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三巻(十)

蜃気楼(十)

 二十八日午前。

 着慣れぬ正装を身にまとい、サレは(とり)(かご)[(てん)()(きゅう)]へ入った。

 広い鳥籠の無数にある庭のひとつで、摂政[ジヴァ・デウアルト]に仕える[オルネステ・]モドゥラ侍従とやり取りをしたあと、たまたま東屋で出くわしたという体裁を取り、サレは摂政と話す機会を得た。


 サレが片膝をつき、礼を示すと、侍女に茶を点てさせていた摂政は手を振り、東屋の椅子に坐るよう(うなが)した。

「よく来た。近頃は執政官[スザレ・マウロ]の目を気にしてか、私に近づいて来る者も少ない。……まあ、数などはどうでもよいと言えばよいのだがな。今日は何用だ?」

 サレは深く頭を下げてから口を開いた。

 「先日は、タリストン・グブリエラどのの(しゅう)(ぎょ)使()(にん)(かん)の願い出につき、ホアラの件に言及していただき、まことにありがとうございました。これはほんのお礼の品でございます」とサレが述べたのち、同行していたモドゥラ侍従が、一振りの刀を摂政に差し出した。

「これは?」

「私が作らせた刀の中でとくにできのよいものです」

 「ということは実戦で使う刀だな」と言いながら、摂政は手際よく刀を鞘から抜いた。

「武骨で何の飾り気もないが、それが逆に美しいな」

 「はい」と短くうなづくサレを見ながら、「よく斬れるのか」と摂政が問うた。

 「いいえ。斬れすぎる刀はいくさ場では役に立ちにくいので」と答えたサレに、「人間と同じだな」と摂政が応じた。


 摂政は刀を脇に置くと、「それで、本題は何だ」と大きな黒目の瞳でサレを見据えた。

「ホアラの件は方便で使っただけのこと。それは(なん)(えい)()()も当然承知であろう」

 市井で妖怪と呼ばれている男の言に、サレは黙ってモドゥラ侍従を見た。彼は一つ(うなづ)くと、懐から書状を出し、それを摂政に渡した。

「今日は摂政さまにお金儲けの話を持ってまいりました」

 摂政は「ほう」と言いながら書状を受け取り、中身を確かめた。

「大公[ムゲリ・スラザーラ]どのがご健在の時は、言えばいくらでも金を用立ててくれたが、執政官は渋くてな。しかし、南衛府尉も気をつけておいたほうがいいが、一度ついた浪費ぐせというのは、なかなか抜けない。困っておったところなのだ。……近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]や東州公[エレーニ・ゴレアーナ]のくれる小遣いだけでは足りなくてな」

 摂政はしばらくの間、右手を額に置いて考えたのち、「よかろう」と書状をモドゥラ侍従に返した。

「東州公[エレーニ・ゴレアーナ]への文面は南衛府尉が考えてくれ。私がそれに花押を書こう」

 摂政の言葉に対して、サレは懐に手を入れ、書状を取り出した。

「おそれながら、臣の案はこちらに」

 「気が利くことだ」と言いながら、モドゥラ侍従から書状を受け取ると、摂政は一瞥して、書状の隅に花押を記した。

「うわさに聞いていたが、無駄のないよい(しゅ)(せき)だな。南衛府尉も裏書きせよ」

 サレはモドゥラ侍従から書状を渡してもらうと、書状の裏に、花押を書いた。

「金は山分けでよいか?」

「摂政さまにお名前をお借りして五分では……」

「では、私が六で南衛府尉が四にしよう。うまく行くと良いな。いろいろと……」

 そのように言われると、サレはじっと摂政の目を見たのちに、「まことに」と応じてから、再度、深く頭を下げた。

「まあ、茶でも飲みながら、公女[ハランシスク・スラザーラ]どののラウザド行きの話でも聞かせてくれ」

 「さすが、お耳が早い」と答えたサレのまえに、侍女の手で茶碗が置かれた。乳白色の茶の色を、数瞬の間、彼はぼんやりと見つめた。

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