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一巻(二十七)

ホアラ(二)

 ホアラはその地形上、守りにくい場所にあり、また、居住地を囲んでいる防壁も整備が行き届いていなかった。

 ヘイリプ[・サレ]は大公[ムゲリ・スラザーラ]に防壁の整備を願い出ていた。しかし、大公にどのような意図があったかは今となっては不明だが、許可が下りていなかった(※1)。


 他に人物がいないので、野盗から家族や知人を守るために、残兵五百有余でホアラを守らなければならなくなったノルセン[・サレ]は、防壁の整備を進めたかったが、それに当てる資材がなかった(※2)。

 これからのホアラの統治をどうするのか。自分を代官にするのか、それともだれかを派遣してくれるのか。

 この点の指示を、サレは都の薔薇園[執政府](※3)に求めたが、このとき、都は大公を失って大混乱に陥っており、サレが使者に立てたゼヨジ・ボエヌは、そもそもだれに話を持っていけばよいのかすら、わからない始末であった。


 代官を自称する方法もあったが、サレの西征における良くないうわさのために、彼には人望がなく、勝手に名乗って事を進めた結果について問題があったとき、すべての責任を負わされる可能性があり、彼としては、それは避けたかった。それでは、サレ家の資産で賄えなかったのかといえば、その金がなかった。


 ホアラに戻ったノルセンは、自宅で家族の無事を確認したのち、ロイズン・ムラエソとふたりで、秘密の地下室へ向かったが、そこには、西征から逃げ帰っていたとき以上の絶望が、彼を待っていた。

 金銭はほとんどなく、あるのは塩券(※4)と借金の借用書ばかりであった。

 ヘイリプは、西征で入用のため、家の金銭をほとんど近西州に持ち込んでいた。それは、彼の西征にかける意気込みを示していたわけだが、結果、その行為は完全に裏目に出てしまった。

 「遠西州の兵士や野盗に金を配るために、我々はわざわざ彼の地まで出かけたようなものですね」とムラエソは評したが、その通りであった。


 しかし、ヘイリプは、前の大公の側近であり、要衝であるホアラの代官であったので、行軍に必要な金銭を十分に蓄えることはでき、また、家にも十分、金銭を残しておくことは可能であった。それができなかったのは、他の側近ともども、大公に勧められて、金銭を塩券に換えていたためであった。

 西征が成功していれば、七州の為政の安定により、塩券の価格は値上がりし、サレ家は家格に過ぎた資産を得ていただろう。しかし、大公の死を受けて、サレがホアラを守っている間に、塩券は価値を大きく損ね、売るに売れない代物に陥っていた。


 ヘイリプは、自らの出世も含めて、西征にサレ家のすべてを賭け、失敗した。そして、そのつけを、次男のノルセンが一身に背負うことになったのだった。



※1 許可が下りなかった

 自らに降ったばかりの(きん)(ほく)(しゅう)(しゅう)(ぎょ)使()ハエルヌン・ブランクーレに配慮したというのが有力だが、その説にも疑問が残る。


※2 それに当てる資材がなかった

 サレは代官ではなかったので、法にのっとり、資材を強制的に集めることはできなかった。


※3 薔薇園[執政府]

 執政府は、西南州および都であるコステラを管理する行政組織で、コステラ=ボランクに置かれており、執政官を長とした。

 執政官はもともと国主を()(ひつ)して、全州の管理を統括する役職であったが、デウアルト家の権威が失われる中で役割が変質し、ムゲリ・スラザーラが権力を握ると、その(かん)(かつ)は西南州内に限定され、職務が重なる西南州州馭使は廃止された。そして、執政官が本来担っていた役割は、非常職の(しゅう)(ぎょ)(かん)((たい)(こう))が担うことになった。

 なお、執政官が薔薇園館にて執務を行っていたことから、執政府は、「薔薇園」「(お)花畑」と通称された。


※4 塩券

 塩券は、これを各州にある塩売所に持って行けば、塩と交換することができた券。

 一枚で交換される塩の量は(いっ)(たん)(ぶん)であり、実際に交換するのは塩問屋だけであったが、しだいに金銭と並んで決済で使われるようになった。

 七州において安価で塩を生産できるのは、南部州(西南州および東南州)の沿岸部のみであり、一部の例外を除いて、塩券の発行は都を統治する執政官にのみ許される行為であった。

 よって、西南州の統治が乱れて塩の生産が落ちたり、執政官が塩券の発行を乱発したりすれば、塩券の価値は下がった。

 西征以前、ムゲリ・スラザーラにより西南州の統治が安定していたときは、塩券の値も同じく落ち着いていたが、その死と共に大暴落した。

 都の政務の一端を担ったとき、塩券の価値を元に戻すことにノルセン・サレは奔走し、塩の安定供給を妨げる塩賊に対して、悪名高い苛烈な処置を取った。それを単に自己の財産を守るためだけだったと(とら)えると、サレという人物を読みまちがえる。彼の行動原理は一貫して、サレ家の復興にあり、ムゲリに言われるままに塩券を過分に購入し、貯めた俸給を紙くず同然にしてしまった父へイリプの汚名をはらす、という意味合いもあったと考えられる。

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