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三巻(二十四)

通過儀礼(六)

 晩冬[三月]十七日、多くのみやこびとにとっては寝耳に水の話であり、少数の者にとっては来るべき時が来たことを知らせる大事件が起きた。

 近北州と遠北州の州境に位置し、両州間でゆいいつ、大軍を動かすことのできる街道上に置かれた要衝の地である、サルテン要塞を、近北州が遠北州より奪い返した(※1)。


 サルテン要塞の門を固く閉ざし、遠北公[ルファエラ・ペキ]を遠北州に閉じ込めることに成功した(※2)近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]が、西南州に対してどのような動きを見せるのかについて、みやこびとは(せん)(せん)(きょう)(きょう)としたが、次に近北公が打った手に、人々は困惑した(※3)。

 近北公は、(しゅう)(ぎょ)使()()(ざい)の状況が続いている近西州と同盟を結び、近西州と遠西州の間に立ち、両州に不戦の約定を結ばせた。

 そのうえで、(しち)(しゅう)(あん)(ねい)を理由として、コイア・ノテの嫡孫ケイカの州馭使任官と、(せん)(しょう)(あつか)いとなっているゼルベルチ[・エンドラ]の再任官を、盛春[五月]三日付けで薔薇園[執政府]に建議した。



※1 近北州が遠北州より奪い返した

 コイア・ノテの乱後の混乱時に、前の遠北州州馭使フファエラ・ペキの軍略により奪われたサルテン要塞を、ハエルヌン・ブランクーレは謀略で取り戻した。

 フファエラは要塞を占領後、その統治を遠北州の名族ホアビアーヌ家に任せていたが、その当主が思慮の浅い人物で、当初は自身が城主を務めていたところ、遠北州の州都ブルセロサから遠いことを嫌い、異母妹のルオノーレに要塞を譲ってしまった(ルオノーレがその()(ぼう)で、フファエラの後継者ルファエラを(ろう)(らく)し、自らをサルテンの代官に()けさせたとする異説もある)。

 そこで、正室の子であったルオノーレが、(しょう)(ふく)でありながら家督を継いでいた兄に思うところがあったのを突いたのが、ハエルヌンの腹心ウベラ・ガスムンであり、彼が慎重かつ粘り強く交渉を重ねた結果、ルオノーレは遠北州州馭使ルファエラ・ペキを裏切り、近北州側についてしまった。

 要塞が奪われたことにより、遠北州が大混乱に陥る中、ルオノーレの異母兄は責任を取らされ、ブルセロサにて自害した。


※2 ルファエラ・ペキを遠北州に閉じ込めることに成功した

 ハエルヌン・ブランクーレは大金を注ぎ込み、サルテン要塞の北側の防壁を強化するだけでなく、サルテン以外の間道を(ふさ)いでしまった。ルファエラ・ペキはいろいろとハエルヌンを挑発し、果ては決闘まで申し出たが、彼はいっさい取り合わなかった。

 なお、近北州と遠北州との交易については、従前と変わらずに行われた。交易を止めれば、遠北州およびルファエラを苦しめることはできたが、反ペキ派や遠北州北部オヴェイラの牧畜民の反感を買うことをハエルヌンは恐れ、交易をつづける判断をした。


※3 次に近北公が打った手に困惑した

 一連のながれについて、スザレ・マウロが発した「複雑怪奇」という言葉が、伝え聞いたみやこびとの間で流行した。

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