第5話〜共に〜
「イケメーン! 会いたかったで!! いきなりいなくならんとってーや!」
「おいコラ、スピカ! またイケメン呼びに戻ってるじゃねえか! ゴマって呼べ! ……にしても、ここすげえ街だニャ……。地下とは思えねえぜ」
「ここは“地下避難施設”って呼ばれてるみたいなんよ。施設というか、避難場所としての一つのおっきい街やな。昼には天井が光って、ちゃんと明るくなるねんで。すごいなー、ネズミさんたちって」
「チップたちは?」
「みんな建物の中やで。とりあえず、中に入ってゆっくりしとき! 疲れたやろ?」
筒の形をした建物に案内されて、部屋に入ると……。
9匹のネズミの家族の、元気そうな姿が目に入った。良かったぜ、みんな無事だ。
「ゴマくん! ゴマくんだ!」
「来てくれたのね!」
「ゴマくんー! あの時は無理に帰ってもらっちゃってごめんね!」
「ゴマお兄ちゃんー! もうダメかと思ったようー!」
「ねこのおにいさん、またきてくれたー!」
ネズミの5匹きょうだい――トム、モモ、チップ、ナナ、ミライ。ボクを見るなり、駆け寄ってきた。チップとナナにまとわりつかれて、アタフタとしていると。
「ゴマくん。どうやら無事のようだな」
「よーぉ! ゴマ、無事で良かったぜ! あの変な泥の兵士はなかなか厄介だったが、大丈夫だったか? ふんすっ!」
フォボスさん、ダイモスさんも声をかけてきた。2匹ともところどころすり傷があるが、あの泥人形の軍団を切り抜けたんなら、なかなかの強さって事だろう。後でまた、ステータス分析してみるか。
「泥人形どもは、ボクの必殺技で一掃してやったぜ」
フォボスさんは「そうか、さすがだな」とクールにうなずき、ダイモスさんは「俺も負けねえぜ! ふんす!」とか言っていきなりスクワットを始める。フォボスさんはともかく、ダイモスさんはどう対応したらイイか分かんねえ……。
ネズミのダンじいちゃん、サンディばあちゃん、父ちゃんのピーターさん、母ちゃんのマリナさんも、変わりなく無事だった。
そうだ。チップたちのあのデッカい木の家は、無事ニャンだろうか?
「チップ、お前らの家んとこまでニャンバラの奴らは来なかったか?」
「大丈夫だったよ。でも大事なおもちゃ、置いてきちゃった。早く帰りたいなあ……」
「ま、さっさとニャンバラの奴らを追っ払えばイイ話だ。ボクに任せとけ!」
「ゴマくん、頼もしいね! ……またマサシ兄ちゃんがいつでも来られるように、僕たちの街を守って、ゴマくん!」
マサシ……。チップがまた会いたがってた、あのニンゲン。二度とネズミの世界には来れねえとか言ってたが、ミランダの“ワープゲート”を使えば、またこっちに来れる可能性はあるはずだ。チップの願いのためにも、絶対この戦いに勝たなきゃいけねえ。
「ウチも戦う。ネズミさんの街、ウチも守りたい」
そばにいたスピカがすっくと立ち上がって、つぶやいた。そしてササッと窓の方へ行って、カーテンを開ける。
「スピカ……」
スピカは薄暗い窓の外を、ジッと見続けている。
ボクらと一緒に戦うって事はきっと……元仲間とやり合う事にもなるだろう。それは辛い事じゃねえのか。その覚悟はあるんだろうか。
ボクはそっとスピカのそばへ行った。
「おいスピカ」
「うわあっ、ゴマくん、ビックリするやん!?」
いつもの声とテンションに戻りやがった。何か言いにくくなるじゃねえかよ……まあいいか。
「……戦ってて辛くなったら、いつでもボクに言え。その、うまく言えねえが、ボクは少しでもスピカの支えに――」
最後まで言おうとした、その時だった。「ピピピ……」と、ポケットから音が鳴った。ソールさんから渡された通信機だ。よく分かんねえまま、ボクは通信機を耳にあてた。
『ゴマくん、緊急事態だ。急いで、森へ戻ってきてくれ!』
「……わ、分かった!」
まくし立てるような喋り方だった。一刻を争う事態ニャンだろう。
「スピカ、ボクは行くが……来るか?」
「もちろんや。行こ!」
玄関を出て、“地下避難施設”という巨大な街の出入り口の扉を目指す。
先を行くフォボスさん、ダイモスさんを追って、ボクとスピカは走った。