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二巻(二十五)

ウルマ=マーラ(六)

 公女[ハランシスク・スラザーラ]をサレ宅に移したその日から、昼夜問わず、鹿()(しゅう)(かん)の増改築にサレは乗り出した。

 設計は剣聖[オジセン・ホランク]、現場の責任者はロイズン・ムラエソに任せた。

 合わせて、いくさや火災へそなえるために、館周辺の邪魔な建物を打ち壊す必要があったので、それを実行し、寄せられる苦情や補償金の交渉については、ゼヨジ・ボエヌに押し付けた。


 鹿集館の増改築に従事する者は、借金をしていた商人たちに話を持ち込み、集められるだけかき集めた。このために、都の(にん)(そく)の相場は跳ね上がりを見せたが、サレは一切かまわなかった(※1)。

 また、(りょく)()(とう)も人を増やさなければならなかったので、こちらは塩賊狩り時代に付き合いのある者のうちから信用できる者たちを誘った。加えて、公女の私的な空間には男を入れぬ方がよかろうと思い、ラシウ[・ホランク]ひとりでは荷が重いので、警固に仕えそうな女たちも集めた。

 どちらも公女のなまえの効果はてきめんで、必要な数がすぐにそろった。


 鹿集館の大幅な改築だけでなく、兵を集めているとなれば、薔薇園[執政府]がだまっているわけはなかった。

 だれがどう見ても、薔薇園との対立に備えた行動であるのは明白であったし、サレも隠そうとはしなかった。

 そのために、市場にて政道批判をしたときと同じく、召喚状が鹿集館のサレのもとへ届いたが、「公女さまの頭ごなしにこのようなことをされるのはいかがなものか」と、公女へ話を持って行くように使者へ伝え、召喚状を突き返した。使者は反論を試みたが、サレは多忙であったため、オントニア[オルシャンドラ・ダウロン]に命じて館外へ追い払った。


 鹿集館を改築している間、サレはときおりその様子を眺めに行くか、商人や塩賊退治の同僚だったものと打ち合わせをする以外は、ほぼ、自宅の警固の指揮を執っていた。

 サレの屋敷周辺を出歩くことを禁じられたため、近隣に住む者たちは、縁者を頼って家を空けた。怪しい者は(すい)()せずに斬れとサレが命じていたおかげで、公女がサレ家にいる間、近隣の家において空き巣の被害などは一件もなかった。


 たまにサレが公女の様子を見に行くと、母ラエの膝枕でよく寝ていた。

 サレ家にいる間、公女はたまに(かん)(しゃく)を起こしたが、ラエと()()のタレセがよく収めてくれていた。

 気に入らない侍女をすぐに辞めさせる公女であったが、タレセは問題がなかったようで、サレ家にいる間、公女の世話は彼女に任せた。

 対して、サレの妻であるライーズには気に食わないところがあったようで、ラエの指示で、公女とは顔を合わせないように生活させた。



※1 サレは一切かまわなかった

 ラウザドのオルベルタ・ローレイル宛ての書状にて、「長らく金に困った生活をしていたので、人の金とは言え、湯水のように金が使えるのは楽しい限りです」との言葉を残している。

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