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三巻(四)
蜃気楼(四)
晩春[六月]二十二日。
[タリストン・]グブリエラが、手勢二千を率いてコステラ=ボランクに入京した。
華美な衣装をまとった騎兵が整然と都の大通りを駆ける姿は、コイア・ノテの乱後の混乱を収束させる者として、グブリエラに対するみやこびとの期待を高めた。
翌二十三日。
薔薇園[執政府]の名で、[タリストン・]グブリエラは東南州州馭使に任ぜられた。
国主からの勅任と執政官による任命のちがいについて(※1)、みやこびとの多数にはその違いは理解できなかったが、タリストンと摂政[ジヴァ・デウアルト]がどのような関係にあったのかについてはよくわかった。
ホアラの奪還を企てているサレが、摂政を動かして勅任を妨げたとするうわさが流れたが、彼にしてみれば迷惑千万な話であった。
※1 国主からの勅任と執政官による任命のちがいについて
当時の法学者の残した記録では、「執政官による任命というのは、勅任と僭称の中間ぐらいと見るのが妥当であろう。州馭使としての正統性を担保するのに、どれほどの効果があるのかは疑問である」と書き残されている。




