4 真実への鍵
昼下がりの建設現場は、機械音と作業員たちの掛け声が混ざり合い、独特のリズムを刻んでいた。俺は工具店の映像に映った男、背の高い作業員を正面に捉えながら、魔石をそっと手の中で脈動させた。
「証拠ならここにある。」
俺が静かに告げると、男の表情がほんの一瞬揺らいだ。その反応を見逃すはずもなく、俺は魔石を光らせるよう念じた。
ルビー色の光が淡く広がると、周囲の空間に微細な埃が舞い上がる。光が埃に反応し、浮かび上がったのは男の服に染み付いた特殊な塗料の痕跡だった。
「これが君の関与を示す証拠だ。この塗料は、この現場でしか使われていないことをすでに確認済みだ。」
俺の言葉に、男は苦々しい笑みを浮かべた。だが、その口調は思いのほか落ち着いていた。
「だからって、それがどうした?俺がここで働いていることくらい、何の証明にもならないだろう。」
確かに、この程度では彼を真犯人として断定するには不十分だ。だが俺は、魔石の力で掴んださらなる痕跡を突きつける準備ができていた。
「問題はその服についている塗料だけじゃない。」
俺は手首の魔石を光らせ、作業員の足元に目をやった。
「君が工具を選ぶ時、左手で工具を持ち替える動作が映像に残っている。右手の指先にはわずかに塗料の粒が付着していた。それも、特定の接着剤と混ざった跡だ。」
その言葉を聞いた瞬間、男は目を細めた。
「どういうことだ?」
「接着剤だよ。君が触ったのは特殊な鏡の裏に仕掛けられた装置。その接着剤は、ここで使われている素材とは異なる種類だ。」
俺は男の動揺を見逃さず、さらに追及した。
「君はこの現場で働く作業員だが、防犯カメラの映像からもわかるように、犯行当日だけは別の場所にいた。鏡の配置を変え、防犯カメラの死角を作り出す準備をしていたんだろう。」
男は言葉を失い、しばらく俺を睨みつけていた。しかし、次の瞬間、彼は静かに口を開いた。
「…証拠がそこまで揃ってるなら、逃げ道はないな。」
そう言うと、彼は肩をすくめ、ポケットから小さな金属片を取り出した。それは小型の記録装置だった。
「これを渡しておくよ。俺の役目は、この計画の一部に過ぎない。真犯人が誰なのか、本当に知りたいなら、この記録を解読することだな。」
男の態度は潔かったが、どこか冷めた雰囲気が漂っていた。まるで、最初から計画が失敗することを予期していたかのようだった。
俺は記録装置を受け取り、魔石の光を注ぎ込むことでその中のデータを解析し始めた。そこには、薄暗い部屋で行われた秘密の会話が記録されていた。
「次の一手を打つ準備はできているな?計画を完遂すれば、全てが我々のものだ。」
低く響く声は、明らかにこの男のものではなかった。会話の背景には、微かに聖堂の鐘の音が響いている。
「なるほど、真犯人はさらに奥深く隠れているようだな。」
俺は装置をポケットにしまい、男を見据えた。
「お前の言う真犯人を追う。だが、今はお前を警察に引き渡す必要がある。」
男は無言で頷いた。その顔には、どこか安堵の表情さえ見えた。
「いいだろう。だが一つ忠告しておく。真犯人は俺たちの想像を超えた存在だ。お前のその魔石がなければ、きっと奴の足跡すら掴めないだろう。」
彼の言葉を胸に刻み、俺は警察への通報を終えた。そして次なる手がかりを求め、聖堂の鐘が響く場所へと向かう決意を固めた。