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三巻(二十六)

通過儀礼(八)

 サレの屋敷にある饗応の間にて、「すまない」と頭を下げる執政官[トオドジエ・コルネイア]に、彼は頭を上げろとも言わず、黙って煙管を吸い続けていた。

「事の良し悪しは別として、たいしたいくさびとだったのだな、きみも」

「……これからどうする?」

「どうするもなにも、ここまで来てしまったら、私も覚悟を決めなければならない。……公女[ハランシスク・スラザーラ]の地位のあいまいさと引きこもりなのをいいことに、コステラ=デイラを勝手気ままに遊泳して来たが、それはもはや許されない段階に来たのだろう。公女を政争に巻き込んだと言われたくはないし、政争に巻き込むことで、私も巻き込まれるのは嫌だが、ここまで来ると仕方がない」

 カンと音を立て、サレは煙管の灰を落とした。

「きみを公女に会わせる」

「会って頂けるか?」

「会わせてみせる。会わぬというのならば、私はこれ以上、公女の面倒は見ない。……そうなったら、一緒に近北州に出向こう。お互いまだ若いが、田舎で余生を過ごすのもわるくないだろう。ここまで死なずに、それなりにおいしい思いをして来たのだ。ここら辺が潮時でも満足するべきさ」

 サレの言に、執政官は目をつぶりながらしばらく黙考したのち、静かにうなづいた。

「ただね、きみ。我々だけで勝手に進めるのはまずい。摂政[ジヴァ・デウアルト]とバージェ候[ガーグ・オンデルサン]には、きみから話をつけておいてくれ。私は近北州のウベラ・ガスムンに話を通しておこう(※1)」



※1 私は近北州のウベラ・ガスムンに話を通しておこう

 それまで交流があったはずだが、これより本回顧録では、ウベラの名が頻繁に現れることになる。

 サレと近北州とのかかわりのはじまりについて、本書にて説明がないのは、早い段階でサレから接近したためと考える史家が多い。

 都での窮乏時代のサレが、自分の見知った情報をウベラへ渡す代わりに、金銭を受け取っていたと推測され、それを家名をけがす行為とサレが(とら)えた結果、本書に記すことを拒んだのであろう。

 他の者ならば気にかけるような事柄ではないようにも考えられるし、本来ならば、近北州とのかかわり合いのはじまりよりも、隠しておくべきと思われる内容が本書には記述されている。ノルセン・サレという人物の価値観は、常人とは異なっていたと言わざるを得ない。

 もちろん、単純に書く必要がないとサレが判断して、近北州とのかかわりのはじまりを省略していた可能性も残っている。

 なお、本書は、ハエルヌン・ブランクーレとウベラの両者と、深い関係にあった数少ない人物の著作であるため、近北州の歴史に関する資料としても重要である。

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