第6話〜ネズミ盗み撮り作戦開始〜
まだ夜明け前だから、ネズミどもの街に潜り込むってんなら、今がチャンスだろう。
ネズミの住む街とやらは、どんな所なんだ……。
不安よりも、ワクワクの気持ちが勝ってきた。新しい冒険の予感がしたからだ。
「……あれを見てよ」
不細工なネズミのかぶり物をかぶったプレアデスが、前足を伸ばす。
「お。あれがネズミどもの街か。見ろよ、ルナ」
「わああ……」
プレアデスに誘われて茂みから覗くと、三角や四角の形をした建物、曲がりくねった道路、うっすら光る街灯――静まりかえった街の景色が見えた。ネズミどもは、みんな眠っているんだろう。誰の気配も無え。
「僕についてきて。そっと、ね」
「ルナ、でかい音たてんなよ」
「わかってるよ兄ちゃん」
ニャンバラとはまた違った感じの街だ。めちゃくちゃ、空気が美味い。なぜだか居心地がとてもイイ。
ボクらは、そこかしこにボクらより背がデカい植物が植えられた、広い公園にたどり着いた。
「今から、やる事のおさらいをするね。ゴマくん、ルナくんは、“ニャイフォン”のカメラ機能を使って、ネズミたちの生活や行動を、なるべくたくさん静止画や動画で撮影してほしい。僕は別の任務があるから、君たちとは別行動になる」
「ふむ」
ボクもルナも、それぞれ“ニャイフォン”を取り出す。薄くてツルツルした板で、持ちにくいぜ。
表側は光る画面になっていて、裏側には肉球みてえなマークが描かれている。
「“ニャイフォン”の操作は簡単だからね。まずカメラアプリをタップして起動。静止画の撮影は、この緑のボタンに触れてからすぐ離す。動画の撮影は、画面を横にフリックしてから、赤のボタンに触れてすぐ離すんだ。もう一度赤のボタンに触れたら録画が完了するからね。そして繰り返すけど、ネズミには絶対に見つからないように。頼んだよ」
「何となくだが分かったぜ。いつ始めればいいんだ?」
「夜が明けたら、行動開始だ。お昼頃に一度、この公園に集合しよう。“ニャイフォン”で連絡するから」
「わかった。……ルナ、また大冒険だな」
「遊びに来てるんじゃないんだから」
話してる間に、地平線が白み始めた。
ネズミ盗み撮り作戦開始までもうすぐだ。……あまり気持ちのいいモンでもねえが。
ボクは、ネズミのかぶり物をしっかり着け直した。
「さあ、そろそろネズミたちが出てくる頃だろう。僕は行くけど、大丈夫かい?」
「ああ、任せとけ」
「頑張ろうね、兄ちゃん」
「じゃあ頼んだよ、ゴマくん、ルナくん。またお昼に」
プレアデスはそう言い残すと、あっという間に小道の向こうへと姿を消しやがった。その動きは、ネズミさながらだった。意外と上手くネズミになりきってやがる。
「ボクらも行くか……と言いてえが、だめだ。今頃眠くなってきやがった」
「僕も……。でも、見つからないところに行かなきゃ」
「そうだニャ」
途端に襲ってきた眠気に、ボクらは勝てなかった。そりゃそうだ。まだそんなに寝てねえ真夜中に連れ出されたんだから。
公園の真ん中にある四角形の倉庫の陰に、ちょうどいいデカさの木箱が置いてあった。フタを開けて中を覗くと、藁も敷いてあって、寝るのにはちょうどイイ。
「よし。ここで一眠りするか」
「そうするしかないね。もう何も考えられないや」
ボクらは箱の中に入って、かぶり物を脱いでから、互いに折り重なってすぐに眠りについた。




