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四巻(五十)

ハランシク・スラザーラ(四)

 公女[ハランシク・スラザーラ]が、国主[ダイアネ五十五世]の私室に呼ばれている間、サレは控えの間の末席で待機していた。

 その場には、大貴族や女官に混じって、摂政[ジヴァ・デウアルト]も詰めていたが、型どおりのあいさつ以外の会話を、ふたりは交わそうとはしなかった。

 二人きりであったのならば、また話はちがっただろうが、他の者の手前、余計なことを話して、ふたりがつながっている、何かを謀っていると思われるのを、サレは避けたかった。そして、それは摂政も同じであっただろう。


 公女の従僕として、サレは(とり)(かご)[(てん)()(きゅう)]に来たのだから、余計なことをするのは(きょく)(りょく)(つつし)むべきであったが、[トオドジエ・]コルネイアのことは友人として心配していたので、自分の傍にいた女官に、さりげなく、彼の消息をたずねた。

 すると、女官は摂政を(いち)(べつ)したのち、「宮廷内で心安らかにお暮らしです」とのみ答えてから、これ以上、サレの近くいることを危険と判断してか、別の場所へ移動していった。

 女官の見せた、ほんのわずかな動揺から、サレがなにかあったなと感じ取った時、廊下から足音がして、公女が室内へ入って来た。


「私闘をやめさせる(みことのり)が出た。これが、お前に対する(しょう)(しょ)だ」

 場がざわめく中、公女が詔書を投げ捨てるようにサレへ渡すと、その考えられぬ行為に、大貴族や官女たちは、半ば(ぼう)(ぜん)(てい)で公女を見た。

 常ならば、彼女をたしなめるところであったが、それどころではなかったので、サレは急いで詔書の中身を確認した。

 弱々しい女手で記されていた文章を読み終えたサレは、「()(ぼく)の約定についてまったく書かれておりませぬが?」と、摂政へも聞こえるように、公女へたずねた。

「そんなものは知らん。スザルとおまえで決めることだろう。大砲の音さえどうにかしてくれれば、私から注文はないよ」

 サレは、「はあ」と一言応じてから立ち上がり、摂政へ詔書を渡した。


 摂政は無表情で詔書を受け取ると、すばやく一読してから、サレに向かって、「まちがいがあってはならぬから、念のため、私が()(こころ)を確かめてくる。公女どのには、この場でお待ちいただくように」と告げ、従者が近寄って来たのを手で払い、ひとりで部屋を出て行った。

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