一巻(二十四)
西征(二十四)
オーグ[・ラーゾ]の案内で西に進んだ五人が、三日をかけて山から降りたとき、その姿は見るに堪えないものになっていた。
「近西州の残党か。何用でこのようなところにいる」
彼らを見つけた兵たちが遠巻きに槍をかまえる中、その隊長が叫んだ。
オーグを後ろに下がらせると、サレは握力を失いつつある手でどうにか刀を抜いた。
ポドレ・ハラグ、ゼヨジ・ボエヌ、ロイズン・ムラエソも似たようなものであったが、オントニア[オルシャンドラ・ダウロン]だけはまだ余力があるように見えた。
両者がにらみ合う中、ボエヌが相手方に「失礼だが、どこのご家中の方々か」とたずねたところ、オンデルサン家の者と返答があった。
ボエヌはサレと顔を見合わせたあと、さらに「重ねて失礼だが、オンデルサン家のどなたのご家臣か」と問うた。
オンデルサン家の隊長が「我々はホアビウ・オンデルサンの直臣だが、そちらはどこのご家中か」と口にしたところで、サレは刀を放り投げ、地へ仰向けになりながら「助かった」と万感の思いを込めてつぶやいた。もはや大きな声を出す気力は彼になかった。
「我々は西南州千騎長ヘイリプ・サレの次男ノルセンの指揮する一行です。ノルセンの妻ライーズは、ご家中のウリゼエ家の出身です。近西州の豪族に襲われたのち、山岳地帯を越えて逃れて来ました。ぜひ、ホアビウ殿にお目通りを」
ノルセンの代わりにボエヌが応じると、隊長の合図を受けてオンデルサン家の者たちは武器を収めた。
「そこで仰向けになっておられる方が、ノルセン・サレさまでよろしいか」と隊長がたずねると、ボエヌは黙って頷いた。
オンデルサン家の者の中に、都でサレを見たことのある者がおり、異臭に耐えながら、その顔を確かめたが、ひげ面のために判別がつかなかった。それを感じ取ったサレは急いで、髭を小刀でそり落とした。
その様子をみて、兵士が隊長に向かってひとつ頷くと、彼は告げた。
「わかりました。とりあえずホアビウさまにお伝えしてきます。それまではこのあたりでお待ちください。少し歩けば川がありますぞ」
水と食料を六人に渡すように命じたのち、隊長が場を去ると、サレは転がったまま、オンデルサン家の兵たちに声をかけた。「だれか、タバコを持っていないか」と。
与えられた幕舎の中でサレがひとりタバコを吸っていると、ホアビウ・オンデルサンが中に入って来た。
「前の西南州左騎射ガーグ・オンデルサンの長男ホアビウです。よくぞ、ご無事で。お見かけしたことは何度かあるが、お話しするのはこれが初めてでよろしいですか?」
サレも名乗ってから、少し間をおいてたずねた。
「ぶしつけながらお尋ねしますが、ご家中はいま?(※1)」
「……ばかな弟です。大公[ムゲリ・スラザーラ]さまの死を受けて、父が家督を取り戻そうとすると思い込んで暗殺を企て、それが失敗すると兵を起こしました。いくさ場にほとんど出たことのない者が父に勝てるわけがないのに。結果、敗死です」
「それは……」と言ったまま、サレは次の言葉がでなかった。
「あなたさまの兄上のご最後は聞き及んでおりますが、お父上は?」
問いかけに、サレが大きく首を横に振ると、今度はオンデルサンが黙り込んだ。
※1 ご家中はいま?
オンデルサン家はガーグ・オンデルサンが隠居を強制され、次男が家督を継いでいた。




