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二巻(二十六)

ウルマ=マーラ(七)

 書状で公女[ハランシスク・スラザーラ]の下へ入ったことを知らせると、ラウザドのオルベルタ[・ローレイル]が足を引きずって、わざわざ鹿()(しゅう)(かん)にやって来てくれた。


 オルベルタは公女への献上品として、(あべまき)の材木を一室分運んできた。

 棈は音を吸うので、公女の私室に貼ればとても喜ばれると思われたので、公女に代わってサレは感謝の意を告げた。

 すると、オルベルタが公女への目通りを願ったので、「気難しい方だが、棈を張った部屋に満足されれば、首を横に振ることはないだろう」とサレは応じた。


 オルベルタが、ラウザドとしては都でいくさが起きることを危惧している旨を伝えて来たので、「自分としては、いくさが起きぬように、また、公女の身の安全を保障するために、抑止力として兵を集めているつもりだ」と答えはしたが、つづけて「だが、集めた兵をもって、モウリシア[・カスト]の首をはねてやりたいとも思っている。機会があればな」と付け加えた。それに対してオルベルタは、「いくさびとはぶっそうでいけません」と首をすくめた。


 サレとオルベルタが、工事の様子をながめながら雑談をしていると、金を借りている商人たちが面会を求めて来た。商人たちは、サレが公女の配下に入ったことで、借金を返してもらえるのではないかと期待したらしい。

 しかし、サレが次のように断言すると、気の毒なほど落胆する様子を見せた。

「公女さまからお預かりしているものから、おまえたちに金を返す気はない。毎月、公女さまから頂戴する俸給の中から返していく」


 サレが公女の財産の管理をはじめたことは、すでに都中へ知れ渡っていた。

 それを受けてサレは、銅貨一枚たりとも、不明瞭な使い方は慎むべきだと考えた。金で家名をけがしたくはなかったからだ。

 そのためにサレは、家宰どの[オリサン・クブララ]から鹿集館の宝物庫の鍵を渡されたときから、その(すい)(とう)の記録をロイズン・ムラエソに残させ、必要なときには、みやこびとに示せるようにしていた。


 サレの説明を聞き、商人たちは引き上げざるを得なかったが、それを止めたのがオルベルタであった。彼が借用書を買い取る用意があることを告げると、商人たちは喜んで、具体的な話をつめるために、オルベルタの使用人と共に場を去って行った。

 以前に、商人が保有する、サレの借用書を買い取りたい旨につき、オルベルタから話があり、サレは好きにさせていた。


 頭を下げて去り行く商人一行をながめながら、サレがオルベルタに問うた。

「何割かは知らないが、割り引いて借用書を買い取り、私が金を返せれば(もう)けにはなる。しかし、たとえば、そうだな……。私がモウリシアに殺されれば、ただの紙くずになってしまうぞ」

 そのようにサレから脅されると、オルベルタは微笑を浮かべた。

「私はあなたさまに賭けることにしたのです。賭けから降りた、先ほどの彼らの方が賢いことは認めますが……。しかし、彼らのようにやっていては、いつまで()っても大儲けはできません」


 オルベルタは利子を安くしてくれたうえに、ある時払いで許してくれていたが、その分の見返りを求めての処置であったのはとうぜんの話で、サレとしては、他の商人に借りているのとどちらが怖いかは、判別のつかない話であった。

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