第3話 改善の余地なし
「よし、本題だ。」
教師は飯を食べ、煙草を吸い、こちらに向かいテーブルに座る。
「お前の家庭事情は理解しているつもりだ。ただ、その中身は何も知らない。勿論言いたくなきゃ、これ以上聞かないし、詮索しない。」
「結論を述べてください。」
正直、教師の言いたい事は分かっていた。ただ言い出すのに猶予が欲しかった。
「ああ、すまない。お前はなぜそうなった?」
「なぜ、大人を見るとき…人間を見るとき、この世の中を見るとき、目に生気がないんだ?お前の行動を見ていたら分かる。人を極限まで信用していない。なぜそうなったのか教えてくれ。」
「…。そうですね。貴方は人を見る力があるんですね…。最低限理解してほしいのは、自分は甘えってことです。そしてもう一つは、これだけじゃないってことです。」教師は少し分からないような顔をしていたが自分は話を続けた。
自分の両親の事、祖母の事、中学のいじめの事、当時の彼女の事。
教師は少し考え静かに俺の話を聞き、口を開いた。
「お前は…。これだけじゃないんのか?」
「そうですね。忘れられませんけどね。」
「なるほどな。なぜお前はこんだけの事があって、自分が甘えだと思ったのか?最低限、私ならもう家に籠っているかもしれないし、自害しているかもしれない。」
初めてこんな事を言われた。というか初めて話した。何故話したかは分からない。ただ理由かは分からないが、この教師と元母は所々、似ていた。
だからこそ。いつ裏切られる恐怖が俺を襲ってくる。
「貴方は人を裏切りますか?」
何聞いてるんだろう…。俺
「ああ、そうだな。裏切るかもしれん。」
まあ人間なんだから、当たり前かとも思いつつ、驚きもした。
「まあ、ですよね。野暮なこときいてすみませんでした。」
俺が会話を終わらせようとしたら教師が食いついてきた。
「ただ、裏切ろうとして裏切る人間は腐るほどこの世の中にいる。だが、私は裏切ろうとして、人間を裏切った事はない。」
俺はバカみたいな勘違いをしていたのかもしれない。林教師と元母は違う人間だ。性格も顔もだ。当たり前ながらそれに気づけない自分がいた。
「すみません。先生。」
先生はからかうような顔をして俺に言った。
「やっと先生と言ってくれたな。お前が所々で人を信用していないのはそういうところだ。それを自然になっていることだ。」
あっ。この人はすごい。人を見る力が強すぎる。
「すみません。」
「あとそれもだ。謝罪が多すぎる。それも理由があるのか?」
「小さい頃からずっと、謝らせられることが多かったんですよ。」
いじめを受けている時も、元父に殴られる時も、自分はずっと謝っていた。
「お前はなんで俺の言うことを聞けないんだ!」
「お前何すかしてんだよ。おい、まず土下座だろ?」
俺は謝罪を自分を守る手段にしていた。俺は格闘技を習った。自分を守るため。ただ癖が出たんだな。だから俺は言う。《すいません》
「お前はもう弱くない。過去は知らんから今のお前を語るが、お前は弱くない。自分で芯を持っている。高校生でそんな人間珍しい。ただそれはだめだけどな。」
そう言い、煙草に視線を置く。
「ただ私は分かる。そこの煙草はお前の我慢の結果だろ?それを正当化するわけじゃないが、悪いのはお前をこうさせた大人が悪い。同じ大人として申し訳ない。」
初めて大人から謝罪をされた。自分ではわかっていた。そんな人ばかりではないこと。この人がいい人かもしれないこと。そんな人に謝罪をさせてしまったこと。
「やめてください。自分はなるべくしてこうなりました。」
先生は察した様子で話を聞く。
「ですが、改善はしようと思います。トラウマも過去も振り切れるように」
この時から先生は全て察していたのかもしれない。