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二巻(十八)

雲行き(六)

 サレとバージェ候[ガーグ・オンデルサン]は連れ立って回廊に出た。回廊の池のまわりでは、薔薇が咲き乱れていた。

「バージェ候、ご迷惑をおかけしました」

「なに、おまえに貸しがつくれてうれしいよ。必ず倍にして返せよ」

 サレが生返事をすると、候は話を変えた。

「いや、痛快だったな。私もモウリシア・カストは好きになれない。機会があれば世の中というものをもっと教えてやってくれ」

 「いや、それはわたくしよりも、候のお仕事では?」というサレの言に、候は高笑いで返した。

「できないな。カストは執政官[スザレ・マウロ]のお気に入りだから、彼の悲しむことはしたくない。私は執政官にはずいぶんと世話になっている。……いくさびととしての彼は本当にすばらしかった。いや、今もいくさを差配させればそうそう若い者には負けないだろうが……」

「……分を越えていると?」

「それは言いすぎだよ。彼は理想家なのだよ。……間違ったな」

 サレが返答を控えていると、候が立ち止まってささやいた。

「しかし、それはおまえも同じだ。公女[ハランシスク・スラザーラ]の件、よくよく考えることだ」

「とは申しましても、薔薇園[執政府]が……」

 言いかけるサレを無視するように、候が再度歩み始めたので、サレはあわてて横についた。

「私にそういうくだらない言い訳は許さん。薔薇園など、私の一言でどうでもなる。また、おまえは分かっているだろうが、そもそも薔薇園に、公女のお決めになられたことをくつがえす権能などはないのだ。公女の傍にはべるか、夜逃げするか。そうそうに決めることだな。どちらにしても、おまえにとっては、自らの信念とやらを曲げることになるだろう。しかし、公女の近くにおまえがいれば、多くの人間が救われることになると私は考えている。すくなくとも私は助かる」

「……権力には近づきたくありません」

「それは、おまえが都にいる間は無理だな。公女がお隠れになるようなことがないかぎり。……生まれもって権力に囚われた存在なのだよ、おまえさまは」

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