三巻(二十)
通過儀礼(二)
晩秋[十二月]。
遠北州のゼルベルチ[・エンドラ]のもとに人質として送られていた法務監どの[トオドジエ・コルネイア]が解放され、都にこっそりと戻って来た。西征失敗の大きな要因であったゼルベルチの約定破りは、みやこびとの強い反感を買ったが、その矛先が約定締結を担った法務監どのにも向かっていたからだった。
ゼルベルチが西南州との不戦の約定を破り、ストゥーバレ街道で執政官[スザレ・マウロ]と一戦交えることにしたとき、人質の法務監どのは殺されたものとみやこびとは思っていたが、そのようなことはなく、西征失敗後、莫大な身の代金次第では都に返すと、遠北州が薔薇園[執政府]に交渉を持ちかけて来た。
その話を聞かされた執政官は、使者の首を斬らんばかりに怒り、交渉の余地がないことを即座に断言した。
それを受けて、法務監どのの身柄は宙に浮くか、ゼルベルチに殺されるかと考えられたが、薔薇園に無断で、サレが公女[ハランシスク・スラザーラ]の名を使い、言い値通りに身の代金を肩代わりし、その身柄を都に取り戻した(※1)。
サレの勝手な振る舞いに対して、薔薇園より、執政官の名で詰問の使者が訪れたが、「何分、人の命が懸かっていることであったから、急がざるを得なかった」と、サレは弁明した。それでも使者が食い下がって来たので、サレは公女の名を出して追い払った。
その後、話を聞いた近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]、東州公[エレーニ・ゴレアーナ]、ラウザドのオルベルタ[・ローレイル]らが、それぞれ見舞金を法務監どのに渡した(※2)。
※1 その身柄を都に取り戻した
この身の代金は、ゼルベルチが反マウロ派の謀略に協力した見返りであり、西征前から取り決められていたことだったのだろう。
※2 それぞれ見舞金を法務監どのに渡した
ハエルヌン・ブランクーレ、エレーニ・ゴレアーナ、オルベルタ・ローレイルが、反マウロ派の謀略に加担していたのかは不明。単純に、トオドジエ・コルネイアへ恩を売ろうとしたものと考える史家が多勢。
なお、スザレ・マウロおよびモウリシア・カストは、第二次西征時の反マウロ派の謀略について、その事実を知らぬまま世を去った可能性がある。




