第20話〜真っ暗闇の山道〜
「うおお! 本当に、空を飛んでやがる!」
「こ、怖いよ兄ちゃん……!」
窓から下を見ると、暗い街の所々に、赤く燃える火が見える。バクダンが落とされた場所なんだろう。
街の上には、どこまでも遠く広がる、吸い込まれるような黒一色の空だ。
「研究所のある場所も地上への穴のある場所も、機密事項なんだ。僕たち以外には、絶対知られてはいけない。だから少し離れた場所に着陸して、そこからまた歩いて行くよ」
「……おいプレアデス、また歩くのかよ。ルナ、頑張れるか?」
「うん。僕はプレアデスさんを信じる。きっと帰れるって信じてる」
あっという間の空の旅だった。
街外れにある、やけにとがった形をした山へ向かったと思うと、中腹にあたりにある開けた場所がヒコーキのライトに照らされて、近付いてくる。
ドンという衝撃があった後、ガタガタとヒコーキが激しく揺れた。スピードが落ちていき、ヒコーキの動きは止まった。
プレアデスは運転席から降りて、後部座席の扉を開く。
「着いたよ。暗いから足元に気をつけて」
「うっ、やっぱここも寒みぃんだな」
「クシュン……!」
クラクラしながら、ヒコーキを降りた。
周りには、渦を巻くような形の木、蛇のようにうねった形の植物とかが、辺りに鬱蒼と茂っている。
暗闇の奥から時々、唸るようだったり、高く短く狂ったような、獣か鳥か見当もつかねえ動物の鳴き声が聞こえてくる。
プレアデスが持ってきた魚の缶詰で少しだけ腹をふくらませてから、研究所とやらへ出発だ。
「さあ、このライトを持って。足元だけを照らして、僕について来てね」
「どのくらい歩くんだ?」
「1時間半ほど、この山道を歩く。ついて来れる?」
「ったく、ここまで来たら行くしかねぇーだろ。行くぞ、ルナ」
「うう……頑張る」
闇に溶ける獣道を、ボクらはただひたすら歩いた。
2足歩行ってのはこういう時に不便だな。4本足ならこんな山道、一気に駆け抜けられたんだがな……。
ずっと同じような、デコボコの登り坂が続く。そこら中、ヘンなニオイがする。空も周りも、真っ黒だ。
もしこんな所に置き去りにされちまったら、頭がおかしくなっちまいそうだ。
「兄ちゃん、やっぱり怖いよ。この歩き方にも慣れてないから、足も疲れてきた……」
「ならボクの背中に乗るか?」
「うん、ごめん兄ちゃん」
「気にすんな。おいプレアデス、あとどんぐらいだ?」
「もうすぐ最後の登り坂だ。ここを登りきったら、研究所に着くよ。頑張って」
ルナを背負って息を切らしながら、バカみてえな急坂を登りきった。
見上げるほど背の高え植物の茂みをかき分けて行くと、茂みに隠れるように、銀色のドームのような形の建物があるのが見えた。
ライトを当ててみると、建物全体にもツタが這っているのが分かる。遠くからは目立たなさそうだ。
どうやら、着いたみてえだ。
プレアデスは、“ニャイフォン”に向かって喋り出した。
「お待たせ。着いたよ」
少ししてから、プレアデスの“ニャイフォン”から、蚊の鳴くような声が聞こえてきた。
「……わかぁ~りましたぁ。今、行きますぅ? グフフゥ〜」
何だか不気味な声だな……。まさか、コイツが例の科学研究者なのか?
しばらく待っていると、銀色の建物から、何者かがゆっくりと向かって来る。
そいつはチビで毛むくじゃらで背中の曲がった、ジジイのネコだった。白一色でダボダボの服を着ている。
ジジイは、ジリジリと少しずつボクらの方へ歩み寄り、口を開いた。
「どぅ~もぅ、初めましてぇ? 私はぁニャンバラぁ宇宙科学研究所研究員のぅ【プルート】ですぅ。あなぁた方がぁ噂の地上のぅお方ですねぇ? 長ぁ~い道のりぃご苦労様でしたぁ?」
このジジイ……正気なのか?
目が泳いでやがる。言葉が変に訛っている。
ボクは思わず、毛を逆立ててしまった。
ルナも体を震わせながら、ボクの後ろに隠れている。
プルートのジジイは、下顎を突き出しながらこっちを見下すような視線を投げかけつつ、カクカクと顔を動かしながらまた、消え入りそうな声を出した。
「中へぇ案内しますぅ〜……グェフフフフ……ゲェホゲェホ!!」
「プルート、大丈夫!?」
プレアデスがジジイを支える。
大丈夫なのかよ、これ……?




