表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/322

二巻(二十八)

ウルマ=マーラ(九)

 盛春[五月]。

 昼夜構わずに工事を進め、鹿()(しゅう)(かん)の補修は終わった。

 鹿集館は、もともと大公[ムゲリ・スラザーラ]の意向を受けて、造りはさほど広くなかったが、それでも大公の従者や(あい)(しょう)たちが去り、公女[ハランシスク・スラザーラ]ひとりのために使うには広すぎた。

 それは警固上の問題にもなりうる話であったため、公女の使用する建物群と衛兵の詰め所を残して、不要な部分は破却した。

 また、鹿集館には、大公の意を()み、さまざまな果樹が植えられていたが、果樹を求めるみやこびと自身に掘り起こさせ、見晴らしを良くした。

 そのうえで、以前からある堀を深く広くし、必要なところに新しい堀を加えた。

 合わせて、塀を高くし、物見やぐらを増やした。また、剣聖[オジセン・ホランク]自ら見て回り、火縄[銃]で守りやすい工夫を各所に施した。


 剣聖とサレは、鹿集館の補修だけでは警固をするうえで不十分と考え、周辺の必要な整備も行った。

 コステラ=デイラには、コステラ河から引かれている水路が縦横に流れていたが、サレは鹿集館の周辺を流れていた水路に必要な補強をしたうえで、それぞれの橋に関所をもうけて番兵を置き、合わせて、水路の内側に住む者の詳細な名簿をつくり、不要な人の出入りを制限した。

 鹿集館の付近には、戦乱により食い詰めた者たちが多数流入していたが、サレは力づくでそれらの者を排除した。

 「公女が、(おん)()のまわりを静かで清らかであることをお求めになられている。そのご下命で我々は動いているのだ。お前たちが良心をとがめる必要はない」とサレは(りょく)()(とう)の兵に伝達した。

 これらに加えてサレは、鹿集館からの見晴らしや、防火上問題のある建物を撤去させた。


 すべての工事が終わったのちに、公女はサレの屋敷から鹿集館へ戻った。

 行きは人目を避けて深夜に移動させたが、帰りは昼過ぎに、サレの屋敷から鹿集館へ帰した。

 沿道では、公女の輿(こし)を一目見ようと多くの者が集まったが、公女のご気性に(かな)うように、みな、静かに輿の去るのを見守っていた。しかし、ある大通りにて、何者かが(※1)、「スラザーラ家、万歳」と声を上げると、それに合わせて、「万歳」の(だい)(おん)(じょう)がコステラ=デイラに鳴り響き、都における公女の権威と人気を内外に知らしめた。


 公女は改築された鹿集館、とくに(あべまき)で防音された書斎に満足され、みずらしく、サレの代筆にて、ラウザドのオルベルタ[・ローレイル]へ礼状を送った。

 衛兵は鈴をつけるのが世の(なら)いであったが、それをサレが()めさせたため、鹿集館は常に、静寂に包まれた世界になった。



※1 何者かが

 一説にはサレの手の者とのこと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ