表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/322

四巻(三十二)

雪、とけて(一)

 初春[四月]、近北州を(おお)っていた雪はとけた。

 しかし、西南州に近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]の兵は現れなかった。

 北部州の雪がとけると同時に、遠北公[ルファエラ・ペキ]が持てる兵力を総動員して、ルオノーレ・ホアビアーヌの(こも)る「巨人の口」[サルテン要塞]を攻め立てたためであった(※1)。

 こうなってしまうと近北公は、西南州のサレや[トオドジエ・]コルネイアのことなどはすっかり忘れてしまい、ホアビアーヌを助けることに精力を集中しはじめた。


 四月十三日、遠北公の挙兵に合わせて、モウリシア[・カスト]が、「執政官を(せん)(しょう)しつづけるトオドジエを討つ」という名目で、コステラ=デイラに対して、いくさを仕掛けて来た。

 遠北公とモウリシアが手を結んでいたのは明白であった(※2)。


 完全に虚を突かれたサレは初動こそもたついたが、コステラ=デイラ内部で、モウリシアのために兵を起こした者たちを何とか鎮圧しながら(※3)、内部に侵入したモウリシア率いる(せき)()(とう)を退けた。


 コステラ=デイラ内の安全を確保した(りょく)()(とう)は、続けて、あらかじめ定めておいたとおりに、(ろう)(じょう)の手配を進めた。

 ひとつ、サレにとって想定外だったのは、公女[ハランシク・スラザーラ]を落ち着かせるために、彼女の側へ置いておきたかった家宰どの[オリサン・クブララ]が、病気療養のために領地へ戻っていた間に、いくさが始まってしまったことだった。


 どうにか、サレがモウリシアの攻撃の第一波を防ぐことができたのは、コステラ=デイラ攻めに対する、今の大公[スザレ・マウロ]の消極性にあった。

 モウリシアの指揮下にある赤衣党の出兵は黙認したが、公女に直接、刃を向けることを嫌った大公は、彼の指揮下にある兵の動員は拒んだ(※4)。

 攻撃の失敗と、大公の消極性のために破滅を免れた(むね)をサレが(けん)(でん)したため、大公とモウリシアの仲にひびが入った(※5)。



※1 「巨人の口」[サルテン要塞]を攻め立てたためであった

 現在、第三次サルテンの戦いと呼ばれるいくさのこと。


※2 遠北公とモウリシアが手を結んでいたのは明白であった

 サレの(あく)(へき)として、モウリシア・カストの能力を軽んじたために、(きゅう)()へ立たされた事例が目立つ。

 モウリシアが主導した、第一次大掃討および、今回の遠北公との同盟について、事前に何らかの情報を得ていたはずなのに、モウリシアのすることと放置していたきらいがある。

 本回顧録だけではなく、他の史料を参照してモウリシアの実像を検証すれば、スザレ・マウロに忠誠を尽くす、有能ないくさびとの姿が浮かび上がってくる。


※3 何とか鎮圧しながら

 モウリシア・カストの同調者たちが、緑衣党の姿で暴動を起こしたので、緑衣党で同士討ちが起こるなど、かなり混乱をきたしたもよう。

 この件を受けて、後日、サレは緑衣党の衣服を改め、また、その管理を徹底した。現在、我々が挿絵などで確認できる緑衣党の姿は、この改められたものである。


※4 彼の指揮下にある兵の動員は拒んだ

 ハランシスク(うん)(ぬん)のくだりを誤りだとは言い切れないが、スザレ・マウロが直属の兵を動かさなかった理由は、ルンシ・サルヴィ率いる塩賊への対応のためであろう。

 間接的に、サレは生涯の敵である塩賊に助けられた格好だったが、それを回顧録に書くわけにはいかなかったと考えられる。

 一方のサルヴィは、後日、一連の事情を知ると、良識派と青年派の対立に乗じて兵を起こさず、その成り行きを傍観するべきであったと、生涯悔やんだ。


※5 大公とモウリシアの仲にひびが入った

 スザレ・マウロとモウリシア・カストの関係は最後まで良好だったが、この頃から、両者の側近間の対立が激しくなり、青年派内に動揺をもたらした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ