『芍薬の歌』あらすじ 3(三十九節~四十四節)
[翡翠の玉の出所である占い師の観星堂如海を気にかけつつ、画壇の宴席に出席した三浦柳吉の主観を通した短い一幕。もう一人の敵役、大間久一男爵のプロフィールが憎々しく描かれる。]
幾日かののち三浦柳吉は、画家として彼が所属する丹青倶楽部の会員が集う祝宴に出席した。
途中で先日、占い師が店を出していた場所を通ったのは、柳吉が入手した人形にも、峰のものと同じ翡翠の玉が隠されていたからである。寄り道までして玉の来歴を確かめようと思ったのだが、観星堂の姿は影も形もなかった。
遅れて着いたかと思った宴席は、まだ一座が席に着いていないありさま。というのも、当夜の主賓である名誉審査員、大間久一男爵が到着していないからだった。
やがて訪れた大間男爵と柳吉は挨拶を交わしあった。というのも亡くなった柳吉の妻は、かつて大間男爵が求婚した相手でもあったからだ。男爵から妻の死因を聞かれた柳吉は、「栄養不良です」と答えた。
「ふん、ふん、うふん、あの美人も私が方に嫁とれば、同じ殺すにしても干殺しにはせんであった」
と男爵はふんぞり返る。男爵にまとわりつく、茄子丸という渾名の、奈良時代の官服に烏帽子姿(明治22年の開校直後から採用された東京美術学校の校服で、当時ですら異様に見えた闕腋の袍は、明治29年には強制を解かれた)のお調子者のことばによると、男爵は今、四人目の結婚相手の目星をつけているという。
そのうち宴席の上座に緋毛氈が敷かれて、何やら催しが始まるらしい。茄子丸の前口上を聞いた一同は、大間男爵が義太夫をうなるのだと知ってゾッとした。
聞くに堪えない義太夫を我慢しながら、柳吉はひたすらコップ酒をがぶ飲みする。周囲の客たちもそれに倣って、コップに酒を注ぐのだった。