三巻(二十八)
通過儀礼(十)
七日後の盛春[五月]十九日。
コステラ=デイラの各所に、「ムゲリ・スラザーラの長女ハランシスクの名においてコステラ=デイラの民に与える書」ではじまる、立て札が置かれた(※1)。
前の大公[ムゲリ]の長女として、執政官[トオドジエ・コルネイア]に対し、西部州[近西州および遠西州]との融和を願うことで終わるこの立て札には、公女だけでなく、以下四名の花押も添えられていた。
侍従オルネステ・モドゥラ
執政官トオドジエ・コルネイア
西南州百騎長ホアビウ・オンデルサン
南衛府監ノルセン・サレ
執政官の花押があるということは、彼が書状の内容を了解し、西部州との和睦に動き出すことを意味していた。
それは、執政官による、今の大公[スザレ・マウロ]に対する宣戦布告であった。
都の各地で執政官派と青年[スザレ]派の角逐がはじまった最中の、新暦八九六年晩春[六月]五日、近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]が、精鋭五千を引き連れて西南州へ姿を現した。
道中、近北州軍は、[タリストン・]グブリエラの領地であるホアラを通過したが、事前の通行許可を求める近北州の使者に対して、それを拒否する力は彼になかった。
※1 高札が立った
一切の装飾性を排された、サレの筆致による文章にて、ハランシスクは明確に父ムゲリ・スラザーラの弔いを名目にしたいくさを否定し、西部州に対する寛恕の念を明らかにした。




