朝早くだから、多分、まだまる1日は大丈夫」
「ならとりあえず、この洞穴で野宿だ。食いモンなら……お、イイのがいるぞ。ちょっとアレ捕ってくるぜ」
森のような草叢沿いに、ドデカいバッタがノロノロと歩いてやがる。多分、死にかけのヤツだが、実に美味そうだぜ。
「うりゃあ!」
ボクは渾身の力で飛びかかって、巨大バッタの腹に噛みついた。
疲れ切ってたんだが、食いモンが目の前にありゃあ、とんでもねえ馬鹿力が出るモンだ。
バッタはしばらく抵抗したが、すぐに動きを止めた。
「ルナ、来い。一緒に食おうぜ」
「ありがとう。兄ちゃん、こういう時は頼りになるよね」
腹を満たした後は、とりあえず洞穴でひと眠りだ。もう、眠くて眠くてしょうがねえ。
ヒビ割れた“ニャイフォン”を見たが、相変わらずプレアデスからの連絡は無え。
ネズミどもの世界で、ボクらは完全に迷子になっちまったんだ。
しかも、このまま何もしなけりゃ、ボクらはネズミどもの世界で元のサイズに戻っちまい、大騒ぎになるらしい。
ま、今はとりあえず、寝るぜ――。




