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一巻(十四)

西征(十四)

 近西州は、前の大公[ムゲリ・スラザーラ]の命を受けた老公[コイア・ノテ]が旧勢力を駆逐し、大公から与えられた領地であった。

 老公の善政もあり、彼が乱を起こす前はよく収まっていたが、事後は旧勢力が息を吹き返し、西征軍に襲いかかって来た。

 また、大公は西征において、糧秣の徴収はしたが、一切の略奪を許しておらず、百姓たちは協力的であったが、それもひっくり返り、西征軍の帰路を妨げた。

 それをどうにか撃退し、一息ついたサレ軍が兵の数を調べてみると、指揮官であるヘイリプ[・サレ]のもとに残ったのは、四百を満たなかった。


 休息を終えて出発する段になると、新たな問題が生じた。

 大公により、新規にサレ家に加えられていたいくさびとたちが、国道をそのまま進むべしと主張したのに対して、ノルセン[・サレ]は大きな道を避けて、北側の山道を通るほうがよいとした。

 国道ならば短い距離で西南州へ戻ることができたが、敵兵の襲来が予想された。対して山道の場合は遠回りになり、道も険しいが、その分、敵に発見される可能性は減った。

 そこで、議論をしている暇はないと判断したノルセンは二手に分かれて退却することを決断した。

 四百人のうち、ノルセンに従う者は、長らくサレ家に仕えていた者が大半で、その数は三十四名であった。その他の者は国道を選んだ。

 サレ軍の会計を担っていたロイズン・ムラエソ(※1)が運よく生き残っていたので、彼がもっていた金貨の大半を、ノルセンは国道を進む者たちの代表者に渡した。

 先に去り行く彼らを見送るノルセンに、声をかけたのはポドレ・ハラグだった。

「よろしかったのですか?」

「いいさ。いまの状況では、同行者は少ないほうがいい。目立つからな。それに、よく知らない者たちと一緒に逃げたくはない」

 ノルセンはこれから上る山を見ながら話をつづけた。

「とは言え、楽な逃げ道ではなく、生き残る確率がいちばん高い道を進むべきだとは思うがな。本当のいくさびととは、そういうものではないのかな」(※2)

 ノルセンは父ヘイリプの鎧を脱がせ、自分もそうしたところ、彼に倣う者もいれば、鎧兜のままで山に入る者もいた。

 馬はオントニア[オルシャンドラ・ダウロン]が盗んだ一匹だけで、それに食糧と水、いくさ場で拾った金目のものを積み、ヘイリプは余力のある者が交替で背負っていくことにした。



※1 ロイズン・ムラエソ

 計算に優れ、サレ家の会計係を長らく務めた。また、会計に関する著作で広く知られた。サレ家の金回りについて、ノルセン・サレと苦労をともにした。


※2 本当のいくさびととは、そういうものではないのかな

 国道を進んだ一行は山賊により皆殺しとなった。一説には、山賊に遭遇したノルセンが自身の難を逃れるため、大金を保有していることを密告したとある。

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