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三巻(二十五)

通過儀礼(七)

 盛春[五月]五日。

 今の大公[スザレ・マウロ]と執政官[トオドジエ・コルネイア]の任官を祝う(うたげ)が、鳥籠[宮廷]で盛大に()(おこな)われた。

 国主[ダイアネ五十五世]と公女[ハランシスク・スラザーラ]は病気を理由に欠席したが、摂政[ジヴァ・デウアルト]をはじめとした都の百官に加え、各州の使者が列席した。


 その翌日。

 薔薇園[執政府]にて、近北州の使者より、近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]の発議の内容が上申された。

 今の大公は、建白書を床に叩きつけ拒絶したが、執政官は意見を異にした。

「この世は、生きている者のためだけにあるわけではありませんが、この国難の時代、それが市井の民の安らぎにつながるのであれば、我々が受け入れがたきものを受け入れるのも、一つの手ではないかと考えます」

 薔薇園として門前払いはせず、近々上京する(むね)を伝えて来た近北公にその真意を(ただ)すことを、執政官が大公に伝えたところ、彼は髪を逆立てる勢いで、怒声を執政官に浴びせた。

「その市井の民の安らぎを妨げている最たるものが、(かく)(しゅう)(しゅう)(ぎょ)使()による州権の私物化ではないのか。それを解消するために、少なくとも前の大公[ムゲリ・スラザーラ]どのと私は、ともに手を携え、二十有余年を費やして来た。七州の(あん)(ねい)も考えずにそれに逆らい続けただけでなく、あまつさえ、ウストリレとつながる大罪を犯しているゼルベルチ[・エンドラ]なる者を許すとはどういうことであるのか。そのようなことを、摂政どのではなく、国主さまご自身が望まれていることなのか(※1)。また、前の大公どのを謀殺した男の孫を州馭使に()けるなどいう、道義にそむく、()(れん)()(きわ)まりないことを行って、執政官は七州が良き国になると思っているのか」

 今の大公の言に同調するように、モウリシア[・カスト]をはじめとした執政府高官の面々が、刺すような視線を執政官に集中させたが、彼は次のように応じた。

「大公さまのお考えはわかりました。しかし、七州の統一など、わたくしには多くの者が求めているとは思えませんが……。とにかく、一度、執政官であるわたくしの職分として、近北公の真意を確かめます。それから、この議についての可否を判断いたします。執政官であるわたくしが」

 「そのようなことをおまえにさせるために、私はおまえを執政官にしたのではない」と怒声を浴びせてきた大公に対して、執政官も怒声で反論した。

「わたくしは大公どのから執政官に任命されたわけではありません。国主さまと公女さまから職を拝命されたのです。……大公どのは前の大公さまの(かたき)()ちを望まれているようですが、本来の筋で言えば、仇討ちなどというものは、前の大公さまのご長女であらせられる公女さまのご意志により、可否が判断されるのではないのですか?」

「公女さまも私と同じ考えにちがいない。ご尊父が(しい)されたのだぞ」

 肘掛けを叩きながら断言した大公の言葉に対して、執政官が言い放った。

「そのようにおっしゃれるのならば、わたくしが公女さまにお聞きして参りましょう。前の大公さまの仇を討ちたいと考えておられるのか否か」

 そのように述べると、何をかを言おうとして言葉の出ない大公を無視して、執政官は部屋を出た。

 その場に十一名の高官がいたが、彼の後を追ったのは二名だった。



※1 摂政どのではなく、国主さまご自身が望まれていることなのか

 スザレ・マウロは、ハエルヌン・ブランクーレの発議の背後に、ジヴァ・デウアルトの存在を疑っているが、実際のところは不明。

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