気まぐれな一歩から
『”祝福”を中心にした歌を歌うだけでもガニ達は人々を弾圧し、中には殺されたり劣悪な環境の中命を落としたりする人もいました(添付資料13 無秩序な逮捕をされる人々)。』
古びたローブを身にまとい、左手に十センチほどの杖を持ち教会の長椅子の端に足をそろえ、前かがみの姿勢で座っている男、乱れ頭は膝に色褪せた本を抱え、目を通している。窓から入る優しい光がチリチリと音をたてる中、ページに触れる音だけを指先から感じ取る。静寂の中、教会の奥の小さな木造の部屋から、か細く低い感謝の声が聞こえローブを着た男は彼のことを見た。彼に続き、一拍おいて黒い修道服を着た老人が別の出口から歩いて出た。老人はローブの男に尋ねた。
「こちらの本はどうですか。とはいっても学生が使う程度ですから、果たして満足していただけたか。図書館へ案内いたしましょうか」
「いえ、結構です。その代わりとは言ってですがもう少しここにいてもいいですか」
老いた男と若い男はそれぞれ低い声、ゆったりした口調で話す。
「暗くなるまでなら構いません、返却は元の位置にお願いします」
老人が歩かなくては時が止まっていると錯覚してしまう空間で、彼は本を読み続けた。数十分すると重い腰を持ち上げ、本棚に例の書物をしまって門へ向かう。
「お待ちください、どちらへ往くつもりですか」
優しい声が後ろから聞こえ、踵を返す。老人は続けて言い放つ。
「せめて加護の祈りだけでもさせてください、昨今物騒な事件が絶えないものでして」
ワンテンポ遅れて戸惑いながら男は返答する。
「教会の祝福なんて、私は何も寄付していないのですが」
「寄付もお金も必要ありません、利益が目的ではないので。訪れてくれた、これだけでも私は貴方をささやかながらお力添えることを願っているのです」
ローブは修道士に近づいた、修道士が首にかけてある十字架を右手で握る。ローブの男の目前に持っていく。一瞬弱い光に包まれる。
「祈りは終わりました。祈りと言っても魔法の一つですが、危険に呑まれぬようにしました。とはいえ、安全なのが一番、お気をつけて」
ローブの男は感謝を述べ、門の大きな扉を押し開けて歩いて行った。涼しい風が教会のうちに吹き込んだ。赤い空を見上げる。陽は雲に隠れ、少しの光だけ目に入る。
「この光さえも...彼と比べればただの穢れ...」
ローブの男は目が弱かった、外の明かりを直接見てしまえばその両の眼は焼けてしまうほどに脆弱な膜であった。男はサングラスで目を隠す、いささかか細い光でも拾うそれは目にかけたそれの機能を果たさせぬようである。地上の光を辿り、男は街へ歩いて行った。
宿を探し、街中を歩く。街灯と窓から照る光に目をくらましている、酒場の付近では綺麗な服に身をくるみ脂肪を蓄えた者たちが騒いでいる。ある程度歩くと宿を見つけ、彼は光の中に入っていった。サインの欄に“レイフ・チェルト”と書き諸々の作業を終え案内された部屋に入った。静寂、目には煩いほどの光が入る故か、常に静けさに強烈な違和感を覚えていた。外を数分かけて見通した後、窓を閉じ、ランプの灯を消して眠りに着こうとベッドに寝る。レイフは考えていた。
「明日は管理局へ行って、初仕事か」
早朝の陽が窓の隙間から届く、微妙なぬるさに目を覚ます。起き上がって正面にある時計を見る、六時二五分、チェックアウトの時刻まで二時間と四十分、荷物を整理し身を整えるため洗面台に向かう。鏡の下に"レイフ・チェルト"と書かれた木の板、サインインの際に指印を押したように台から十五センチの高さに位置する魔法陣に親指を置く。魔法陣から水が落ちていく、手にまとい、手で皿を作って顔にかける。『十二の祝福』は実に偉大なる力であった。昔、この国ではガニと呼ばれる祝福の力を使えない者たちが『魔女狩り』と称し、祝福を扱う者とみなされた場合、拷問や処刑に至る裁判制度があった。当時のガニも祝福を受けた者も関わらず疑いがかかると有罪になる制度に抵抗するため、祝福を受けた者達が反乱を起こし革命とつながる。そして現在に至る、レイフは『水の祝福』によって顔を洗っていた。身支度をすませレイフはチェックアウトを行う。管理者がチェックインの際に使った紙をその場で細かく破り捨てたのを見て出発した。教会と反対の方向に向かい続ける。彼は賢者の一人、エルフと言う男が管理する祝福秩序管理局へ入る。
「では、利用する祝福について、こちらの書類に記入してもらいます。当局及び他の局へ登録していない祝福の利用、また他人やその財産へ不当に害をなした場合は処分が下ることがあります。こちらの書類に禁止事項等が書いてあるため、目を通しておいてください」
直接賢者が、というより彼の分身が対応する。レイフは扱える祝福を書類に書く、『岩』、『金』、『木』、『氷』、『命』と記入し、提出した。
「これで一旦やっておきます。追加の申請はまた来ます」
「はい、どうも。生成できるタイプと、『命』ですか、じゃあ祝福を用いる際にはこちらのリングを両手首につけておいてください。また、依頼がこのデバイスを通して貴方に届きます。緊急依頼は必ず、依頼を完了した分に応じて報酬をだします」
銀色で記号が刻まれた二つのリングが目の前に置かれる。そしてエルフが言う。
「装着を私が確認したら登録完了です。それでは今日からよろしくお願いします」
管理局を出て歩くと早朝でも少しの人だかりができている。ところどころに騒いでいる人々がいたが齢十五程の少女が目に留まった。近づいて、耳を澄ますと
「前日にも後日にも試験を認めないってのに、なんで今日私を通さないわけ?」
「だから、二者の形式なんだって、孤児院出身だろ。下の子が病気にだなんて我々は君の事情なんて知らないさ、今回は運が悪かったって割って来年受ければいい、それに最年少記録もそれなら更新できるだろう」
どうやら試験の用意のいきたらなさを少女は訴えるようだった、それに対し高圧的に出るのは小太りの中年、教員だろう。レイフは興味が沸いていた、かの少女はなぜここまで壮大な力を持ち合わせるのに拒絶されるのか、そして同様になぜここまで力があるのにこの学校にこだわっているのか。感情、性格、魔力全て見える彼にとって彼女は賢者に等しかった。レイフは彼女たちに近づき口を開いた。
「それでは、私が代行を頼まれたなら通してくれるのかな」
二者は戸惑った、だがレイフは少女が承諾すればできることを止めた男の感情を見て確信していた。立て続けて男に対して言う、
「さて、規定上問題なさそうだな。通してもらおう」
渋々通されて待機室に案内され二人きりとなった。レイフはリングを通した腕を見て、次にサングラスを外し少女を見て話しかける。
「急で申し訳ない、君の保護者から管理局に依頼があって、それを偶然私が受けた形だ」
尚、半分は嘘。管理局は依頼をそのまま共有できる掲示板のようにデバイスに入力する。興味本位で近づき、偶然デバイス内で同じ顔を見つけて詳細確認したら依頼だっただけである。
「カノンだってね、素敵な名だ。孤児院の子どもたちの中でも非常に優秀だとか、聞き分けいいとか、手伝いも積極的にするとか保護者さんが言っていたよ」
「ワーデスさんでいい」
賢者を何人と生み出すこの学校の試験形式として二者を採用するのは祝福関連の教育や職業に世襲制であった時代の名残である。
「『非常に優秀』ってさ、その程度で私は足りないの。管理局の人が来たってなるとそもそも受かるかどうか、仮に受かっても不正を疑われて不利になる。この程度で折れる気はないけど、流石に疲れるしなにより腹が立つ。そういうの全部強くなって、潰す」
カノンは歯を食いしばり、不快を顔全体で示す。レイフはカノンの内情を知って、己の見込みを超える逸材にさらに興味がわく。
「強いんだな君は。優秀というのも頷ける。そんな君に私が一つで提案」
「何?」
「そこまで気張るな。カノンは強い。私が見た者の中で一番、だから普段下の子の世話をするのと、院の人を手伝うのと同じでいい。大丈夫、かならずいけるから」
「わかった気にならないで、キモイ」
男はひどく落ち込んだ。
「試験日に爆破予告が届いた?」
「はい、丁度管理局の一人が向かった学校です。いかがしますか」
「わかった。彼に『緊急依頼』を出しておく」
「私緊張してると思って、だから励まそうとしかが、無駄だったかぁ」
顔を両手で隠し、隣の少女に届かないほどか細い声をだして落ち込んでいた。かつてローブを纏い異邦人の装いだった者と同一人物とは思えないほど落ち込んでいた。それに構わずポケットのデバイスに通知が来る。エルフからの電話だった。
「依頼を遂行している間にすまないね、緊急依頼だ。どうやらそちらの学校に爆破予告が届いたらしい。君に調査を願いたい。そちらに人員を七名送った、君と同じリングをつけているから確認できるはずだ。どうか最優先で爆発物や祝福の調査、もしあった際は犯人特定につながる物品等も頼む」
レイフは一方的な指示に一瞬フリーズしたがすぐ立って待合室の扉に手をかける。
「爆破予告が届いたとうちの局に連絡が入った、危ないからことが収まるまで君はここから離れるな。僕はことを片付けたらここに戻る」
振り返ってそれじゃ、と捨てるように挨拶を行ってレイフは調査へ向かった。
この学校は六つつの校舎と南東側の校舎に隣接する時計塔、西方向の祝福演習場で構成されている。門は警備が厳重な順に南東校舎前、南西校舎前、東方向中央あたり、演習場前、演習場西の五つある。今回レイフとカノンがくぐった門は最も大きく警備の多い南東校舎前、正門。昨日も夜遅くまで警備があったのと、深夜になると門が閉じる都合上、最も大きいこの門から潜入は不可能と考えていい。サングラス濾しに見たが祝福の痕跡は一切なかった。レイフは己の眼を使って祝福の痕跡を待機室があった南中央校舎から南西、北西と順々に回り確認していく。すると演習場前の門から続く痕跡を発見した。
「足跡、新しいものだな。痕跡の方向と一致している」
レイフは痕跡を辿って途切れた位置から注意深く観察する。地中、壁、入り口、もしも手を加えたならそれが示されるものが確実にある。しかし一切見つからない。レイフは考えた。痕跡は恐らくブラフであること、学校に関連する人間の犯行、犯人が相当なやり手の可能性、もしかしたら
「レイフさん」
「はいっ、どうしましたか」
十分ほど経った頃だろうか、間近で大きい声で呼ばれ咄嗟に返答するとともに、声の方向に振り向いた。レイフより背が高く、短い髪にしわ一つない服、銀の眼鏡に細い目、若者と中年の中間、位に見える男。その男が続けて話す。
「管理局のゴードンと申します。今回貴方と共同するよう命じられておりますのでお見知りおきを」
淡々と話すゴードンとその背後にいる、一、二メートルの複数本の鎖を操るゴードンとうり二つの存在、ゴードンのオーラだ。堅実、潔白、秩序を重んじる者が生み出した歪みのない像に、レイフは関心を持ちながら答える。
「はい、よろしくお願いします。ゴードンさん」
「こちらこそ、それではレイフさん。現状報告を」
「校舎六棟の確認と、演習場の確認は完了しました。これ以外の祝福の痕跡は一切見つかりませんでした。故に爆発物の調査を開始しようとした頃合いです」
「情報提供感謝します。で私の他に来た六名について、彼らは爆発物の探知を既に開始しております。爆発の要因が祝福でないのでしたら、我々は犯人を追います。いつでも動けるよう態勢を整えておいてください」
数十分後、くまなく探知した六名の局員がやってきた。『相当するものは見つからなかった』と全員言っていた。しかし隣でゴードンは神妙な顔で考えていた。何か思いついたのかレイフの方を見た。
「レイフさん、例の痕跡、何の祝福か確認できますか?」
「演習場のところのですか、まぁ無理ではありません」
急いで向かって彼らは痕跡のもとにたどり着く。レイフは一呼吸おいてサングラスを上げる。頭が痛い、地面から光を浴びせられる感覚に目をくらまさない様注意し、痕跡を確認した。
「火、と煙ですね」
なるほど、と相槌を打ってゴードンがこめかみを丸めた指の関節でたたく。
「爆破予告と別件で侵入した者がいる可能性があります。私とレイフさんで調査を行います。貴方たちは守衛の方々と共に門を見張ってください」
ついてきてください、との指示にレイフはゴードンを追いかけて校舎の方へ向かった。
「蜃気楼、ですか」
「はい、潜入者が身を隠した方法です。煙は霧や霞に隠れるようにして潜伏しますが、そこに火の祝福が混ざることで大気の密度を熱により変化させ、煙と光の屈折の二段構えで隠れている、という予想です。しかしなぜあのような所でここまでのやり手が痕跡を残すかはわからないですが」
煙の祝福、惑わせたり、対象者をむしばんだりするのに長けた祝福。それに火の祝福で周囲の熱を操れる者。両方を併せ持った者が潜入したとゴードンは推測していた。
「しかし、骨が折れますね。透明人間を探し出せ、なんて仕事初めてです」
本来なら貴方の力でー、と続けてゴードンは言ったが途中で必要のない発言と思ったのか最後だけ伸ばして飲み込んだ。骨が折れるのがやはり事実でありレイフも少し考える。目を使わなくてもいい透明人間を探す方法、
その一、ものや人をひたすら建物に詰める。現実味もなく犯人の危険性が分からない現状、不可能、却下。
その二、塵や埃や砂とやらを廊下に撒く。空を飛べるわけではないのなら有効、但し外にいる場合や足跡さえ惑わす場合逆に利用される。そもそも広すぎて不可能、却下。
その三、学校の温度の調整。煙は散らなくても光の屈折をどうにかできる、かもしれない。広すぎるため却下。レイフは頭を冷やすため目を閉じて額に軽く握った拳の親指の関節を当てる。丁度その時、ゴードンが歩みを止めた。
「何か感じませんか?これまでなかったはずの魔力が突然集まったような」
「火、ですかね?これなら見つけられるかもしれません」
レイフは外階段に出て演習場に原因がないであろうことを確認した。
「学生や職員がいる部屋を中心に全体を見回りましょう」
彼らは今いる校舎を確認、その後最も近い校舎を隅々確認、と繰り返して遂に魔力の根源を見つけた。魔力、祝福を取り扱うことで吸収できるエネルギーであり、一定量を超えないように増幅して続け、世界に存在する。魔力を扱うことから祝福を『魔法』と呼ぶことも多い。それが溜まる場には
「いますね、透明人間。私のようなザル探知でもわかる」
レイフと比べたらザルであるからか、自虐気味に言う。実際レイフはいつもオーラの様に見えているのが普通であり今は其れより濃い人の影と本来必要な観察することなく浮かぶ像が見えていた。
「あれは爆薬を抱えた狐?」
「狐?人でないのですか」
「あ、すみません。人ですよ」
大きすぎた独り言を取り戻し神妙な顔で続けてゴードンに言った。
「透明人間が爆発します」
「透明人間が?」
とにかく、拘束しますと宣言すると彼は右の腕を前に出して手を広げる。刹那、背後に白く輝き、外周が鎖のような絵で囲われた直径約三十センチの魔法陣が展開される。そしてそれの中央から透明人間のオーラに向かって鎖が一本ずつ飛び出した。急激に五メートル以上先の目標への距離を縮め、遂に目標を超して鎖の先端は奥まで伸びて、弧を描いて手前に戻ってくる、そしてオーラの周りを先端がぐるり、ぐるり、ぐるり、ぐるりと四回転。先端が魔法陣まで帰って鎖を張る。オーラをとらえた。
「抵抗は無駄です。祝福を解除し降伏して―」
ピシッ、と小さな音、そこからヒビが広がるバリッやバキッに似た音、突然前に出した手を引っ込めて、逆の手で押さえ、膝をつき痛みに悶えるゴードン。レイフが今日一番大きいゴードンの声を聞いたときだった。ゴードンの右手は表面が割れて、ヒビが広がり続けていた。そして魔法陣が割れると同時に消える鎖。透明人間が逃げ出した。
「私は後を追います。奴のことは貴方に任せます」
冷静さを少し失い、顔に汗をかいたゴードンが声を張った。レイフは懐から杖を取り出してそれに二本の幹を生やす、らせん状に伸びて三つ編みの形状になった杖は徐々に形を変えて、口が大きくベースが木でできた銃に瞬く間に変化した。
「了解」
レイフは命の祝福を使って自身の身体能力を上昇させ、逃げる透明人間を追いかけて走った。
透明人間は逃げ続けた、廊下を走り階段へ向かうそぶり、の前に
「逃がさねぇよ」
レイフが右手に持つ元杖の例の銃の引き金を引いた。サプレッサーなどないが無音で放たれた弾丸はまっ直ぐ階段へ向かい透明人間が階段に着く前に着弾。その淡く青白く光る弾丸は一瞬で氷の壁をつくり、逃げ回る者の上下の階へ行く術を失くした。しかしその者は往生際が悪いのか、外階段に手をかける。輪郭がくっきりと見えているレイフは銃を取っ手に向けて放つ。取っ手と、透明人間の手が氷によって動かなくなった。
「さぁ、姿を表せ。あんた、当たりどこによっちゃ死ぬぞ。ただもしもしっかり狙えるならその爆弾も無力化できるぜ。まぁその場合透明化の解除、して貰わねぇとな」
例え二重の透明化だろうと魔力の集合が少しでも見えたら姿を鮮明にとらえるのだから嘘だが、それがわかる手段を相手は持ち合わせていない。さらに、この詭弁を成立させるため自分が辿った廊下も氷の壁で塞いでいる。吊りあがったような瞳孔の眼をサングラス越しに見せて、早くしないと撃つぞ、ともう一度警告する。逃げ場を失ったその者は透明化した状態でタックルしてきた、と思わせるためただの魔力の塊をレイフに対し飛ばした。レイフは全て視えていたからそれを受け流した。静寂―、強者の間合い、というより気まずい時間と圧迫され続ける時間
「てめぇ今のブラフのつもりか?」
レイフは呆れた顔で吐く。
「確かに気温冷えたからな、行けると思ったのか。見えることバレたしな、仕方ない。ここで処理する」
ブラフ撒いたのになぁ、と悔やみながら銃の引き金を引く。弾は二つに分かれて魔力の塊となって透明人間の両脚を拘束する。
「心臓付近、つけられてるだろ。跡は残るが死なないだけましと思え」
間近で再び引き金を引き、火の祝福が消えたのを確認する。体力切れか、透明化が破れた。失神した爆弾をレイフはデバイスで写真を撮り、ゴードンに送信する。
「『無力化完了』っと。カノンのとこに戻るか」
カノンの待合室の扉を開けると、ゴードンが居た。それと知らない男が一人。
「賢者になるための過程、と弊校を捉えているのですね。では少し難しい質問をしますが、あなたの目標や理想とする賢者はどなたですか」
「世襲制を失くし、現在は他国との交流の矛となったアーサーさんです。強さがすべて、ではないですが確実な武器となるため、努力の範疇である限り限界まで挑戦して己を磨き、強い賢者となる。それが私の理想です」
カノンは緊張している雰囲気は一切なく我を貫き通す。ゴードンは隣に座り、無言でいた。手に治療を施していることにレイフは安心を覚える。レイフは扉を閉じて部屋の前で待つことにした。
「私が彼女の推薦者兼保護者代理となりました。彼女が納得してくれて助かりました」
試験終了後、三人は門を出て歩きながら話していた、ゴードンは厳格さ故か一切の感情を顔に出さずカノンに感謝を述べていた。カノンは対象的に照れを隠しながらこっちも助かった、とゴードンに感謝した。
「不審者入ってたのにまさか続けるとは、対策できる学校とはいえど他にいたらどうするか。上層部がつくづく変ですね。私としては貴方が頼れる方で助かりましたよ、レイフさん」
「あ、ありがとう、ございます」
心では照れていたことろを見たカノンを少々笑っていたが、実際己が感謝されると面食らう。
「初仕事お疲れさまでした。レイフさんは私の事務作業を手伝ってください、あと、ささやかながら感謝後証で夕飯奢ります」
「わかりました」
レイフはゴードンの奨める店と聞いて上機嫌になっていた。
「カノンさんもお疲れさまでした。感激しました。貴方ならあそこに入学は容易でしょう」
「そういえば、試験のときの先生の人、あんたのこと知ってたの?」
驚いた表情をした後、ゴードンは今日初めてはにかんだ。二人は引きつった顔をする。
「兄妹ってわけではないだろうけど、なんだか似ていて。貴方たち相性よさそうですね」
更に引きつった。ゴードンは顔を変えて咳払いし失礼、と言ってレイフを引きずっていった。
「それでは、また機会があれば会いましょう。カノンさん」
「ええ、今日はありがとう」
「やはり一人だったら無理か、まぁいいや。どうせしくじる奴だろうから今処理できた、って考えたらプラマイゼロか」
全身黒のラフでゆるい服装の男がジオラマを顔が当たる寸前まで近づけて覗いていた。
「アーサーとエルフと、あとこいつもだな、レイフか。あと一年目のスーパールーキーがいたよなぁ、名前は確か、」
「グレイ・フルールです」
息詰まる事務作業の休憩にゴードンはレイフに話す。
「グレイさんは魔具使いなのですがその実力故次期賢者候補とも呼ばれています。丁度私が三年で上り詰めたここにたった一年で並んできた怪物ですよ」
グレイ・フルール、魔具を使って戦う闇の祝福を受けた者、レイフはその人を上司に持つだろう、とゴードンは話した。
「魔具使いであることと、今回の手柄について報告しておきます。あと貴方が仕留めた獲物についてですが」
レイフは椅子の背もたれに腕を乗せてゴードンの方を向き、興味津々に頷いた。
「近年勢力を増やしている犯罪組織、『ウロボロス』です。頭領は祝福の全てを扱えて、って噂もある存在です」
「貴方にはグレイさんのもとで強くなって貰いますよ。この国の命運を賭けられる程には、戦えるようになってください」
休憩を終え、事務作業に戻るゴードン、それに続いてレイフも渋々行って午後七時、彼らは書類を提出して職場を後にした。しかしゴードンは忘れものがあった、と管理局に戻っていった。管理局内、エルフが複数人に分身し、一部は依頼の整理、事務対応、二人が清掃、丁度一人依頼をこなし帰ってきたあとだろうか。ゴードンは事務対応のエルフ一人の首を鎖で捕えながら言う。
「エルフを呼べ。あのことを黙っていたよな、お前」
すみません、と言いながら諸々済ませたゴードンがレイフに追いついた。
「では初仕事完了記念、ということで行きましょう」
「でも依頼こなしたのはなんだかんだゴードンさんですよ」
自然体の二人、軽めなレイフに対し姿勢に真面目さが顕著に出るゴードン。ゴードンの足跡を追う形で、二人は賑やかな方へと向かった。




