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二巻(十)

コステラ=デイラ(十)

 塩賊退治に明け暮れる中、サレは悩みの尽きない生活を送っていたが、そのひとつが配下のオントニア[オルシャンドラ・ダウロン]であった。

 酒家で暴れる、道行く老若男女に悪さをするなど、狼藉が目に余った。常にいくさ場に置いておくことが、本人も望むところであったろうが、塩賊は常にわいているわけではなかった。


 晩夏[九月]、そのオントニアが前置きなしに、金貨を二枚欲しいなどと、そのときのサレにとっては恐ろしいことを言いだしたので、なにを買うのかと問いただしたところ、軍馬を買うという。

 軍馬にしては安いので問うてみると、「良い馬だが、ずいぶんと乱暴な馬で買い手がつかないで商人も困っている。おれがノルセン・サレの従者であることを知っていたが、売ってもいいと言っている」との答えだった。


 当時、都人の間で、サレには六つの悪名があった。

 一つ目は、乱暴者のオントニアを家臣に抱えていること。

 二つ目は、正々堂々と戦わず、偽退を得意としていること。

 三つ目は、父の遺領であるホアラを戦わずにタリストン・グブリエラに明け渡したこと。

 四つ目は、みやこびとが子供の名前につけるほど勇名が広がっていた、兄アイレウンの遺体をぞんざいに扱ったこと。

 五つ目は、西から逃げる際に、足手まといの父親を殺したのではないかという疑惑。

 そして六つ目が、西征の際に飢えていたからとは言え、馬を従者に振る舞ったこと、であった。


 これらの悪名のために、西南州でよい仕官先が見つからないなどの実害をサレは受けていたのだが、意外に、この六つ目の馬食いの件でも少なからず頭を悩ませていた。

 軍馬を扱う商人が、悪評を恐れてサレに馬を売ってくれなかったり、高値を吹っ掛けられたりしたため、いくさに必要な馬が足りていなかったのだ。

 サレは塩賊を退治する際に偽退をよく用いたが、それをうまくやり切るには騎兵が必要であった。

 サレはコステラ=デイラの顔役のひとりになっていたから、馬商人に無理強いをすれば、必要な馬を買うこともできたが、自分の信用を考えてそうはしていなかった。


 そのサレが、どうにか金を工面し、オントニアに馬を買い与えて(※1)、市場から自宅へ戻ってみると、剣聖[オジセン・ホランク]がみすぼらしい姿の少女を連れて、彼を待っていた。



※1 オントニアに馬を買い与えて

 その後、オルシャンドラ・ダウロンはうれしさのあまり、買ったばかりの馬で都を一周し、あやうく馬を乗り潰すところであったとのこと。

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