一巻(八・九)
西征(八)
西征(九)
○西征(八)
晩夏[九月]三日深夜。
月明かりの下で、火矢をサレ家の兵舎に向かって打ちこもうとした[ソルジエ・]コミラの兵は、その前にアイリウン指揮下の兵に先手を打たれ、射殺された。
そこからは一方的な殺戮となり、コミラはアイリウンに手ずから斬られてしまい、反乱は未然に防がれた。コミラの残兵は四方に散っていった。
ノルセンは大公[ムゲリ・スラザーラ]から預かった将兵たちに事情を説明する役を任されていたので、この夜戦には参加しなかった。
西征(九)
晩夏[九月]四日早朝。
ヘイリプ・サレの幕舎の中で、彼と、大公から預かっていた兵一千の指揮官との間で口論が起きた。
夜襲のことを知らされていなかったことに、大公の死の一報が加わり、感情的になっていた指揮官に対して、ヘイリプは冷徹な物言いで応酬した。
結果、指揮官はヘイリプのもとで行動することを拒否し、早々に撤退する旨を口にすると、ヘイリプの幕舎から姿を消した。
「よろしいのですか、父上。兵の三分の一を失うことになりますが?」
「そのほうがよいのだ、ノルセン。彼らの後ろについていき、辺りの状況を探ろう」
「……おとり、ということですね」
ヘイリプは次男の肩を一つ叩くと、「さて、何人が生き残って、ホアラの地を踏めるかな」と言い残し、幕舎の外へ出て行った。




