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二巻(十六)

雲行き (四)

 晩秋[十二月]。

 このままでは年が越せず、信念を曲げねば夜逃げをするしかなくなったサレが、奇妙な行動に出たので、都にはとうとうサレが狂ったといううわさが流れた。


 サレは、コステラ=デイラの市場の大通りに立て札を刺すと、曲芸を披露しはじめた。

 器用に六本の小刀(※1)を投げ上げては受けるを繰り返したあと、離れたところに立っているラシウ[・ホランク]に向かって順に投げた。

 六本の小刀はすべてラシウの体をきわどく過ぎて行き、後ろに立てていた木の板に突き刺さった。

 サレが芸を終えると、人々は彼に拍手を送り、立て札の下にある木箱の中へ見物料を投げ入れた。

 サレは立て札に、次のような文句を書いておいた(※2)。


 私は西南州千騎長ヘイリプ・サレの次男ノルセンである。

 兄はかのアイリウン・サレである。

 あの無謀な西征から帰った矢先に、ホアラを東南公[タリストン・グブリエラ]に追われ、コステラ=デイラに居を構えてから、私は兵を雇い、コステラ近辺に出没する塩賊退治で西南州のために尽くしてきた。

 しかし、急に執政府から褒賞金を打ち切られ、私には家族や兵を養う金がない。

 もはや、私には、塩賊からみやこびとを守るための金がない。

 私はこの窮状を何度も執政官の側近に訴えた。

 しかし、彼は私にこう言うのみだ。

 執政府の財政に余裕がない。

 もはや塩賊の脅威は取り除かれたと。

 都の人々よ。

 立派な屋敷に住み、華美な衣服に身を包んでいる彼は私にそう言うばかりで話を聞いてくれないのだ。

 そのために、私ノルセン・サレは、幼い我が子を養うために、いまこの場所でみやこびとにつまらぬ芸を見せているのである。


 サレの訴えは広くみやこびとの間に広がった。

 サレの塩賊退治については、女子供も容赦しないやり方に非難が起きていた。

 しかし、都周辺の治安が向上していた点や、塩が値下がり、手に入りやすくなっていた点について、一定の評価も受けていた。

 そのため、サレの窮状に同情するみやこびとは少なくなかった。



※1 小刀

 サレは小刀投げを非常に得意としていた。


※2 立て札には次のような文句を書いておいた

 静かな怒りを内包した筆致が評価され、高札は高値で都の大商人に譲り渡された。現存。

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