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一巻(三十)

ホアラ(五)

 晩冬[三月]五日の午前中に、サレはホアラを明け渡すことになり、前日の四日から、サレ家は退去の準備をおこなった。

 ホアラの長老に、帳簿一式と武器を収めた倉の鍵を渡し、また、ホアラ近郊で待機している学者どの[イアンデルレブ・ルモサ]の軍に、略奪や狼藉を防ぐため、兵糧を譲った。

 同行を願う者は意外に多かったが、全員を食わせる力はサレにはなかったので、家族を除けば、ポドレ・ハラグ、オントニア[オルシャンドラ・ダウロン]、ゼヨジ・ボエヌ、ロイズン・ムラエソ、オーグ[・ラーゾ]に、耕す畑のない若者を加えて、供の数は二十人に収めた。

 サレの母ラエがいい年をして、都行きを無邪気に喜んでいるとなりで、臨月の近づいている妻のライーズは辛そうであった。

 その様を見ながら、サレがハラグにつぶやいた。

「父上と兄上にはわるいが、私には重すぎる、ホアラという荷物がなくなって、個人的には気が楽になった。しかし、ライーズに旅をさせるのは心苦しい。……それにしてもタリストン・グブリエラは許せん。機会があればこの借りは返さねばならないな。いくさびとの端くれとして」


 サレが出立の時刻を偽り、予定より早く南へ向かって旅立ったので、見送る者はまばらであった(※1)。



※1 見送る者はまばらであった

 サレがホアラを維持するのは、名目的にも軍事的にもむずかしく、無用な戦いを避けたことは評価されるべきであったが、この判断は、いくさびととして軟弱な印象をみやこびとに与え、さらに彼の評判を落とした。

 東南州のタリストン・グブリエラを、近北州のハエルヌン・ブランクーレに牽制させることで、ホアラを維持する方策もあったとする者もいるが、それはホアラを両者のいくさ場とする可能性を含んだ、危険な賭けであった。

 また、このホアラ時代から、ノルセンがハエルヌンと連絡を取り合っていたとする説もあり、それを否定する材料はないが、ホアラを簡単に手放したことを考えると、深い関係性はなかったと考えられる。この点、タリストン、ハエルヌンの両者に(くみ)せず、ホアラの名目的な帰属先である執政府にのみ、ホアラの今後についての交渉を行っていたのは形式的過ぎて、サレの政治的感覚の若さが出ていた。

 なお、このホアラ進攻により、タリストンはハエルヌンの心証をひどく害し、これは後々まで響いた。

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