二巻(二十三)
ウルマ=マーラ(四)
「十日で何とかなるのか?」
鹿集館にて酒を酌み交わしながら、家宰どの[オリサン・クブララ]に問われたサレは首を振り、「なりません」と応じた。
「どうせ、ひとりではお帰りになれないのです。癇癪を起こされるでしょうが、我が母になだめてもらいましょう」
サレの答えに、家宰どのは満面の笑みで「公女さま[ハランシスク・スラザーラ]のことをよくわかっているな」と首肯した。
「大公[ムゲリ・スラザーラ]さまへのご恩返しで、できるだけのことはやるつもりだが、私も年だ。後の事は、信用できるおまえに任せたい。薔薇園[執政府]や各州の州馭使とのやりとりは私には荷が重い。……所詮、私は大公さまへの忠義だけが自慢のいくさびとだからな」
「私も同じですよ。ご期待には応えられないでしょう。ただ、頂く金銭の分だけの働きはいたします」
「それでいい。金ならいくらでもあるから、好きなだけもらえ。そして、その分働いてくれ。……そうだ。その金の管理もおまえにお願いする。私にはどう使えば公女さまのためになるのかわからん」
「そのようなことをして、執政官[スザレ・マウロ]やボルーヌ・スラザーラが黙っているでしょうか?」
「わしが黙らせる。あのような大公さまから受けた恩義をわすれた不忠者たちに、スラザーラ本家の金について、口を挟ませはしない。とくにボルーヌには」
そのように断言すると、家宰どのは姿勢を改めてサレに告げた。
「私のなまえを使って好きなようにやってくれ。取れる責任は私が取る」
言いたいことを言い終え、卓上の杯を飲み干した家宰どのに対して、サレは息をひとつ吐き出した。




