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二巻(九)

コステラ=デイラ(九)

 公女[ハランシスク・スラザーラ]の護衛においては、侍女へ卑猥な言葉をかけて、鹿()(しゅう)(かん)の警固を外された者はいたが、とうとう公女の顔を見たいと考えた不逞の輩が、出入りを禁じられていた彼女の私室に侵入する事件が起きた。


 事を起こした兵は、激怒したバージェ候[ガーグ・オンデルサン]によって首を斬られた。

 候は、自身の兵に館の警固を譲るように執政官[スザレ・マウロ]に迫ったが、彼はそれを拒み、館の警固は彼の従者のまま、人員を刷新することで決着をつけた。

 その際、執政官がお詫びを言上しようと鹿集館へ出向いたが、公女は面会を許さなかった。公女に自らの権威を示すような思惑などがとくにあったわけではなく、常の人見知りのせいであったろうが、みやこびとは騒ぎ立て、執政官が公女をどうするつもりなのか、もしくは、公女が執政官をどうするつもりなのかについてうわさしあった。

 この一件から、薔薇園[執政府]はみやこびとに対する公女の権威を見せつけられた。しかし、それによって、彼女への対応を改めるようなことはしなかった。


 この頃、近西州はコイア・ノテの乱後の混乱から脱し切れておらず、近北州は遠北州との角逐に忙殺されていた。それに加えて、東南州では、タリストン・グブリエラの統治を認めぬ旧勢力が騒ぎ立てており、東部州でも同じく、病死した父親の後を襲った東州公(※1)とそれをよく思わない勢力の間で内紛が起きていた。

 領地を囲む各州が混乱状態にある中で、西南州は小康状態にあったわけだが、そこで手を打ち、各州の混乱が収まった後に備えるべきであった。しかし、この公女の扱いを含めて、ことなかれでほとんどのことを放置した。そして、その代わりに、余った時間でろくでもないことをはじめようとした。


 サレはときおり、公女のご機嫌伺いに出向き、そのぐちを聞き、自ら仕入れた公女の好みそうな雑談をした。

 この行動には、公女を警固している、(しっ)(せい)(かん)()()の兵に対する牽制の意味もあった。

 警固の兵たちは、サレの(りょく)()(とう)と警固を入れ替えるという、サレが都に流したうわさ話を気にして、公女を満足させるものではなかったが、狼藉を控えるようになっていた。

 警固の兵にはスラザーラ家からも給金が出ており、実入りの良い仕事であったので、それを失いたくなかったのだ。



※1 東州公

 ボンテ・ゴレアーナの長女エレーニのこと。

 母はムゲリ・スラザーラの姉。ハランシクは従妹(いとこ)にあたる。ゴレアーナ家の(じょ)婿(せい)である父から生前より尊重されており、その右腕として政務についていた。

 また、その利発さと美貌のため、生前のムゲリ・スラザーラから娘のようにかわいがられていたとのこと。

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