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二巻(二十四)

ウルマ=マーラ(五)

 公女[ハランシスク・スラザーラ]の下につくことを決めてから、サレの動きは早かった。薔薇園[執政府]の力がさらに高まる前に、体制を整えておく必要があったからだ(※1)。


 まず、公女の名で、薔薇園から派遣されていた衛兵たちを解任し、(りょく)()(とう)をその後任に()てることにした。

 事前に薔薇園の了解を得ようとすれば、動きが滞ると判断したサレは、めんどうくさがる公女をなだめて親書を書かせ、それを根拠に「薔薇園へ問い合わせてから」という衛兵側の言を無視して、彼らを追い出そうとした。先に既成事実を作らなければならなかったので、サレは事を急いだのだった。

 衛兵側の大半は素直に従い、持ち場を離れたが、衛兵の長を中心とした一部の者たちは納得しなかったので、力づくで彼らを排除した。

 いちおう殺すなと緑衣党に命じてはおいたが、そのようにうまく行くはずはなく、衛兵側に死者が出た。しかし、運の良いことに身分の低い者たちばかりだったので、のちにモウリシア[・カスト]などがずいぶんと騒ぎ立てたが、結局は金で解決できた。

 乱戦中、侍女を通じて公女が苦情を伝えてきたが、「掃除中です」とサレは取り合わなかった。


 緑衣党による鹿()(しゅう)(かん)の制圧が終わると、家宰どの[オリサン・クブララ]に薔薇園へ出向いてもらい、執政官[スザレ・マウロ]に事後報告した。

 めずらしく執政官が声を荒げて、事の是非を問うたが、それ以上の(だい)(おん)(じょう)で家宰どのが「スラザーラの家中のことにつき、公女がお決めになった事柄を薔薇園にとやかく言われる筋合いはござらん」と言い切った。その言にモウリシアが何事か言ったが、家宰どのはモウリシアなどのような小物は相手にしなかった。

 その後、モウリシアを中心に、鹿()(しゅう)(かん)を攻める話がもちあがったようだったが、公女の親書が存在する以上、その行動には根拠がなかった。


 薔薇園がサレの動きに対して、彼らの愛する議論に時間を費やしている間に、サレは次の動きに入った。

 薔薇園側の衛兵を追い出した日の深夜、人々が寝静まる道を、緑衣党の精鋭に護衛させながら、公女を輿(こし)に乗せてサレの屋敷へ移した。公女は(よい)()りだったので、とくに文句は言わなかった。(のん)()なもので、月の様子が気になって(※2)、輿から顔を出した。そのために、サレは公女をたしなめた。



※1 体制を作っておく必要があったからだ

 八九四年に引き続き、西南州をのぞく六州の(しゅう)(ぎょ)使()が、内憂や外患への対応に忙殺されているなか、スザレ・マウロはいち早く州内を安定させた。そのスザレがさらに州内の体制を確固たるものにしようとした時、ハランシスクが標的になるとサレは考えたのであろう。


※2 月の様子が気になって

 ハランシスク・スラザーラは天文学に深い造形と関心を持っていた。

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