四巻(二十四)
都、狂い乱れて(六)
サレが公女[ハランシスク・スラザーラ]の私室から長い廊下に出ると、緑衣党の面々が彼を待ち構えていた。
「公女の花押はいただいた。木版の草稿はできているか?」
問いかけに配下の一人が紙を差し出してきたので、それを歩きながらすばやく確認すると、サレは「よし。手はず通りに急いで刷らせて、コステラ=デイラ中にばらまけ。布告を出せ」と言い、草稿を返した。草稿を受け取った男は、ここがいくさ場であるかのように、血相を変えて、走り去って行った。
次々と指示を仰いでくる部下の言を裁きながら、鹿集館の玄関を目指すサレの横には、オーグ[・ラーゾ]が張り付いていた。
「戒厳令が広まったら、外をうろついていれば、人間だろうが家畜だろうが、怪しいものは斬り捨てさせろ。……あとは火事だ。火事が怖い。しまったな。布告文に書いておけばよかった。まあいい。住民たちにも注意させろ」
「はい。承知しました。みなに伝えます」
「ロイズン[・ムラエソ]をラウザドに出向かせて、オルベルタ[・ローレイル]を安心させろ。徳政令など、ノルセン・サレは絶対に認めないとな」
「承知しました。ムラエソさまにお伝えいたします」
「バージェ[ガーグ・オンデルサン]候。そう、バージェ候だ。ゼヨジ[・ボエヌ]に、候の動きを探らせろ」
「候を直接お訪ねしますか?」
「いや、候にはなるべく会うな。百騎長[ガーグ・オンデルサン]に様子をたずねろ」
「はい。お伝えします。……ところで、財物は屋敷に残したままでよろしいのでしょうか。鹿集館に移しては?」
提案に対してサレは、「それも考えたが、外聞がわるい」と言ったのちに、オーグへ体を近づけ、「みやこびとに動揺していると思われる」とささやいた。
「それから、あとは大橋の警固だな、オーグ」
「それならば、オルシャンドラ[・ダウロン]さまがずいぶんと張り切っておられましたが」とオーグが答えると、サレは一瞬立ち止まって、「それは怖い」と応じた。
「ポドレ[・ハラグ]を監視につけるか。いや、ポドレは私の屋敷に置いたままにしておきたい。どうするか。……仕方がない。おまえは私の手元に残しておきたかったが、オントニア[オルシャンドラ・ダウロン」の手綱を握っていろ。けっして、橋を渡らせるな。赤衣党と揉めるつもりはない]
「……努力はいたします」
煮え切らないオーグの返答をサレは責めることなく、「困ったものだ」とすこしあきらめた口調で言いながら、若者の頭に手を置いた。




