一巻(二十)
西征(二十)
その後も、国道を避け、山中の村落を転々としながら、ノルセン[・サレ]一行は西南州を目指した。
村には泊まれなかったり、泊まるのを避けたりしたこともあったが、何とか東進を続けることができた。
「おまえさんは交渉というものがよくわかっている。相手に与える物は少なすぎてもだめだし、多すぎてもいけない」
泊めてくれたある村の長老がゼヨジ・ボエヌをそのように褒めた。
その交渉を行う上で、ボエヌはノルセンからいくつか注意を受けていた。
適切な対価を必ず、無理やりにでも渡すこと。
争いになりそうな場合は引くこと。
村の女を近づけさせないこと。
ノルセン一行は確実に西南州へ近づいていたが、州境を前にして、その数はとうとう十人にまで減っていた。
山賊の襲来で死んだり、村に留まることを選んだり、悲観して首を吊ったりと、理由は様々であった。その中には、ノルセンが生まれた時から見知った顔もいた。
次はだれかと考えている最中、当のノルセンが倒れた。
「剣聖[オジセン・ホランク]との修行で何度か死にかけても生き残った身だ。これくらいの難事は何でもない」と言っていたノルセンだったが、山中で喉が渇いたあまりに泥水を啜った結果、熱に襲われ、オントニア[オルシャンドラ・ダウロン]の背中を借りる身に陥った。
ノルセンの母親であるラエはどういうわけか、長男アイリウンを愛さず、次男ノルセンを溺愛した。しかし、甘やかしはしなかった。
女傑と呼んでいいこの女性は、都にて剣聖の知遇を得ると、彼のたまった酒代を払う代わりに、十歳の次男を弟子にしてもらった。
「これまでどれも話を断って、私は弟子という者をもったことがない。私の修行は才がなければ死ぬかもしれんが、それでもよろしいか」という剣聖の条件をラエは呑んだ。
「それまでの人間でしかないのならば、早く死んだ方がこの子のためです」
そう言い放った母の言を、ノルセンは長じてからも夢でよく聞いた。




